第031話 極振りヒーラー、炎に焼かれて
その頃――現実世界。
剣道場には、竹刀が打ち合う音が響いていた。
陽野日葵は、予選の試合を順調に勝ち進んでいた。
「一本!」
審判の声が響き、日葵は礼をして試合を終える。
「ふぅ……」
防具を外しながら、ふと頭をよぎるのは――ゲームの中の友達のこと。
(ステラ、今頃何してるかな……)
一人で探索してるって言ってたけど、大丈夫だろうか。
いや、きっと大丈夫だ。
さすがに少し目を離したくらいで、変なことにはならないだろう。
(……多分)
日葵は小さく首を振り、次の試合に向けて気持ちを切り替えた。
――その頃、ゲームの中では。
「え……うそ……復活した……!?」
ステラは驚愕の声を上げた。
フェニックスが再び翼を広げ、深紅の瞳がステラを捉える。
戦いは――まだ、終わっていなかった。
「ひ、ひぃ……!もう一回戦うの……!?」
だが、逃げ場はない。
巣は崖の中腹にあり、飛べないステラには逃げる手段がない。
「……やるしか、ないよね……!」
ステラは杖を握り直し、再び《ヒール》を唱えた。
《リストア・ヴェール》が展開され、淡い光がステラを包む。
フェニックスが再び炎を吐こうと口を開けた瞬間――
「えいっ!」
ステラは再び羽毛を掴み、思い切り投げ込んだ。
ボッ!
黒煙が噴き出し、フェニックスが苦しそうに咳き込む。
やがて、フェニックスのHPバーがゼロになり――
灰になって崩れ落ちた。
「……やった……!」
だが――その安堵も束の間。
灰が再び舞い上がり、炎が灯る。
光の柱が立ち上がり、フェニックスが再び姿を現した。
「また……!?」
ステラは再び羽毛を投げ込み、倒す。
だが――また復活。
何度倒しても、フェニックスは蘇り続ける。
そして――気づけば、巣の中の羽毛はほとんど尽きていた。
「……やば、羽毛がない……!」
ステラは焦りながら、周囲を見回した。
その時――巣の奥、火の卵のそばに、ひときわ輝く一枚の羽根が目に入った。
「あれ……他の羽毛と、色が違う……?」
淡い金色に輝く、美しい羽根。
《命の羽根》――そう、システムウィンドウに表示される。
「……これ、もしかして……」
ステラがそう呟いた瞬間――
羽根が、淡く光を失い始めた。
ドレイン・オーラの効果範囲内にあったため、その耐久値がじわじわと削られていたのだ。
「え……?」
次の瞬間――
羽根が砕け散り、光の粒となって消えた。
同時に、復活したばかりのフェニックスが――苦しそうに身をよじった。
その体が淡く揺らぎ、炎が弱々しく揺れる。
「……もしかして、これで倒せるようになった……?」
ステラは希望を抱き、フェニックスへと向き直った。
だが――問題は、羽毛が尽きてしまったこと。
同じ方法では、もう倒せない。
「……なら、《セラフィック・リザーブ》!」
ステラは杖を高く掲げ、セラフィック・リザーブを発動する。
眩い光が爆ぜ、聖属性のエネルギーがフェニックスを包み込む。
轟音と共に、フェニックスの体が揺らぐ――
だが。
HPバーは、まだ残っていた。
「う、うそ……足りない……!」
エネルギーが足りず、倒しきれなかった。
フェニックスが再び炎を吐こうと口を開ける。
「ど、どうしよう……!」
ステラは必死に考える。
羽毛もない。
セラフィック・リザーブも足りない。
なら――
「……もう、これしかない……!」
ステラは思い切って、フェニックスへと駆け寄った。
そして――その体にしがみついた。
「ひゃあああっ!?熱い熱い熱いっ!!」
聖なる炎が体を焼くが、ドレイン・オーラとリジェネをかけなおして必死に回復する。
そして――ステラは、フェニックスの羽を掴んだ。
「ご、ごめんなさいっ……!」
力いっぱい引っ張る。
――ブチッ。
羽が抜け、フェニックスのHPバーがわずかに減少する。
「ギャアアアッ!!」
フェニックスが雄叫びを上げ、大きく体をよじって激しく抵抗する。
ステラは振り落とされまいと必死にしがみつき、次の羽を掴んだ。
「えいっ!」
――ブチッ。
次々と羽を引き抜き、少しずつ丸裸にしていく。
フェニックスも必死の抵抗を見せ、ステラを振り払おうと翼を大きく振るった。
「くっ……!」
ステラは、ついにその力に耐えきれず、引っこ抜いた二本の羽の束を握ったまま、地面へと叩きつけられた。
フェニックスは怒りに燃える深紅の瞳でステラを捉え、再び炎を吐き出すべく、その口を大きく開いた。
だが、その一瞬の隙こそ、ステラが狙っていた最後のチャンス。
手に握りしめていた二本の羽の束を、フェニックスの開かれた口めがけて思い切り投げ込んだ。
「えいっ!」
ボッ!ボッ!ボッ!
黒煙が噴き出し、フェニックスが苦しそうに暴れる。
やがて――
フェニックスのHPバーが、完全にゼロになった。
その体が光の粒となって――
今度こそ、消えていった。
「……はぁ……はぁ……や、やった……!」
ステラはその場に膝をつき、大きく息を吐いた。
次の瞬間――
目の前に、複数のスキル習得ウィンドウが表示された。
《不死鳥》を習得しました!
《再生の祝炎》を習得しました!
《鳳翼転生》を習得しました!
「……え、えぇ……!?こんなに……!?」
ステラは驚きながらステータスウインドウを開き、スキルを確認する。
《不死鳥》
習得条件:命の羽根をドレイン攻撃で破壊してフェニックスに勝利する。
効果:MPを消費して不死鳥の力を意のままに扱うことが出来る。
WIS依存の炎魔法を行使出来る。
本来、命の羽根は見つけたらすぐ物理か魔法で叩き割るのが定石だ。
だが――ステラは気付かないまま、ドレイン・オーラの範囲に命の羽根を巻き込み、“吸い尽くして壊す”という極めて特殊な条件を達成してしまったのだ。
《再生の祝炎》
習得条件:フェニックスの炎に焼かれながら、一度も死なずに勝利する。
効果:10秒ごとにHPを中回復。状態異常耐性UP(中)。発動時に状態異常解除。持続時間10分。WIS依存
フェニックスの炎は燃焼状態を付与し、継続ダメージも大きい。
普通のプレイヤーなら、炎に包まれた時点で即座に状態異常を解除する。
誰だって、燃えながら戦い続けたいとは思わない。
だが、ステラはWIS極振りのステータスによってフェニックスの炎ダメージを最小限に抑え、さらにドレイン・オーラとリジェネを重ね掛けすることで、燃え続けながらも強引に戦い続けた。
ステラだけが“継戦可能”にできてしまう
――そんな特殊なステータス構成と立ち回りが、結果的に意図せず条件を満たしていたのだ。
《鳳翼転生》
習得条件:一度の戦闘でフェニックスを10回以上倒して勝利する。
効果:HPが0になったときに完全蘇生する。一日一回しか同じ人に付与できない。
「す、すごい……!特に鳳翼転生……これ、死なないスキル……!?」
興奮しながらスキルを確認していると――
地面に、いくつかのドロップアイテムが落ちているのに気づいた。
「あ……ドロップ品……!」
ステラはそれらを拾い集め、インベントリに収める。
「……よし、これで……帰ろう……!」
巣の端に、崖を降りる道が見えた。
ステラはゆっくりとその道を辿り、草原へと戻っていった。
やがて――ハネリ村の明かりが、遠くに見えてきた。
「……ふぅ。今日は……すごい一日だった……」
ステラは小さく笑い、村へと歩を進めた。
ステラちゃんに新たなスキルが!
《不死鳥》はいくつかの攻撃スタイルを内包している設定です。
次は1/25に投稿予定です。




