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死ぬのが怖いので、不人気の回復職を選びました。  作者: s-rush


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第012話 極振りヒーラー、小さな宿で1人ファッションショー

「……よし、まずは中身を確認しよっか」


ステラは杖を握り直し、慎重に宝箱の前へと歩み寄っていった。


宝箱の前に立つと、ステラは一瞬だけ深呼吸した。

息を整え、両手でそっと蓋に触れる。


――カチリ。


金属の音と共に、淡い蒼光が広間いっぱいに弾けた。

中には、まるで空気のように透き通った六つの装備が並んでいた。

どれもが同じ“蒼の輝き”を宿し、どこか生命喰らいの鎧を思わせるデザインだ。


「……これ、装備……だよね? 全部、私が?」


名前の横に浮かぶ文字列を、ステラは食い入るように見つめた。


《ユニークシリーズ》

各ダンジョンを初回かつ単独で攻略した者にのみ授与される特別報酬。

世界に同名の装備は存在せず、破壊・譲渡は不可能。


《蒼命シリーズ》


《蒼命のヴェール》(頭)

効果:

・回復魔法の消費MPを半減する。

・【WIS+15】【INT+5】

説明:

癒しの力を増幅する蒼の薄衣。静寂の祈りが精神を包み、魔力の流れを穏やかに整える。


《蒼命のローブ》(体)

効果:

・一定時間ごとに自身のHPとMPをわずかに回復する。

・【VIT+10】【WIS+10】【INT+10】

説明:

再生を象徴する蒼の衣。命の循環を感じるたび、布の奥からぬくもりが伝わってくる。


《蒼命のロッド》(右手)

効果:

・通常攻撃時、敵のHPとMPをわずかに吸収する。

・【STR+5】【INT+20】【WIS+40】

説明:

癒しと吸収、相反する力を宿す杖。穏やかな光が、渇きを抱いた魂に応える。


《蒼命のバングル》(左手)

効果:

・回復・補助魔法の効果を15%増加させる。

・【WIS+10】【DEX+5】

説明:

祈りを形にした蒼の腕輪。小さな慈愛が、大きな癒しへと姿を変える。


《蒼命のスカート》(足)

効果:

・詠唱時間を10%短縮する。

・【WIS+10】【AGI+10】

説明:

流れるような布地が魔力の循環を整える。蒼の裾が、戦場でも優雅に舞う。


《蒼命のブーツ》(靴)

効果:

・詠唱中の移動速度を10%上昇させる。

・【AGI+15】【VIT+5】

説明:

癒しの道を歩む者に授けられた加護の靴。蒼の軌跡が大地を照らす。



「唯一無二……。つまり、これ……私だけの装備……?」


言葉が震えた。

ゲーム初心者のはずなのに、たった一人で“初回攻略”という偉業を成し遂げ、

その証を手にしてしまったのだ。


ステラは手にしたロッドを胸の前で抱きしめる。

その瞬間、杖の蒼光がやさしく脈動し、彼女の魔力と共鳴するように光を放った。


「すごい……なんか、心臓みたいに動いてる……」


どこか不思議な温もりを感じながら、ステラは微笑んだ。

死なないように――ただ、それだけを願ってここまで来た。

でも今は、少しだけ違う。

この力で、もっと生きたい。もっと、この世界を見てみたい。


そう思った瞬間、足元に転送陣の光が展開された。


「……あ、帰還……かな?」


ふわりと身体が浮かぶ感覚。

次の瞬間、光が弾け、冷たい蒼の広間が遠ざかっていく。



転送の光が消えると、そこは見慣れた街の広場だった。

プレイヤーたちが行き交う喧騒の中、ステラはようやく肩の力を抜いた。


「……ふぅ。終わった……ほんとに、勝てたんだ……」


胸の中でまだ戦いの余韻がくすぶっている。

でもそれ以上に、胸を高鳴らせているのは――ログに並んだ“ユニーク装備獲得”の文字。


(……早く着てみたい……!)


頭の中はそれでいっぱいだった。

だが、すぐに視界を横切ったのは、広場のベンチで休むプレイヤーや、露店で装備を披露する人たちの姿。

ふと、ステラは顔を赤らめる。


「い、いや……ここで着替えるのは、ちょっと……ね?」


ゲームの中とはいえ、いきなり人前でローブを脱ぐのは抵抗がある。

たとえ一瞬で装備変更できる仕様だとしても――女の子のプライドが、ささやかに首を振った。


「うん、宿を借りよう」


彼女は近くの宿屋の看板を見つけ、小走りに駆け出す。

木製の扉を押し開けると、温かな灯りと、受付に座るNPCの笑顔が出迎えてくれた。


「一晩だけお部屋をお願いします!」

「はい、空き部屋がございます。二階、右手の奥のお部屋です。」

「ありがとう!」


鍵を受け取ると、ステラは階段を駆け上がり、自室の扉をそっと閉めた。

ドアの外の喧騒が遠ざかり、静寂が広がる。

ようやく――誰にも見られずに済む場所。


「よし……!」


ベッドの上にアイテムウィンドウを展開し、蒼く輝く装備を並べる。

光の粒子が舞い上がり、空気がわずかに震えた。


「……これ、ほんとに私の、なのかな……?」


どれも淡い蒼の光を帯びて、まるで生きているみたいに脈打っている。

指先を伸ばすと、衣装がふわりと浮かび上がり、彼女を迎えるように包み込んだ。


まずは、頭に《蒼命のヴェール》。

淡い布のような光が髪の間に溶け込み、ほのかに揺れる。

次に、《蒼命のローブ》。

軽く腕を通すと、身体にぴたりと馴染み、布が彼女の魔力の流れに合わせて呼吸するかのように波打った。


「わ……すごい、動くたびに光が流れてる……」


胸元の刺繍が微かに輝き、まるでステラの心音に合わせてリズムを刻んでいるようだった。


続けて、《蒼命のロッド》。

細い杖の先には、淡青色の宝珠。

握るとほんのりと温かく、まるで“おかえり”とでも言っているように震えた。


「……うん、よろしくね」


思わず話しかけてしまう。

そうして、《蒼命のバングル》を手首に嵌め、《蒼命のスカート》の裾を軽く整え、最後に《蒼命のブーツ》を履いた。


鏡の前に立つ。


そこには、戦いを終えたばかりの疲れを微塵も感じさせない少女がいた。

蒼く輝く衣が風のように揺らめき、ローブの裾がきらめく星屑をまとっている。

まるで“蒼の癒し手”という存在そのものになったようだった。


「……なんか、ちょっとだけ強そうに見えるかも?」


頬をかすめる笑み。

ロッドを軽く掲げると、光が反応して部屋の空気がやさしく震えた。

魔法を使わなくても、ただ構えるだけで“守られている”と感じられる。


「ふふっ……見た目もかわいいし、動きやすいし……これ、ずっと着てたいかも」


軽くくるりと回って、裾がふわりと広がる。

ランプの灯りが反射して、まるで小さなファッションショーのようだった。


戦いの緊張がようやく解け、

ステラはベッドに腰を下ろすと、ロッドを胸に抱えながら小さくつぶやいた。


「……次は、どんな冒険が待ってるんだろうね」


窓の外では、夜の街の灯りが穏やかに瞬いていた。

蒼命の装備に包まれた小さな回復職は、

その光を眺めながら、静かに次の物語へ思いを馳せる――。

やっぱりゲームの中でもおしゃれは楽しみたいよね。


次は12/9に投稿予定です。

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