第025話 極振りヒーラー、剣士との一騎打ち
祭壇の地下に広がるダンジョンを抜けた先には、重厚な石造りの広間が広がっていた。
奥の扉には、月光のような紋章が彫り込まれ、その中央には浮かぶ文字が表示されている。
《通行条件:STR50以上》
「STR……? わたしは全然届かないよ……」
ステラは自分のステータスを開いて肩を落とした。
彼女は【WIS全振り】のヒーラーだった。
「じゃあ……様子だけ見てくるよ!」
ヒマワリは剣を握り直し、視線を決意の光で染めた。
「すぐ戻る! だから――ここで待ってて」
ステラが止める間もなく、扉の中へと踏み込むヒマワリ。
だが――その直後、石造りの扉は重々しく閉ざされ、ステラの手は空を切った。
「ヒマワリちゃん……!」
ヒマワリの目の前に立ちはだかっていたのは、漆黒のコートをまとった剣士――
疾風を統べる剣の異名を持つ、ボスモンスター《ヴェント》だった。
肩まである銀髪は静かに揺れ、その瞳は冷たい深緑。
ゆっくりと片手剣を構え、口を開いた。
「試練を求めし者よ。ここを通りたくば――勝ってみせよ」
「望むところですっ!」
ヒマワリが剣を中段に構えた瞬間、ヴェントは風のような速度で飛び込んできた。
金属が交差し、火花が弾け飛ぶ。
「――ッ速い……!!」
剣先が目前に迫る。ヒマワリは半歩だけ身を引き、刃を肩口すれすれで躱した。
剣戟の余韻も冷めぬうちに、ヴェントの剣が再び振り下ろされる。
縦斬り。横薙ぎ。返し。
一つ一つが洗練された技術で繋がり、隙を生まない連続攻撃。
ヒマワリは息を整えながら後退し、その軌道をじっと目で追った。
(……見える。腕の筋肉の動き、足の運び、重心の揺らぎ――全部)
次の一撃。
ヴェントの剣が鋭く袈裟に斬りかかる。
ヒマワリは刃をわずかに傾けて受け流し、そのまま踏み込んだ。
「スラッシュッ!」
鮮やかな軌跡が空を走る。
だが、ヴェントは軽やかに身を翻し、その刃を剣で弾いた。
「……やるな」
完璧な剣筋と切れ目のない距離制御。
相手は間違いなく、希少な剣技を極めた魔導剣士だった。
ヒマワリは深く息を吸い、構えを低く落とした。
(剣だけなら、負けない……!)
集中を深める。視界がクリアになり、世界の動きが遅く感じられる。
相手の重心の傾き、肩の動き、呼吸のリズム――すべてが読める。
ヴェントが踏み込む。
剣が唸りを上げてヒマワリの首筋を狙う。
だがヒマワリは半身をずらして回避し、即座に反撃に転じた。
「ソニック・ブレイクッ!」
一瞬で二度の斬撃が走る。
最初の一撃はヴェントの剣に弾かれたが、二撃目は防御の隙を突いて肩口を浅く切り裂いた。
ヴェントのHP表示が微かに削れる。
「――ほう」
ヴェントの口元に、わずかな笑みが浮かんだ。
「本物の剣士か。面白い」
そう呟くと同時に、彼の剣速が一段階上がった。
斬撃が連続して繰り出される。横薙ぎから逆袈裟、そのまま突き――。
ヒマワリは床を蹴り、大きく後方へ跳んだ。
着地と同時に、再び前へ踏み込む。
「そこっ――!」
ヴェントの剣が大きく振りかぶられた瞬間。
その一瞬の隙を、ヒマワリは見逃さなかった。
剣を斜めに薙ぎ払い、相手の胴を深く斬り裂く。
「スラッシュッ!」
ヴェントの体が仰け反り、HP表示が一気に50%を切った。
――そのとき、戦場の空気が変わった。
魔力の渦がヴェントの周囲を取り囲み、彼の剣が淡く光を灯す。
「風よ、雷よ、我が剣に宿れ」
次の瞬間、ヴェントの剣は雷を纏い、床を切り裂いた。
雷撃が走り、石畳を削りながらヒマワリへと迫る。
「魔法剣――!? ず、ずるくない!?」
ヒマワリは飛び退きながら叫びつつ、冷静に観察する。
(雷の斬撃と風の突き……直線と範囲の組み合わせ。攻撃の順番は――)
ヴェントが剣を振るうたび、雷光が走り、風刃が空間を切り裂く。
床が削れ、壁に傷が刻まれる。
魔力を纏った攻撃は範囲も威力も段違いだ。
ヒマワリは呼吸を整え、再び前に出た。
風刃が三日月状に襲いかかる。
その切先ギリギリを身を捻って抜けながら、電撃をまとった斬撃を紙一重で回避する。
「くっ……!」
魔法を纏った攻撃は読みづらい。だが、剣の軌道そのものは変わらない。
(なら――剣筋だけを見ればいい!)
ヒマワリは床を蹴り、ヴェントへと一気に肉薄した。
雷が剣を伝って弾け、風が刃となって襲いかかる。
その全てを、ヒマワリは最小限の動きで躱し続けた。
ヴェントの剣が横薙ぎに振られる。
雷光が広範囲を薙ぎ払う
――その瞬間、ヒマワリは低く身を屈めて潜り込んだ。
「スラッシュッ!」
鋭い斬撃がヴェントの脇腹を捉える。
HPゲージが40%まで削れた。
「ぐっ……!」
ヴェントが僅かに表情を歪める。
だが、その反撃は容赦なかった。
剣を振り上げると同時に、雷撃が床から立ち上る。
「雷迅・昇竜!」
床を這う雷光がヒマワリを追う。
ヒマワリは横へ跳び、壁を蹴って空中で体勢を変えた。
着地と同時に、再び踏み込む。
「ソニック・ブレイクッ!」
一瞬で二度の斬撃が交差する。
最初の一撃は風の障壁に弾かれたが、二撃目がヴェントの肩口を切り裂いた。
HPゲージが30%を切る。
「――やるな」
ヴェントの口元に、今度は真剣な笑みが浮かんだ。
「だが、これで終わりだ」
剣を天へ掲げると、雷と風が激しく渦を巻いた。
「風雷乱舞!」
次の瞬間、ヴェントの剣速が爆発的に上がった。
雷を纏った斬撃が連続して繰り出される。
縦、横、袈裟、逆袈裟――。
その全てに風刃が追従し、回避の余地を奪う。
ヒマワリは床を滑るように移動し、剣と剣が擦れ合い、雷が散る。空気が震える。
(……見える。見えるよ!)
全国大会で培った動体視力が、ヴェントの剣筋を捉え続ける。
現実で培った経験と技術、、いわゆる『プレイヤースキル』と呼ばれるものだ。
風と雷の軌道を予測し、最小限の動きで躱し続ける。
「たあああああッ!!」
ヒマワリの剣が、ヴェントの剣を真正面から弾き飛ばした。
体勢を崩すヴェント。
その一瞬の隙を、ヒマワリは逃さなかった。
「きみ……ただの剣士じゃないな。戦いが好きなんだろう」
ヴェントがわずかに笑った。
「好きじゃないよ! ただ、守りたいものがあるだけ――!」
次の一撃。
ヒマワリは剣を低く構え、相手の剣の軌道を読んで受け流す。
そのまま踏み込み、剣を振り上げた。
「スラッシュッ!」
鋭い斬撃がヴェントの肩口を捉える。
HPゲージが20%まで削れる。
だが、まだ終わらない。
着地の瞬間、ヒマワリは剣を返した。
「ソニック・ブレイクッ!」
一瞬で二度の斬撃が交差する。
縦と横、光の軌跡が十字を描いた。
ヴェントの体が仰け反り、HPゲージが一気に削られていく。
残り僅か10%――。
「――これで、私の勝ちっ!」
追撃を許さない。ヒマワリは剣を大きく振りかぶり、全力で振り下ろした。
「スラッシュッ!!」
渾身の一撃がヴェントの胸を深々と捉え、残りのHPを削り飛ばした。
ヴェントの身体が光の粒子となって砕け散り、静かに消えていった。
――その中心に、重厚感のある宝箱が姿を現した。
「ふぅ……やった、倒した……!」
息を整えながらも、ヒマワリの瞳には喜びが宿っていた。片手剣を肩に担ぎながら宝箱へ歩み寄る。
開いた蓋の中には、見慣れない装備が一式、綺麗に収まっていた。
「これって……!」
《ユニークシリーズ》
各ダンジョンを初回かつ単独で攻略した者にのみ授与される特別報酬。
世界に同名の装備は存在せず、破壊・譲渡は不可能。
《迅雷シリーズ》
《迅雷のバンダナ》(頭)
効果:
・片手剣スキルの消費MPを半減する。
・【AGI+15】【STR+5】
説明:
風を切るような布地に雷の刺繍が施されたバンダナ。
《迅雷のジャケット》(体)
効果:
・連続攻撃時にダメージが徐々に上昇する(最大20%)。
・【STR+10】【AGI+10】【VIT+10】
説明:
刃風のように軽やかな着心地を持つジャケット。
《迅雷のショートソード》(右手)
効果:
・通常攻撃時、中確率で追加の風または雷属性ダメージを発生させる。
・【STR+20】【DEX+15】
説明:
雷鳴のような斬撃を放つ片手剣。
《迅雷のズボン》(足)
効果:
・回避成功時、次の攻撃が必中&ダメージ10%アップ。
・【AGI+15】【STR+5】
説明:
戦場を全力疾走するための動きやすい装備。
《迅雷のブーツ》
・ダッシュ中に攻撃を受けた場合、そのダメージを30%軽減する。
・【VIT+10】【AGI+10】
説明:
地を蹴り空を裂き、その足跡はまるで雷光の残り火。
ヒマワリは装備を順々に身につけながら、思わず頬を緩めた。
「なんか……すごく体が軽い!しかもこの剣……振っただけで風が舞う感じ……!」
口にしながらいつの間にか、その場で剣を軽く振っている。
ふわりと衣装の裾が揺れ、ぴりりと空気が帯電する感覚。
そのとき――。
目の前に新たなウィンドウが展開された。
「え……スキル!?」
ヒマワリは目を見開き、表示されたスキルリストを確認する。
《ウィンドスラッシュ》
習得条件:魔導剣士ヴェントを撃破する。
効果:剣に風を纏わせ、射程距離を伸ばした斬撃を放つ。
《サンダーラッシュ》
習得条件:単独で魔導剣士ヴェントを撃破する。
効果:雷の速度を得て、瞬間的に3回の連続斬撃を繰り出す。
《ストームスタンス》
習得条件:単独で魔導剣士ヴェントをノーダメージで撃破する。
効果:30秒間、移動速度が上昇し、攻撃に風と雷の追加ダメージが付与される。
「わあ……全部すごい!」
ヒマワリは迷わず三つ全てのスキルを習得した。
習得の瞬間、体の中に新しい感覚が流れ込んでくる。
風を操る感覚、雷の速さを宿す感覚、そして両方を調和させる感覚――。
「これで……もっと強くなれる!」
拳を握りしめ、ヒマワリは満面の笑みを浮かべた。
「よーし!ステラにも早く見せなきゃ!」
ヒマワリは拳を握りしめ、すぐに来た道を振り返った。だが、そこでふと気づく。
「……え、これ……どうやって戻るんだろ?」
ひとしきり辺りを見回すと、壁の一部に新たな通路が開けていた。
さっきまでは見えなかった、薄暗い石の通路が奥へと続いている。
それこそが、先ほどの戦いの報酬――そして出口を兼ねた「隠し扉」だったのだ。
「もうっ……出口が突然できるとか、絶対わざとでしょこのダンジョン!!」
ぶつぶつと言いながらも、その足取りはどこか弾んでいた。
――その頃。ステラは閉ざされた扉の前で床に座り込み、心配そうに目を伏せていた。
「ヒマワリちゃん、大丈夫かな……」
自分が入れなかったことへのもどかしさと、仲間を危険に送り出してしまった申し訳なさ。
その両方を胸に抱いたまま、じっと通路の奥を見守っていると――
「ステラーー!!」
はっと顔を上げると、奥の通路からヒマワリが勢いよく駆け戻ってきた。
新しい装備に身を包み、軽やかに走るその姿を見た途端、ステラの目が丸くなる。
「えっ……ヒマワリちゃん、それ……!」
「ふふん、ユニーク装備をゲットしました!!」
誇らしげにくるりと一周して見せるヒマワリ。その応えにステラはぱっと表情を明るくした。
「すごい……すごく似合ってる!なんか、一気に頼もしさが増した感じ!」
「でしょでしょ!?しかも剣も、新しいスキルも覚えたよ!」
ヒマワリは装備のショートソードを軽く振ると、ひゅんっと風を裂く音が響いた。
それを見てステラも思わず笑みを浮かべる。
「……私、今回役立てなかったけど、それでも信じて待っててよかった」
「ステラがいたから頑張れたよ!戦い終わったあとも、ずっと戻る場所があるって感じがしたんだ!」
そう言って、ヒマワリはステラの肩をぽんと叩いた。ステラは少し照れた様子で笑い、二人は視線を合わせた。
「次のステージは……二人で一緒に進もう」
「うん!今度こそ、絶対に一緒にね!」
そうして、再び心をひとつにしたふたりは、これまで以上の冒険へと踏み出すのだった――。
剣士相手に負けるわけにはいかないよね。
次は1/10に投稿予定です。




