第022話 極振りヒーラー、友達とログイン
ヒマワリがステラを見かけたときのセリフを修正
「――わっ……すごっ!
ほんとに……まるで異世界に来たみたい。やっぱこのゲーム、クオリティおかしいって……!」
目の前に広がるのは、石畳の道と白壁の家々。
柔らかな日差しに照らされた噴水広場、すれ違うプレイヤーたちの笑い声。
風が頬を撫でるたび、草の匂いがふわりと香った。
陽野日葵――ゲーム内では《ヒマワリ》としてログインした彼女は、両手を広げて感嘆の声を漏らした。
目を輝かせながら周囲を見回していると、広場の端に灯里に似た少女がいた。
淡いローブ姿に、手には銀色の杖。
どこかぽわっとした雰囲気で、でも不思議と存在感のある後ろ姿。
「――あ、あれって……灯里?」
ヒマワリは駆け寄り、声をかけた。
「灯――……じゃなかった、ステラ!」
危うく本名で呼びかけそうになったが、慌ててプレイヤーネームで声をかける。
ゲームの中で本名で呼ぶのはマナー違反とされているからだ。
「えっ、呼んじゃダメなの?」
「うん、まあ一応ね。トラブル防止ってやつ」
「私はなんて呼べばいいの?」
「ヒマワリって呼んで。本名に一文字足してヒマワリ。わかりやすいでしょ?」
「かわいい名前だね」
「でしょ?気に入ってる」
二人は笑い合い、ようやくゲームの中でも並んで立った。
リアルでの関係そのままに、自然と息が合っている。
「ところで、もうステータス見た?」とステラ。
「もちろん。見てみる?」
ヒマワリがメニューを開き、ホログラムのウィンドウを共有した。
プレイヤー名:ヒマワリ
レベル:1
HP:50
MP:20
STR:35 (+30)
VIT:0 (+5)
AGI:55
DEX:0
INT:10
WIS:0
LUK:0
残りステータスポイント:0
装備
頭:【空欄】
体:【空欄】
右手:【初期片手剣:旅立ちの剣】
左手:【空欄】
足:【空欄】
靴:【空欄】
装飾品:【空欄】
【空欄】
【空欄】
スキル
《ストライク》
ステラが覗き込みながら「おお……」と感心の声をあげる。
「STRとAGIがすごく高いね。でもVITとDEX、それにWISはゼロなんだ」
「うん。攻撃を避けやすいようにAGI優先、火力はSTRと武器補正で十分。
最初のモンスターくらいなら避けきれると思うから、HPもVITも振らなかった。
魔法は使うか分からないから、MPは振らずに、INTだけ少し上げた感じだね」
「へぇ~。ちゃんと考えてるんだね」
「これが普通だって。回復して受けきるとか、そっちのほうが変だから!」
「う、うん……わたしは死ぬのが怖かったから……」
「だからって、WIS極振りは聞いたことないからね!あれ、耐えるっていうより祈ってるでしょ!」
「うん……だいたいそんな感じ」
「やっぱ天然だわ、あんた」
その光景は、まるで現実と変わらない――
けれど確かに、ここはもう一つの世界。
「よし、それじゃあ」
ヒマワリが剣を軽く抜き、肩を回す。
「せっかくだし、モンスターでも狩りに行こっか」
「うん!よろしくね」
青いローブのヒーラーと、赤茶の髪の剣士が並んで歩き出す。
「じゃあ、北の森ってこっちだよね?」
「うん。街の北門を抜けて、まっすぐ進めばすぐ森の入り口に着くはず」
ヒマワリが軽快に歩き出す。足音が石畳を軽やかに叩き、すぐにステラとの差が開いていく。
「ちょ、ちょっと待ってぇ……!は、速すぎるってば!」
「え、これでも早かったか……」
ヒマワリは振り返り、困ったように笑った。
少し考えてから、近くのNPCショップからロープを買ってきた。
「じゃあ……もう、こうするしかないね」
「え?なにを――って、うそでしょ!?ちょ、ちょっとヒマワリちゃん!?」
ステラの腰にロープが結ばれ、ヒマワリがそれを手に握る。
「よし、準備完了。行くよっ!」
「え、待っ……あぁぁぁぁぁっ!!?」
ヒマワリが全力でダッシュする。
ステラは半ば引きずられるように、地面を滑る勢いでついていく。
蒼いローブが風になびき、髪が後ろに流れる。
「ちょ、ちょっと待ってヒマワリちゃん!?速い速い速いーっ!!」
「ちゃんと掴まってて!ロープ切れたら知らないよ!」
「うわーん!転ぶー!物理ダメージ!」
「大丈夫。ヒールはあるんでしょ?」
「そういう問題じゃないよぉ!」
ヒマワリは笑いながらも速度を緩めない。
道中のプレイヤーたちが「なにあれ!?」と振り返る中、
二人は砂煙を上げながら北門を抜けていった。
――そんなドタバタの末、北の森の入口が見えてきた。
ヒマワリはようやく足を止め、息を整える。
「ふぅ……到着!ステラ、大丈夫?」
「……うん。生きてる。物理的には」
「えらい!」
「褒められてもうれしくないぃ……」
ステラはよろよろと立ち上がり、ロープを解く。
二人は笑いながら、木々の生い茂る森の中へと歩を進めた。
《北の森》。
木漏れ日が揺れ、薄い霧が漂う静かな狩場。
草むらのあちこちで、小型モンスター《リーフ・ウルフ》が低く唸り声を上げている。
「さて、腕試しといこうか」
「うん。じゃあ、私が引きつけるね」
ステラは杖を構え、静かに詠唱する。
「《ヒール》」
淡い光が彼女の全身を包み、リストア・ヴェールが展開される。
その輝きが残るうちに、ステラはさらに声を上げた。
「《挑発》」
周囲に赤色の波紋が走り、森の中の《リーフ・ウルフ》たちが一斉に振り向く。
――次の瞬間、ステラめがけて牙が殺到した。
「うわっ、来た来た来たっ!」
「任せて!」
ヒマワリが剣を抜き、風のような動きで間合いに滑り込む。
彼女の剣が光を描き、飛びかかる狼を一撃で断ち切る。
さらに振り向きざま、次の一体の懐に滑り込んで斬り上げる。
正確で、無駄のない動きはまるで型のように美しい。
その手際はまさに“剣道仕込み”――一撃の正確さが際立っていた。
「すご……私、あの子たち一匹倒すのにすっごい時間かかったのに……」
ステラはぽかんと口を開けたまま、少しだけ拗ねたように唇を尖らせる。
「そりゃ、WIS極振りで殴るのは無理があるでしょ」
「むぅ……」
「ていうかその挑発スキル、ヒーラーというより大盾よね?」
「わ、私はヒーラーだもんっ!」
ぷくっと頬をふくらませるステラに、ヒマワリは堪えきれず吹き出した。
それからもしばらく、二人は息を合わせて戦い続けた。
ステラがヒールで回復しながら敵の注意を引き、
ヒマワリが高速の剣戟で次々と仕留めていく。
「……おっ、スキル解放された!」
「どんなスキル?」
ヒマワリはステータス画面を開き、新しいスキル欄を見せた。
《ソニック・ブレイク》
習得条件:片手剣で敵を20体倒す。AGI50以上必要
効果:片手剣スキル。素早く2連撃を繰り出す
「おおっ、かっこいい!“ソニック”って速そう!」
「うん、名前負けしないくらい速いよ。……次の戦いで試してみよ」
「ヒマワリちゃん、どんどん強くなってくね~」
「そっちは“挑発ヒーラー”っていう唯一無二のポジション取ってるけどね」
「うう……褒められてる気がしない……!」
ステラはむぅと頬を膨らませて、杖を軽く振ってヒマワリに《ヒール》を掛けた。
だが、回復エフェクトは虚しく空を切る。
夕暮れが差し込み、森の奥が赤く染まる。
二人は狩りを終えて、リーベルへと戻ることにした。
「……結局、一度もダメージ受けなかったね」
「当然。攻撃は“もらわない”のが基本でしょ」
ヒマワリは得意げに胸を張った。
「うぅ……私もいつか避けられるようになりたいなぁ」
笑い合いながら、二人は街の方角へ歩き出す。
「今日の狩り、すっごく楽しかった!」
「うん、久々にゲームで体動かした感じ」
「また明日も一緒に行こうね!」
「うん。……じゃあ、ログアウトしよっか」
光の粒がふたりを包み、姿がゆっくりと消えていく。
静かな森に、残ったのは風と木々のざわめきだけだった。
さすが全国クラスの剣士といったところで、プレイヤースキルはかなり高そうですね。
次は1/5に投稿予定です。




