第018話 極振りヒーラー、アルカディア杯終幕
――イベント終了まで、残り10分。
空に警告のような光が走り、全プレイヤーの視界にメッセージが表示された。
《警告:遺跡コアの魔力が暴走を開始しました》
《全域に“エーテル瘴流”が発生》
《時間経過ごとに継続ダメージを受けます》
《安全地帯がマップ上に出現します》
ざわめきが広がる。
このルールは事前に知らされていた――だが、いざ始まると、その苛烈さは想定を超えていた。
大地の隙間から青白い光が吹き出し、空気そのものが灼けるように変色する。
プレイヤーたちのHPバーが、一斉にじりじりと削れていった。
「っ……くそ、マジで痛ぇぞ!急げ!」
「セーフティーエリアに急げ!」
マップ上には、三つの金色の光点――セーフティーエリアが表示されている。
ほとんどのプレイヤーが、その方向へと我先にと駆け出した。
すぐに、各地の避難ポイントが人であふれかえる。
回復スキル、爆発、剣閃、魔法弾――。
激しい争いの中、北のセーフティーエリアでは、片手剣の閃光が乱舞していた。
レヴィンが駆け抜けるたび、敵が弾かれ、光の粒となって消えていく。
「くっ……!あいつ、攻撃が見えねえ!」
「一撃が重すぎるっ!」
混戦の中でもレヴィンの剣筋は乱れず、鋭い連撃で敵を薙ぎ払う。
彼は自由に動ける範囲が狭くなったエリアでも、確実にスコアを積み上げていた。
――覇者の戦い方だった。
一方、東のセーフティーエリアでは、
ミラージュが幻影の残像を操りながら敵を翻弄していた。
「近づくな。俺の目的は、お前らじゃない」
冷徹な声を残し、光の刃が二閃――。
彼の姿は霧のように消え、次の瞬間には別の影を斬り伏せている。
彼は常に戦場の外縁で動き、ポイントを狙いながらもリスクを最小限に抑えていた。
その頃、
遺跡の中心――もはや崩壊しかけた広場に、ステラは一人、静かに立っていた。
周囲には誰もいない。
地面から噴き上がる“エーテル瘴流”が彼女の頬をなでるたび、HPバーが少しずつ減っていく。
だが、その減少はすぐに緑色の光で打ち消された。
「……《ヒール》、それから《リジェネ》。これで、十分」
《リストア・ヴェール》が穏やかな光を放ち、瘴流の影響を完全に遮断する。
ステラの回復速度は、この継続ダメージを完全に無視できるレベルに達していた。
ふと、マップに小さな赤い点が動く。
数人のプレイヤーが、高スコアを狙って、あえて危険な3倍エリアにいるステラを目指して向かっていた。
「まだ……狙ってくるの?」
それは、逆転の望みに賭けた者たち――残り時間わずか、玉砕覚悟の挑戦者たちだった。
「ポイントを奪えば……俺だって入賞できる!」
「ここで倒すしかねぇッ!」
だが、迫る一撃はすべて光壁に弾かれ、反射の閃光に飲まれていく。
HPを失ったプレイヤーたちは、次々と光の粒となって消えていった。
「……最後まで、落ち着いていこう」
ステラは空を見上げる。
空の紋章が淡く点滅し、終わりを告げようとしていた。
そして、再び鐘の音が響いた。
《イベント終了――全プレイヤーの戦闘を停止します》
空を覆っていたエーテルの霧が消え、崩れかけていた遺跡が静寂を取り戻す。
遠くで聞こえる風の音が、まるで全てを包み込むようだった。
光の粒が舞い、最終結果が空に投影される。
《第1位:レヴィン(剣)》
《第2位:ミラージュ(ダガー)》
《第3位:ステラ(杖)》
セーフティーエリアが狭かったため戦闘は激化したが、順位の変動はないままアルカディア・カップは幕を閉じた。
《――アルカディア・カップ、本戦終了!上位入賞者インタビューに移ります!》
巨大ホログラムのスクリーンに、上位3名の姿が映し出される。
観戦ホールには拍手と歓声が鳴り響いた。
◆第1位:レヴィン(剣)
「まずは優勝のレヴィン選手!おめでとうございます!」
「ありがとう。……最後のセーフティーエリアは、本当に地獄だったな。
あれだけの人数が押し寄せれば、剣を振るうしかない」
「それでも冷静に立ち回っていましたね」
「焦ったら負けだ。斬る順番を間違えなければ、勝機はある」
短いながらも確かな自信をにじませ、レヴィンは静かに剣を納めた。
◆第2位:ミラージュ(ダガー)
「続いて2位のミラージュ選手!最後はかなり慎重な戦いぶりでしたね」
「……ああ。あの状況じゃ、無闇に動けば即退場だ。
けど、一番怖かったのは戦場の光だな」
「戦場の光?」
「遺跡の中心で、誰かがとんでもない光を放ってただろ。
あれ、マップ越しでも眩しくてさ。……あれが“3位の杖の子”だって知った時、ゾッとしたよ」
「なるほど、あの爆心地を遠目で見てたわけですね」
「近づく勇気はなかった。正解だったと思う」
観客席から小さな笑いが起こる。
◆第3位:ステラ(杖)
「そして――今回、最も注目を集めたステラ選手!お疲れさまでした!」
「ありがとうございますっ」
「終盤、セーフティーエリアに向かわずに立ち続けていましたが、あれは戦略ですか?」
「えっと... 走るのが大変だなって思って... 私、回復できるから大丈夫かなって。
それに、あそこにいてもHPが減らなかったので...」
「HPが... 減らなかった!?」
「はい。そしたら、誰も来なくなって、静かになっちゃったんです...
みんな、セーフティーエリアに行っちゃったのかなって。」
「あんたが全滅させてたんでしょ!」
観客席からツッコミが入る。
「でも、回復職って、思ったよりも強いんですね... びっくりしました」
パルムは思わず声が裏返る。
「え、ええ... ステラ選手が証明してくださいました!回復職、想像以上に強かったです!」
(『思ったよりも』じゃない!あなたが回復の名を借りた最終兵器だ!)
会場がどっと笑いに包まれ、チャット欄は《天然最強w》《ステラかわいい》《癒し系爆心地》で埋まった。
レヴィンはわずかに苦笑を漏らし、ミラージュは「やっぱり近寄らなくて正解だったな」と小声で呟く。
司会のパルムが明るく締めの言葉を告げた。
「以上で、アルカディア・カップ本戦――閉幕ですっ!
上位陣のみなさん、おめでとうございましたーっ!」
まばゆい光と歓声に包まれ、イベントは幕を閉じた。
これにて初めてのイベント戦は終わりです。
次は12/23に投稿予定です。




