第020話 極振りヒーラー、友達の帰還
夏の合宿を終えた日葵から、「昼過ぎには駅に着くよー」とメッセージが届いたのは、午前十一時半。
星野灯里はちょうど、駅近くのショッピングモールで用事を済ませたところだった。
灯里「私も今、駅の近くにいるよ。せっかくだし、久しぶりにお茶しない?」
日葵「えっ、マジ?行く行く!」
数週間ぶりの再会。
陽野日葵は、合宿帰りとは思えないほど明るく、元気いっぱいだった。
竹刀袋を肩に下げている姿が、どこか誇らしげだ。
「おかえり、日葵。合宿どうだった?」
「うん、疲れたけど楽しかった!でももう竹刀は見たくない」
「全国クラスの剣士がそれ言う?」
「だって朝から晩まで素振りだよ?腕もげるかと思ったもん!
灯里こそ、ちゃんと夏休み満喫してた?」
「えっと……それなりに?」
笑いながら二人は駅前のカフェへ入った。
窓際の席に座り、注文したのは――季節限定の桃パフェ。
「やっぱりパフェって最高~」
「この桃、甘っ……やば、幸せ」
「灯里の幸せスイッチ、安いね」
「コスパ良い人生でしょ?」
そんな他愛ない会話が続いたあと、日葵がストローを回しながら話題を変えた。
「そういえばさ、前に私がすすめた《Arcadia Online》、あれって結局やってみた?」
「うん。ちょっとだけ、のつもりだったけど……気づいたら結構やってたかも」
「おお~、ついに!どうだった?」
「リアルすぎて最初びっくりしたけど……慣れたら面白いね。回復魔法が気持ちいいの」
「へぇ~。じゃあ、武器は杖を選んだんだ?」
「うん。死ぬの怖いし、サポート系なら安全かなって」
「なるほど、灯里っぽい」
「名前は本名からイメージして《ステラ》にしたんだ」
その瞬間、日葵の手がピタッと止まる。
桃パフェのスプーンが、空中で固まった。
日葵が目を瞬かせる。
ゲームの誘惑に負けて、合宿中の夜にネット掲示板をよく見ていた。
その時に何度も目にした名前だった。
「……ちょ、待って。“ステラ”ってあのステラ?第1回アルカディア・カップで、ヒーラーなのに3位入賞したっていう?」
「う、うん……それ、わたし」
「――はあああああっ!?」
店内に響くほどの声をあげそうになり、日葵は慌てて口を押さえた。
店員がチラリとこちらを見て、二人は小さく会釈して誤魔化す。
「ちょ、ちょっと待って、あの“化け物ヒーラー”なの灯里」
「バ、バケモノって言わないで!?死にたくなくて頑張っただけだよ!」
「だってネットでも話題になってたよ!回復だけで耐久しきって、最後まで立ってたって!
しかも最後は大爆発させて、周りを焦土にしちゃったんでしょ!?」
「狙われたけど、必死に回復して耐えてただけだよ……攻撃とか全然してないのに、周りが勝手に倒れてて」
「……それ十分おかしいから!」
日葵は頭を抱える。
天然の彼女が、まさかゲーム界隈で注目される存在になっているとは。
「ていうか、いったいどんなビルドにしたのよ」
「えっとね……日葵になら話してもいいかな。WIS全振りの回復特化だよ」
「STRゼロ!?攻撃力どうしてんの!?」
「回復魔法で相手の攻撃受け止めればいいかなって」
「……あんた、やっぱ天然だわ」
「えぇぇ~、普通でしょ?」
「普通じゃない!誰もそんなバランスで勝てると思わないから!」
二人の会話に、笑いとため息が混ざる。
けれど、日葵の顔にはほんの少し嬉しそうな色が浮かんでいた。
「ふふっ、でもなんか安心した。灯里が楽しそうで」
「ありがと。……それも日葵が教えてくれたおかげだよ」
「じゃあ、今夜ログインしてみよっかな。灯里に案内してもらえるなんて、ちょっと得した気分」
「もちろん!わたし、ちゃんと守るから」
「よろしくね、化け物ヒーラーさん」
「やめてぇ~!」
桃パフェのグラスが軽くぶつかり、二人の笑い声が重なる。
現実での再会、そしてゲームの中での初めての冒険。
二人の夏は、静かに、でも確かに動き始めた。
ついに友達の日葵が登場。
彼女はいったいどんなプレイヤーなんですかね。
次は12/27に投稿予定です。




