第037話 極振りヒーラー、全焼戦法で燭台を点す
朝日が窓から差し込み、小屋の中を明るく照らした。
「……んー……」
ヒマワリが目を覚まし、大きく伸びをする。
隣では、ステラがまだ寝息を立てていた。
「ステラ、起きて。朝だよ」
「んー……あと五分……」
「ダメだよ。今日、ボス倒しに行くんでしょ?」
ヒマワリが肩を揺すると、ステラはようやく目を開けた。
「……ふぁ……おはよう、ヒマワリちゃん」
「おはよう。よく眠れた?」
「うん。ヒマワリちゃんは?」
「まあまあかな。夜中はちょっと怖かったけど」
二人は笑い合い、身支度を整えた。
「朝ごはん、簡単に済ませちゃおう」
「うん」
ヒマワリはインベントリから乾パンと干し肉を取り出し、二人で分け合った。
簡素な食事だが、これから戦いに挑む二人には十分だった。
「さて……作戦会議しよう」
ヒマワリが地図を広げ、×印を指差す。
「ここがネクロマンサー・ヴェルグのいる場所。
部屋の四隅に《生命の燭台》があって、全部に火を灯さないとダメージが通らない」
「うん。北東が崩れた石柱の影、南西が骸骨の山の下、北西が祭壇の裏、南東が魔法陣の中心だったよね」
「そう。ステラが燭台を探して火を灯して、私がヴェルグの攻撃を引き付ける」
「わかった。頑張る!」
ステラが頷くと、ヒマワリは少し不安そうな表情を浮かべた。
「……ねえ、ステラ」
「ん?」
「もし……アンデッドとか出てきたら、どうしよう……」
「あ……そっか。ヒマワリちゃん、アンデッド苦手だもんね」
ステラは少し考えてから、にっこりと笑った。
「大丈夫!もしアンデッドが出てきたら、私が《挑発》で引き付けるから!」
「ほ、本当?」
「うん!ヒマワリちゃんはヴェルグだけに集中して。アンデッドは任せて」
「……ありがとう、ステラ。助かる」
ヒマワリはほっと胸を撫で下ろした。
二人は頷き合い、小屋を出た。
地図を頼りに森の奥へと進む。
焼け焦げた木々の間を抜け、やがて――古びた石造りの建物が見えてきた。
「……あれかな」
「多分。行こう」
二人は慎重に扉を押し開け、中へと入った。
薄暗い広間には、中央に黒い宝石が浮かんでいた。
そして――その前に、ボロボロのローブを纏った痩せこけた男が立っていた。
《ネクロマンサー・ヴェルグ》。
「……来たか……新たな実験体……」
しゃがれた声が響く。
ヴェルグがゆっくりと杖を掲げると、周囲に不穏な魔力が渦巻いた。
「行くよ、ヒマワリちゃん!」
「うん!」
ステラは杖を掲げ、《ヒール》を連続で唱える。
光が二人を包み込み、《リストア・ヴェール》のバリアが展開される。
「《プロテス》!」
さらに二人のVITを大幅に上昇させ、防御を固める。
「よし、行くよ!」
ヒマワリは剣を抜き、前へと飛び出した。
「《ソニック・ブレイク》!」
素早い二連撃が、ヴェルグへと叩き込まれる――
だが、剣はまるで霧を切るように、すり抜けてしまった。
「やっぱり……ダメージが通らないか……!」
ヴェルグが杖を振るうと、黒い魔弾が放たれる。
ヒマワリは素早く跳躍して回避し、再び斬りかかる。
「《サンダーラッシュ》!」
雷を纏った三連撃――だが、やはりダメージは通らない。
「くっ……!ステラ、燭台を探して!」
「わかった!えっと……どこだろう……!」
ステラは必死に周囲を見渡すが――隠された燭台は、どこにも見当たらない。
その時――ヴェルグが杖を高く掲げた。
「死者よ……我が声に応えよ……」
部屋中に禍々しい魔法陣が浮かび上がり、無数の黒い光弾が生成される。
「っ!?」
ヒマワリが咄嗟に跳躍して回避するが、光弾は追尾するように方向を変えた。
「《加速》!」
瞬時に速度を上げ、光弾の雨を縫うように駆け抜ける。
だが――光弾は次々と追加で生成され、部屋中を飛び交い始めた。
「やばっ……!」
さらにヴェルグが床を杖で叩くと、地面から黒い触手が次々と這い出してくる。
触手がヒマワリの足を掴もうと伸び上がった。
「《跳躍》!」
ヒマワリは大きく跳び上がり、触手を回避。
しかし――空中は逃げ場が少ない。
光弾が“狙いすました”ようにヒマワリの軌道を追いかける。
「っ……!」
ヒマワリは空中で体をひねり、ギリギリで光弾の軌跡を外れる。
頬をかすめるほどの距離。
直撃は避けた――が、着地地点にはすでに触手が蠢いていた。
「まずっ――!」
「《セラフィック・リザーブ》!」
ステラの放った聖属性の光が、着地点の触手を一瞬だけ硬直させる。
触手の動きが止まった、その“ほんの刹那”――
ヒマワリは転がるように着地し、距離を取った。
「サンキュー、ステラ!」
「うん……!でも、まだ大丈夫だよね?無茶はしないで!」
ステラもヒマワリのサポートをしつつ、必死に燭台を探すが――
「見つからないよ……!どこにあるの……!?」
その時、ヴェルグが再び杖を振るう。
今度は巨大な闇の槍が生成され、ステラへと放たれた。
「ひゃっ!?」
ステラは咄嗟に横に飛び、間一髪で回避する。
闇の槍は床に突き刺さり、爆発して周囲を巻き込んだ。
光弾、触手、闇の槍――次々と繰り出される攻撃に、二人は回避だけで精一杯だった。
ステラも焦りながら、必死に燭台を探し続ける。
「ねえ、ヒマワリちゃん!」
「何!?」
「要は、燭台に火を灯せればいいんだよね!?」
「え……?多分、そうだと思うけど……!」
ステラは杖を高く掲げた。
「なら――《不死鳥》!」
魔力が爆発し、ステラの周囲に炎が渦巻く。
そして――
「《フェニクス・フレア》!」
轟音と共に、不死鳥の形をした巨大な炎が部屋中を駆け巡った。
壁を、床を、天井を――全てを炎が包み込む。
廻り一面を火の海に変えてしまえば、魔法で見えていなくても関係ない。
隠されていた《生命の燭台》も、その炎に触れて次々と点火していく。
「ちょ、ちょっと!?強引すぎない!?」
ヒマワリがジト目でステラを見る。
「え?でも、場所が分からないなら、これが一番早いかなって……」
ステラが無邪気に笑うと、ヒマワリは深く息を吐いた。
「まあ……結果オーライだけどさ……」
その時――四つ全ての燭台に火が灯り、ヴェルグの体が淡く光った。
「……なに……!?」
ヴェルグが驚愕の声を上げる。
霧のように攻撃を受け流していた防御が、完全に消失した。
「今だよ、ヒマワリちゃん!」
「うん!《加速》!」
ヒマワリの体が光り、瞬時に加速する。
風のような速さで、ヴェルグへと肉薄した。
「《ストームスタンス》!」
風と雷を纏い、移動速度がさらに上昇する。
ヒマワリの剣が、光の軌跡を描きながらヴェルグを切り刻んでいく。
「《ウィンドスラッシュ》!《サンダーラッシュ》!」
連続攻撃が次々と叩き込まれ、ヴェルグのHPがみるみる削られていく。
「くっ……このままでは……!」
ヴェルグのHPが50%を切った瞬間――
部屋中に禍々しい魔力が満ち、地面から次々と骸骨が這い出してきた。
《スケルトン・ウォリアー》
《レイス・エリート》
《ゾンビ・ナイト》
「ひっ……!?ま、また出た……!?」
ヒマワリの動きが止まる。
さらに強化されたアンデッドの軍勢が、二人を取り囲んだ。
「ひ、ひぃ……!や、やっぱり無理……!」
ヒマワリは剣を構えるが、その手が震えている。
「大丈夫!任せて!」
ステラは杖を掲げ、《再生の祝炎》を発動させた。
温かな炎が体を包み込み、状態異常耐性が大幅に上昇する。
さらに――一定時間ごとにHPが中回復する効果が付与される。
「《ヒール》!」
さらにバリアを強化し、《リフレクト・ヴェール》の耐久力を最大まで高める。
「《挑発》!」
淡い赤の衝撃波が広がり、アンデッドたちの視線が一斉にステラへと向く。
「こっちだよー!」
ステラは杖を振り、アンデッドたちを引き付ける。
骸骨の剣が、幽霊の爪が、次々とバリアを叩く。
だが――《再生の祝炎》の効果で、ダメージはすぐに回復していく。
「……あ、あれ?ステラが壁になってくれてる……?」
ヒマワリが目を見開く。
アンデッドたちは全てステラに群がり、ヒマワリの視界からは完全に消えていた。
「……アンデッドが見えないなら、戦える……!」
ヒマワリは剣を握り直し、再びヴェルグへと向かった。
「待たせたね、ネクロマンサー!」
「くっ……小娘が……!」
ヒマワリの剣が、再び光の軌跡を描く。
その時――ステラの体が眩く輝いた。
「《セラフィック・リザーブ》」
蓄積された光の力が、聖属性の爆発として解き放たれる。
轟音と共に、アンデッドたちが光の粒となって消え去った。
さらに――その爆発の余波が、ヴェルグにも直撃する。
「ぐあっ……!?」
ヴェルグがバランスを崩し、一瞬だけ隙ができた。
「今だよ!」
「わかってる!」
ヒマワリは全速力で駆け抜け、剣を振り上げた。
「《サンダーラッシュ》!《ソニック・ブレイク》!《ウィンドスラッシュ》!」
雷、風、連撃――全てが一点に集中する。
ヴェルグの体が光に包まれ――やがて、粒子となって消えていった。
「……やった……!」
二人は同時に叫び、ハイタッチを交わした。
中央に浮かんでいた黒い宝石も光に包まれ、砕け散る。
その瞬間――部屋の中央に、宝箱が現れた。
「宝箱だ!」
ステラが駆け寄り、蓋を開ける。
中には、《古の宝石》が二つ、輝いていた。
「やったね、ステラ!これで合計四つ!」
「うん!頑張ったね!」
ヒマワリはほっと息を吐き、消えたヴェルグのいた場所を見つめた。
「……アンデッド苦手なのに、あんなの出すとか絶対ひどいよ!反則だよ!」
「ひ、ヒマワリちゃん、途中で固まってたよね……?」
「そりゃ固まるよ!私、ほんと無理なんだよあれ!」
「知ってるよ。でもヒマワリちゃんのことは、私がちゃんと守るから」
「……っ、急にそんなこと言う!?……でもありがと、ほんとに」
ヒマワリが笑いかけると、ステラも嬉しそうに笑った。
二人は宝箱を回収し、小屋へと戻った。
これで――イベントで集めた《古の宝石》は、合計四つ。
二人の冒険は、まだまだ続く――。
場所が分からなければ、全部燃やせばいいじゃない。
そんな燃焼系のマリーアントワネットのお言葉をお借りしました(笑)
次回更新:2/8 日曜日
お楽しみに!




