第017話 極振りヒーラー、無自覚の終焉
空に光の粒が集まり、ナビ妖精のパルムの声が遺跡中に響き渡った。
「はーい、みんな注目〜っ!ここからはイベント後半戦の特別ルールを発表しますっ!
後半1時間は――“スコアブレイク・モード”に突入!」
ざわめきが一斉に広がる。
「上位10位のプレイヤーを撃破すると、その人の総ポイントの30%を奪えます!
上位10位の人は倒されると通常の2倍のポイントを失います!
さらに!上位10位の位置はマップ上で常に表示されまーす!」
森の中で剣を地面に突き立てていた現在1位の男
――レヴィンは、マップの光点を見ながら獰猛に笑った。
「見えるようになったか……まあ、俺を狙う馬鹿はそう多くないだろう」
一方、岩陰で身を潜めていた2位の男
――ミラージュは短く吐き捨てた。
「……効率はいい。だが、面倒なルールだね。安全に逃げ切るに限る」
そして――
「え、えぇ……うそ、私も表示されてるの……?」
ステラは困惑しながら、マップに浮かぶ自分の名前を見つめた。
《3位:ステラ 武器:杖》
静かに輝く文字列に、ため息が漏れる。
「これは……ちょっと困ったかも」
遺跡の静寂を破るように、複数の足音が迫ってくる。
四方八方から現れたプレイヤーたちが、武器を構えステラを囲んだ。
「見つけたぞ、三位のヒーラーだ!」
「ポイントごっそりもらえるチャンスだ、囲め!攻撃は薄いぞ!」
剣の閃光、魔導書の弾、キャノンの砲撃が一斉に放たれる。
「っ――《ヒール》!」
瞬間、《リストア・ヴェール》の光の膜が展開され、無数の攻撃が弾かれた。
きらめく反射が走り、攻撃を放った者たちが一様に後退する。
「……っ!?な、なんだ今の!?」
「攻撃したのに、俺のHPが削られてる……!?」
「そんなスキル、聞いたことねぇぞ……!」
だが、ポイント3割奪取の誘惑が彼らの理性を奪っていた。
四方八方から重なる衝撃がヴェールを叩き、光の膜が軋むように波打つ。
――ヒールとリジェネだけでは、もう維持できない。
ステラは唇をかみ、両手で杖を握りしめた。
「……なら、次は――《ドレイン・オーラ》」
蒼い光の輪が波紋のように広がり、周囲の敵から体力を吸い上げていく。
奪った生命の光がヴェールに流れ込み、崩れかけた防壁を再び立て直していく。
攻撃を受けるたびに、反射と再生が同時に起こる。
もはやヴェールは、ただの防御ではない――攻撃そのものを、無限の力へ変える装甲だった。
「ぐっ……体力が……!?」
「離れろ!回復される!」
吸収と再生を繰り返すたび、魔力が渦を巻くように体内を駆け巡る。
ステラが中央広場を制圧したとはいえ、このエリアにはまだ多くのプレイヤーが残っていた。
――その分、リストア・ヴェールで受けるダメージも莫大だ。
蓄積の光はみるみるうちに杖の先へ収束し、限界を超える速さで最大値へと達した。
「ヤバい!逃げろ!」
焦りと悲鳴が飛び交う中、ステラは目を閉じた。
広場全体を包む金の光が、静かに彼女の周囲へと吸い込まれていく。
「……これで、終わり」
小さな呟きとともに、杖を天へと掲げる。
「――《セラフィック・リザーブ》!」
眩い光が爆ぜ、広場を覆い尽くした。
轟音と共に、広場に残っていた全てのプレイヤーを一瞬で呑み込む。
大地が揺れ、石片が宙を舞う。
そして――静寂。
崩れた石畳の中心に、杖を構えたまま立つステラの姿だけが残っていた。
焦げた床、消滅したプレイヤーの残光、そして淡く光るヴェール。
彼女は小さく息を吐いた。
「……守るための力、なのに……どうして、こうなっちゃうんだろ」
光の残滓が舞い、静かな遺跡に風が吹き抜けた。
ステラの名は依然として《3位》――だが、その存在は、誰よりも鮮烈に刻まれていた。
***
ところ変わって観戦エリア、ナビ妖精パルムが提供する、巨大なホログラムモニターが並ぶ空間だった。
「……今の、見たか?」
「遺跡エリア、真っ白になったぞ……」
「うわ、あれ全部吹き飛んでるじゃん!?」
観戦用モニターの前がざわめきに包まれる。
配信チャットには、驚愕と興奮のコメントが溢れていた。
《なに今のスキル!?》
《知らねーよあんなの、攻撃魔法なの?》
《てかあれ、一瞬で数十人消えたよな!?》
《3位の杖の子だろ? ただのヒーラーじゃねーのかよ!》
《ヒーラーが全員ぶっ飛ばしてて草》
《攻撃を受けるほど強くなるって、もはやタンクじゃん》
画面の中央、焦げた石畳に佇むひとりの少女。
ステラの名が再びランキングボードに点滅する。
《第3位:ステラ(杖)》――順位は変わらず。
だが、その光は、他のどんなプレイヤーよりも強く輝いていた。
後半戦もステラちゃんは順調にポイントを稼いでいるみたいですね。
次は12/20に投稿予定です。




