第045話 極振りヒーラー、巨大魚に飲み込まれる
夜が明け、朝日が洞穴の入口から差し込んできた。
ヒマワリは見張りを終え、眠っているステラの肩を軽く揺する。
「ステラ、起きて。朝だよ」
「んー……おはよう、ヒマワリちゃん……」
ヒマワリの穏やかな声に促され、ステラは「んー……」と声を漏らしながら大きく伸びをする。
「よく眠れた?」
「うん。ヒマワリちゃんは?見張り、大丈夫だった?」
「問題なかったよ。モンスターも来なかったし」
二人は洞穴を出て、朝の空気を吸い込んだ。
「さて……今日はどこを探索しようか?」
ヒマワリが地図を広げる。
「川に沿って下流に向かってみない?何かあるかもしれないし」
「いいね!行ってみよう!」
二人は川に沿って歩き始めた。
川を下り、やがて辿り着いたのは、鏡のように空を映し出す広大な湖だった。
「わぁ……すごい!大きな湖だ!」
ステラが目を輝かせる。
湖は透き通った青色で、底まで見えそうなほど澄んでいた。
魚が泳ぎ、水草が揺れ、小さな生き物たちが湖の中を行き交っている。
「きれい……」
ステラが湖に近づき、水面を覗き込む。
色とりどりの魚が泳いでおり、まるで水族館のような光景が広がっていた。
ヒマワリも近づき、湖の深さを確認する。
「もしかしたら、この底にも《古の宝石》があるかも。……でも、ステラは泳げないんだっけ」
「えっ、私……泳ぐのは嫌いじゃないよ?」
「ううん、リアルの話じゃなくてステータスの話。水中移動もAGI依存だから、0だと沈むだけなんだよ」
「え、そうなの?お魚と一緒に泳ぎたかったなぁ……」
ステラが少し残念そうに呟く。
「私はリアルでも泳ぎは得意だから、水中を見てくるよ」
「リアルで得意なことが影響するの?」
ステラが不思議そうに首を傾げる。
「うん。プレイヤースキルっていうんだけど、リアルでの身体能力や技術がゲーム内でも影響するんだ。例えば、剣道やってる人は剣の扱いが上手いし、運動神経がいい人は回避や反応速度が高い」
「へー……」
「脳の反応速度とかも関係してるみたい。だから、同じステータスでも、プレイヤー次第で強さが変わるんだよ」
「そうなんだ。知らなかった……」
ステラが感心したように頷く。
「じゃあ、行ってくるね」
「うん。私はここで釣りでも試してみる。気をつけてね」
「ありがとう。何かあったら呼んで」
ヒマワリは剣を腰に差したまま、湖へと飛び込んだ。
ヒマワリが湖へと飛び込んだ後、ステラは近くの枝で即席の釣り竿を作った。だが、ここでもう一つの「0」が彼女を苦しめることになる。
「えっと……こうやって……」
竿を振るが、針は明後日の方向へ飛んでいく。
DEXが皆無な彼女にとって、細かな狙いをつける動作は至難の業だったのだ。
「あれ……?」
もう一度挑戦するが、やはり上手くいかない。
「……そっか。私、DEX0だから、器用なこともできないんだ」
ステラは唇を尖らせ、不満げな声を漏らす。
「むー……釣りくらいできると思ったのに……」
何度か試行錯誤して、ようやく針を水中に投げ込むことができた。
「やった!これで釣れるかな……」
じっと待つこと数分、竿に確かな手応えが走る。
「あ!食いついた!」
慌てて引き上げようとした瞬間、プチンと軽い音を立てて糸が切れた。
「あぁ……逃げちゃった……」
ステラが肩を落とす。
ステータスが0ということは、チャンスを掴み取るための「猶予」が極端に短いということだ。
食いついた瞬間のわずかなラグで糸を切られてしまう。
それから一時間。
集中力を研ぎ澄ませ、慎重に、慎重に……。
ようやく、手のひらサイズの小さな魚を一匹釣り上げた。
「やった! 釣れたぁ!」
満面の笑みを浮かべるステラ。
だが、喜びも束の間、その後が続かない。
「……また逃げられた。もう、この竿が悪いのかも……」
ステラはジト目で自作の竿を見つめ、所在なげに足元の石を小突いた。
二時間かけて、釣果はわずか二匹。
DEX0の壁は、思いのほか高かった。
一方――ヒマワリは水中を泳いでいた。
透き通った水の中、色とりどりの魚が泳ぎ回っている。
水草が揺れ、小さなエビやカニのような生物が岩陰に隠れている。
「きれい……」
ヒマワリは湖底へと潜っていく。
その時――
《レイク・サーペント》
巨大な蛇のようなモンスターが、ヒマワリへと襲いかかってきた。
「っ!」
ヒマワリは咄嗟に剣を抜き、蛇の頭を切り払う。
水中でも《加速》は有効で、素早い動きで攻撃を繰り出す。
蛇が光の粒となって消えた。
「……水中戦、思ったより動きづらいな」
呼吸が続かなくなり、ヒマワリは水面へと戻る。
「ぷはっ……!」
大きく息を吸い込み、再び潜る。
湖底を探索し、岩陰や水草の間を調べていく。
何度も水面と湖底を往復し――やがて。
【スキル習得!《水泳Ⅰ》】
「お、スキル取得した」
水中での移動が楽になり、息が続く時間も延びた。
「これなら、もっと深くまで潜れる……」
ヒマワリはさらに深く潜り――ついに、湖底の岩の隙間に光るものを見つけた。
「……あった!」
《古の宝石》が、静かに輝いていた。
ヒマワリは宝石を拾い上げ、水面へと戻った。
二時間後――
「ステラ、ただいま!」
ヒマワリが岸に上がると、ステラは相変わらず釣りをしていた。
「おかえり!どうだった?」
「《古の宝石》、一つ見つけたよ!」
「すごい!よく見つけたね!」
ステラが嬉しそうに笑う。
「ステラの方は? ……あはは、その二匹が戦利品?」
「う、うん……二時間頑張ってこれだけ。……笑わないでよぅ」
ステラが少し恥ずかしそうに、小さな魚を2匹見せる。
「2時間で2匹……」
「う、うん……DEX0だから、なかなか釣れなくて……」
ステラはむーっとした顔で黙り込む。
「まあ、釣れただけすごいよ。DEX0で釣りなんて、普通できないから」
「ほ、本当?」
「うん。頑張ったね」
ヒマワリが優しく微笑む。
「じゃあ、休憩しよっか。お腹すいたし、料理しよう」
「うん!」
「せっかくだし、ステラが釣った魚を使おっか」
二人は食材を取り出し、料理の準備を始めた。
その時――ステラが湖の中央に目をやった。
「……ねえ、ヒマワリちゃん。あれ、何?」
湖の中央に、大きな影が見えた。
「え……?」
ヒマワリも視線を向ける。
影は次第に大きくなり――そして、岸へと近づいてきた。
「ちょ、ちょっと……何あれ……!?」
ステラが興味津々で湖に近づく。
「ステラ、危ないよ!」
ヒマワリが慌てて駆け寄ろうとした――その瞬間。
バシャァァァン!!
水面が爆発し、巨大な魚が飛び出してきた。
全長10メートルはあろうかという、バカでかい魚。
口を大きく開け、ステラへと襲いかかる。
「きゃっ!?」
ステラが慌てて後退しようとするが――間に合わない。
「ステラ!」
ヒマワリが《加速》で駆けつけるが――
巨大な魚が、ステラとヒマワリを一気に飲み込んだ。
「うわああああっ!!」
二人の悲鳴が響き――
巨大な魚は、二人を飲み込んだまま水中へと消えていった。
湖面には、波紋だけが残された――。
巨大魚に食べられた2人はどうなってしまうのか・・・
次は2/21 19時投稿予定
お楽しみに!




