第014話 極振りヒーラー、イベントに向けての準備2
感想の指摘を受けて、AGIゼロの表現を修正
草原を渡る風の中、ステラは一人、のんびりとした顔で立っていた。
木漏れ日が揺れ、足元には淡い緑の草が広がる。
──初心者にも人気の、のどかな狩場。
「うん、このくらいなら……私でも大丈夫、かな?」
杖を握りしめ、ステラはぽつりと呟く。
ステラの基礎ステータスにおけるAGIはゼロ。
装備による僅かな補正はあるものの、その動きは鈍足そのものだった。
けれど、彼女には「敵に来てもらう」という発想があった。
「それじゃあ、いってみよう! 【挑発】!」
瞬間、風が止んだように感じた。
次の瞬間、木陰や岩の陰からぞろぞろとモンスターが姿を現す。
スライム、ホーンラビット、そして小型のゴブリンまでもが、ステラを目がけて突進してくる。
「……え、ちょっ!? 多すぎないっ!?」
あっという間に取り囲まれ、十数体の敵が牙や爪を剥く。
ステラは一瞬、身体が硬直するほどの恐怖に襲われ、悲鳴を押し殺して杖を構えた。
「ヒール! リストア・ヴェール展開っ!」
《キュア・ブースト》の効果が発動し、その回復エネルギーが二倍の密度で凝縮される。
いつもより眩い白い光がふわりとステラを包み、薄い結界が張り巡らされる。
同時に、リフレクト・ヴェールが発動。
敵が攻撃するたび、淡い光が弾け──そのまま反射ダメージとなって襲い返す。
──だが。
「っ、やばっ! 数が……多すぎる!」
次々に放たれる攻撃、そのたびにじりじりとバリアの耐久が削られていく。
バリアの表面にヒビが入り、ステラの頬に冷や汗が伝う。
このままでは、ヒールとリジェネだけでは到底もたない。
「……っ、もう一枚、重ねるっ!」
ステラは詠唱を続け、再びヒールを発動。
光の帯がリストア・ヴェールの表面を覆い、バリアの耐久を無理やり底上げする。
淡い光が幾重にも重なり、まるで花弁のように輝いた。
さらに生命喰らいで習得したもう1つのスキルの次の詠唱に入る。
「【ドレイン・オーラ】ッ!」
ステラの周囲に蒼い光の輪が展開された。
有効範囲内の敵の体から、薄い蒼光の線が吸い取られ、ステラの杖へと流れ込んでいく。
吸収した生命の光にも《キュア・ブースト》が発動し、回復量が二倍となる。
増幅された蒼光は、杖を通じて《リストア・ヴェール》に再注入され、先ほどよりも圧倒的に硬いバリアへと再構築される。
吸収と反射の連鎖反応。
次々とモンスターたちが弾き返され、リフレクト・ヴェールの光が連鎖的に炸裂する。
──そして、すべてが静まり返った。
「……や、やった……! 全員倒した……っ!」
息を整えるステラ。だが、その時。
茂みの奥から、低い唸り声。
再び、わらわらと湧き出してくる新たな群れ。
「うそぉぉぉ!? 第二陣!? ちょっと待って、休ませてぇぇっ!」
ステラは後ずさりしながら、視界の端にふと光るアイコンを見つける。
──【セラフィック・リザーブ:発動可能】。
「あっ……これ、バリアで受けたダメージが、もう限界まで溜まってたんだ!」
焦りを歓喜に変え、ステラは杖を構えて詠唱する。
「【セラフィック・リザーブ】」
眩い光が爆ぜた。
リフレクト・ヴェールに蓄えられていた反射ダメージと、受けた攻撃の総量が、聖属性のエネルギーとして一気に解放される。
轟音とともに、光の奔流が周囲を薙ぎ払い──モンスターたちは、一瞬で灰に変わった。
「……っはぁー……危なかった……!」
だが、安心したのもつかの間、第三陣ともいえるモンスターが押し寄せてきた。
ドレイン・オーラの効果範囲は想定より広く、挑発範囲の外にいたモンスターまで巻き込んでしまったのだ。
「どんだけ湧くのこの狩場ぁぁ!?!?」
逃げるに逃げられず、ステラは悲鳴を上げながら連続詠唱を続ける。
リフレクト・ヴェールが光を放ち、リストア・ヴェールが軋み、ヒールが光の層を上乗せする。
モンスターの攻撃を受けているうちに、再度セラフィック・リザーブが発動可能になる。
「これでおわりっ【セラフィック・リザーブ】」
ステラは魔力を振り絞り、掠れた声で最後の詠唱を終えた。
限界までエネルギーの吸収をしていないため、先ほどのような爆発的な輝きはなく、細く、しかし鋭い蒼い閃光となって、目の前の群れを打ち抜く。
光線が敵を貫通し、次々と光の粒子へと変えていく。
轟音すらなく、ただ静かに、第三陣の群れが消滅した。
ステラはへたり込むように膝をつく。
「……はぁ……っ、全部……倒した……」
レベルアップを告げるシステム音とともに、ステラの視界に新たなスキルウィンドウが表示された。
【スキル習得:アイアン・フォートレス】
習得条件:戦闘中わざと攻撃を受け続け、死亡せずに勝利する。
効果:VIT+20、防御力が向上するパッシブスキル。
「……えっ、わざと攻撃を受け続ける!? だーかーら私、ヒーラーなんだけどぉぉっ!」
平原の風に、ステラの嘆きが虚しく響いた。
森での戦闘を終え、息を整えたステラは、慎重に足を運びながら街へと戻った。
街の門をくぐると、ほっと安心した表情が自然に浮かぶ。
人々の声や馬車の音が、心地よく耳に届く。
「ふぅ……やっと戻ってこれた……」
街のゲートをくぐると、いつもの喧騒が迎えてくれる。
プレイヤーたちが露店で取引をしたり、素材を売りさばいたりする光景が広がっていた。
ステラはその中を抜け、広場の片隅のベンチに腰を下ろす。
「さて……今日の成果、確認しとこ」
メニューを開き、スキルリストをスクロールしていく。
【現在のスキル】
・ヒール
・リストア・ヴェール
・マナ・サーキュレーション
・リジェネ
・キュア・ブースト
・ドレイン・オーラ
・セラフィック・リザーブ
・リフレクト・ヴェール
・クリーンセンス
・挑発
・アイアン・フォートレス
・回復の心得Ⅰ
「……うん、結構増えてきたなぁ」
画面を眺めながら、ステラは小さく頷いた。
最初はただの支援職で、攻撃も防御も心もとないと思っていた。
けれど、戦うたびにスキルが増え、少しずつ“自分の戦い方”が形になってきた気がする。
「リフレクト・ヴェールで反射、防御はアイアン・フォートレスで強化。
ドレイン・オーラで回復を補助して……うん、完璧!」
思わず口元がほころぶ。
自分の手で組み上げたビルドが、ようやく息をし始めている。
「アルカディア・カップ……いよいよ始まるんだよね」
ログイン時に見た告知が脳裏をよぎる。
バトルロワイヤル形式の対人戦――倒した人数と死亡回数で順位が決まる過酷なイベント。
そして上位10位には、限定アイテムの報酬。
「ふふっ、よーし。それまでにもうちょっとレベル上げして、動きの精度を上げとこ」
ログアウトのボタンに手を伸ばしながら、ステラは軽く伸びをした。
ディスプレイの向こうで、画面が徐々にフェードアウトしていく。
ただ――ヒーラーという職業は、本来なら対人戦には不向きだ。
そんなヒーラーを選んだステラがバトルロワイヤルでどう戦うのか。
その答えは、アルカディア・カップの幕が上がるその時、明らかになる。
いよいよ初めてのイベント!
果たして、ステラちゃんは1位になれるのか!?
次は12/13に投稿予定です。




