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死ぬのが怖いので、不人気の回復職を選びました。  作者: s-rush


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第044話 極振りヒーラー、川で光る桃を拾う

夕暮れの山道を、ステラとヒマワリは並んで下っていた。

空はまだ赤みを残しているが、山の影がじわじわと伸び、昼と夜の境目が近いことを告げている。


「……ほんと、終わったんだよね」

ステラがぽつりと言う。


「みんな無事に討伐できてよかったよ」

ヒマワリは肩をすくめながら前を歩く。


巨大な神獣・フルグラウス。

ついさっきまで命を懸けて相対していた存在が、もう過去のものになっている。

その実感が、少しだけ追いつかない。


――だからだろうか。


山道の途中で現れたモンスターが、やけに小さく見えた。


「グルル……!」


岩陰から狼型のモンスターが現れ、唸り声を上げて飛びかかってくる。


「《サンダーラッシュ》!」

ヒマワリの雷を纏った三連撃が、一瞬でウルフを薙ぎ払う。

「……なんか、すごく弱く感じるね」

「うん。フルグラウスと比べると、どのモンスターも雑魚に見えちゃう」

ステラが苦笑いを浮かべる。


《ロック・ゴーレム》が地面から現れるが、ヒマワリの《ウィンドスラッシュ》一撃で粉砕される。

「さっきまであんな化け物と戦ってたんだもんね……感覚が狂っちゃうよ」

「でも、油断しちゃダメだよ」

「うん、わかってる」


二人は順調に山を下り、やがて麓へと辿り着いた。

時刻はすっかり夜になり、辺りは暗闇に包まれている。

だが――空には満月が浮かび、その光が地面を明るく照らしていた。


「月、きれいだね」

「うん。これならランタンいらないかも」


小さな川が流れており、せせらぎの音が心地よく響いている。


「ねえ、ステラ。そろそろ休憩しない?」


ヒマワリが川沿いを見渡すと、少し先に小さな洞穴を見つけた。


「あそこで夜を明かそう。イベント中だし、野宿は危険だから」

「うん、いいね!」


二人は慎重に洞穴へと近づく。

ヒマワリが剣を抜き、中を警戒しながら入っていく。


「……誰もいないみたい」

「良かった。じゃあ、ここで休もう」

洞穴の中は意外と広く、二人が休むには十分なスペースがあった。


「そういえば、レベル上がってたよね。ステータスポイント振っとこう」


ヒマワリがメニューを開く。


「私はAGIメインで……STRに少し振っとくか」


一方、ステラも画面を開いていた。


「私はWISに全部振ろう!」

「……相変わらず、極振りビルドだね」


ヒマワリが呆れたように肩を落とす。


「だって、WIS上げれば回復量も増えるし、バリアも強くなるし……」

「まあ、ステラらしいけどさ」


二人は笑い合い、ステータスを振り分けた。

それから――二人は交代で外を警戒しながら、時間を過ごした。





二時間ほど経った頃――


「……ねえ、ヒマワリちゃん。あれ、何?」


ステラが川の上流を指差す。


「ん?どこ?」


ヒマワリが視線を向けると――川の上流から、淡く光る物体が流れてきていた。


「……桃?」


月明かりの下、それは大きな桃だった。

淡いピンク色に光り、ゆっくりと流れてくる。


「桃が流れてくるなんて……」

「ちょっと、拾ってみよう!」


二人は川辺へと駆け寄り、桃を拾い上げた。

手のひらに収まらないほど大きく、ずっしりと重い。

甘い香りが漂い、思わず食欲をそそられる。


「これ……どうする?」

ヒマワリが桃を見つめる。


「桃太郎みたいに、中に子供が入ってたりして」

「え、それ怖いんだけど……」


ヒマワリが少し引く。

どんな人でも川から流れてくる大きな桃を見ると、桃太郎の童話を想像するだろう。

実際ヒマワリもそうだったようで、冗談っぽくステラにそう話した。


「冗談だよ。とりあえず、切ってみよう」


ヒマワリは剣を抜き、桃を地面に置いた。


「じゃあ、いくよ――」


剣が桃を真っ二つに切り裂いた。


次の瞬間――

桃の中から、《古の宝石》が転がり出てきた。


「え……宝石!?」

「すごい!こんなところに隠れてたんだ!」


さらに――切り口から、甘い香りが一気に充満する。


「わぁ……いい匂い……」


ステラが切った桃を手に取り、一口齧った。


「……美味しい!」

「ちょ、ちょっと!食べちゃうの!?」


ヒマワリが呆れたように頭を抱える。


「だって、美味しそうだったし……」

「まあ、いいけどさ……」

「ヒマワリちゃんも食べる?」

「い、いや…私は遠慮しとくよ」



ステラがもう一口と桃を齧ろうとしたその時――

ガサガサガサッ……!

周囲の茂みから、無数の気配が近づいてきた。


「っ!?何か来る!」


ヒマワリが剣を構える。

茂みから飛び出してきたのは――


《マウンテン・ドッグ》

《フォレスト・モンキー》

《スカイ・バード》


犬、猿、鳥――それぞれのモンスターが、複数体ずつ現れた。


「わー、ほんとに桃太郎みたいだね」

「そんなこと言ってる場合じゃないよ!桃の匂いに釣られて来たのか……!」


ヒマワリは《加速》を発動させ、前に飛び出す。


「《ストームスタンス》!《サンダーラッシュ》!」


雷の三連撃が、モンスターたちを薙ぎ払う。

一体、また一体と、次々に倒していく。


だが――

ガサガサガサッ……!

倒しても倒しても、新たなモンスターが現れる。


「きりがない……!ステラ、お願い」

「オッケー!《フェニクス・フレア》!」


雑魚敵相手であれば、一対多は強力な範囲攻撃スキルを持つステラの方が得意分野である。

ステラが不死鳥の炎を放ち、複数のモンスターを一掃する。

だが――それでも、次から次へとモンスターが湧いてくる。


「ステラ、これじゃキリがないよ!逃げよう!」

「待って。楽に倒せる方法があるかも。洞穴に向かって!」

「え?」

「いいから、背負って!」


ヒマワリは慌ててステラを背負い、《加速》を発動させた。

風のような速さで、洞穴へと駆け戻る。

洞穴に着くと、ステラはすぐに入口に立った。


「《プロテス》《ヒール》《リジェネ》《再生の祝炎》《ドレイン・オーラ》」


次々とスキルを発動させ、《リストア・ヴェール》のバリアを展開する。

WIS極振りのステラが展開する《リストア・ヴェール》は、洞穴の入り口を塞ぐ「光の壁」へと変貌した。


「……ステラ、これって……」

「見てて。減るより増える方が早いから」


ガンッ! ドサッ!


殺到するモンスターたちが壁に激突する。

だが、その瞬間に《リフレクト・ヴェール》の反射ダメージが炸裂し、突進した獣たちは次々と光の粒へ還っていく。

攻撃は届かない。

牙も爪も、羽ばたきすらも、すべてがリストア・ヴェールに阻まれ、反射の衝撃となって跳ね返る。


当然、ぶつかるたびにヴェールの耐久値はわずかに削られていく。

だが――それは問題にならなかった。


淡い緑光を帯びたリジェネが絶え間なく修復を行い、

さらに再生の祝炎が上書きするように耐久を回復させていく。


減るそばから、即座に戻る。

いや、それどころか――


「……増えてない?」


モンスターの数が多い分、ドレイン・オーラが吸い上げる回復量も増えていく。

耐久値は下がるどころか、じわじわと押し上げられていた。


そもそも、相手は低レベルの雑魚モンスターだ。

一撃一撃のダメージが軽すぎて、ヴェールの消耗自体が誤差に近い。


結果として――

洞穴の入口は、壊れる気配すら見せなかった。


「……ステラ、これ……やってることヒーラーじゃないよね?」


ヒマワリが呆れたように呟く。


「えへへ……でも、楽でしょ?」


ステラが無邪気に笑う。

やがて、死体の山が消え去った後、地面にはもう一石の《古の宝石》が転がっていた。


「あ、また宝石だ!」

「やっぱり……」


ヒマワリが宝石を拾い上げ、考え込む。


「この桃、モンスターをおびき寄せるトラップだったんだね。全部倒すと、もう一つ宝石が手に入る仕組みだったんだ」

「そっか……よく考えられてるね」

「似たようなトラップもあるだろうから、覚えておかないとね」


ヒマワリが深く息を吐く。


「じゃあ、今日はもう休もう。交代で見張りしながら、夜が明けるのを待とう」

「うん。私が先に見張りするよ」

「ありがとう。じゃあ、お願い」


ヒマワリは地面に横になり、すぐに眠りについた。

ステラは洞穴の入口に座り、外を見つめる。

月が静かに輝き、川のせせらぎが心地よく響いている。


「……長い一日だったな」


ステラが小さく呟き――静かに夜を過ごした。


モンスタートラップ、内容によっては恐怖ですよね。


次は2/20 19時投稿予定

お楽しみに!


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