第016話 極振りヒーラー、聖光で戦場を染める
白い光が視界を覆い、足元の感覚がふっと消える。
次の瞬間、ステラの身体は古びた石畳の上に再構成された。
そこは――古代遺跡のようなフィールド。
崩れた石柱が林立し、天井のない空間から光が斜めに差し込んでいる。
静寂の中、どこからともなく風が流れ、舞い上がった砂粒が光を受けてきらめいた。
「……っ、ここが……イベントフィールド……?」
ステラはおそるおそる辺りを見回す。
どこかで何かが崩れる音が響き、思わずびくっと肩を震わせた。
「い、いきなり襲われたり……しないよね……?」
ナビ妖精のパルムが「転送直後はいきなり戦闘にはならない」と言っていた。
けれど、心臓の鼓動が静かな遺跡の中でやけに大きく響く気がして、どうにも落ち着かない。
しばらく息を潜めていたが、誰も現れる気配はない。
ほっと胸を撫で下ろしたステラは、壁際の石段に腰を下ろした。
「……ふぅ。大丈夫そう……。
でも、私が動いてもAGIゼロじゃどうしようもないし……待ってた方がいいかも」
そう呟いて、ステラは杖を軽く掲げた。
「展開――《リストア・ヴェール》」
淡い水色の光が広がり、遺跡の床を包み込むように薄い膜が展開される。
さらに《ヒール》《リジェネ》を重ねて回復力を高めると、静かな光が彼女の周囲に漂い始めた。
「これで……よし。あとは――来るのを待つだけ」
ステラは目を閉じて、静かに息を整える。
……そして、最初の敵は、意外と早く現れた。
遠くの通路から、装備の金属音を響かせながら一人のプレイヤーが姿を見せる。
「発見っと。ヒーラーか?開幕から楽勝だな」
こちらを見つけるなり、ためらいなく剣を構え、一気に距離を詰めてくる。
「ひ、ひゃっ!?は、早っ……!」
鋭い一撃がリストア・ヴェールを直撃。
その瞬間、反射の光が走り、相手のHPが一気に半減した。
「えっ!?」
戸惑う相手がもう一度斬りかかる――
キィンッ!パリンッ!
反射ダメージでHPゲージが消し飛び、相手はその場に崩れ落ちた。
「……あ、倒しちゃった……?」
ステラはぽかんと立ち尽くした。
だが、それは始まりに過ぎなかった。
遺跡の影から、二人目、三人目、四人目とプレイヤーが現れる。
攻撃を受けるたびに、淡い光が弾け――反射。
ステラはただその場で立ち尽くし、《リストア・ヴェール》を維持しているだけなのに、敵が次々と自滅していく。
「なんか……申し訳ないなぁ」
十人目を倒した頃には、遺跡の空気がすっかり静まり返っていた。
「……もう来ない、かな。待ち続けるのも、なんかポイントがもったいないし……」
杖を軽く揺らしながら、ステラはぽつりと呟く。
「よし……少し歩いてみよう。広場の方に行けば、誰かいるかも」
慎重に通路を進むと、視界の先に広い円形の空間――中央広場が現れた。
そこでは、すでに大規模な戦闘が始まっていた。
数十、いや百を超えるプレイヤーが入り乱れ、閃光と爆炎が飛び交う。
「……すご……こんなの、巻き込まれたら一瞬で――」
その“一瞬”が、現実になった。
飛んできた爆風に吹き飛ばされ、ヴェールがぎりぎりと軋む。
「うわわっ……!」
咄嗟に再展開、《ヒール》《リジェネ》を重ねる。
光の膜が再生し、次の瞬間には反射の閃光で数人が倒れていた。
「こ、こんなにたくさん……無理だよぉ……!」
だが逃げる足はない。
四方八方から攻撃が重なり、ヴェールがきらきらと軋むように激しく揺れる。
だが、その度に、受けたダメージの一部がエネルギーとして《セラフィック・リザーブ》に蓄積されていく。
「……まだ……まだ……」
聖なる光が杖に集中し、淡い輪が浮かぶ。
その瞬間、ひとりのプレイヤーがステラの存在に気づいた。
「いたっ!まだ生き残ってる!」
巨大な魔導キャノンを構えた重装砲撃手だ。
「ヒーラー一人に手間取ってられるか! これ喰らって消えろ!」
キャノンに魔力を圧縮する音が響く。
青白い砲身が光を帯び――次の瞬間、轟音と共に最大出力の魔力弾が放たれた。
光弾がヴェールに触れた瞬間――ステラの中で、蓄積していた力が最大値になった。
「今だっ!《セラフィック・リザーブ》」
爆ぜるような純白の閃光が、遺跡全体を包み込んだ。
爆音と共に、数百人規模のプレイヤーが一瞬で吹き飛ぶ。
眩い光が消えた後には、崩れた石と焦げた床、そして――ただ一人、ステラだけが立っていた。
――《プレイヤーを撃破しました》
――《プレイヤーを撃破しました》
――《プレイヤーを撃破しました》
ログが止まらない。
ステラはただ唖然と画面を見つめていた。
「え……なに、これ……?」
数秒後、システムメッセージが静かに表示される。
《現在順位:3位》
「えっ……!?三位!?」
ステラは思わず画面を二度見した。
どうやら、今の一撃で巻き込んだ数百人のスコアが一気に加算されたらしい。
「わ、わたし……ヒーラーなんだけど……?」
困惑する声が風に溶ける。
淡い光がまだ彼女の周囲に舞っていた。
――“守る”だけの力が、戦場を制圧していた。
反射ダメージは結構厄介ですよね。
とあるゲームでも反射ダメージに結構泣かされてます(笑)。
次は12/18に投稿予定です。




