第011話 極振りヒーラー、生命喰らいとの邂逅2
試しに、動きの鈍ったタイミングで杖を振り抜く。
――ガンッ!
金属の胸板に当たる感触。
今度は、はっきりとした手応えと共に【43】のダメージログが浮かぶ。
「効いてる……! この状態のときなら、通る!」
だが、生命喰らいは被弾した箇所から蒼い光を集中させた。
次の瞬間、ドンッ、と乾いた爆発音が響き、その場所から微弱な聖属性の衝撃波が周囲に広がる。
「きゃぁ!」
これは、受けたダメージの一部をエネルギーに変換し、周囲に爆発として放つ――生命喰らい固有のスキルだった。
幸いにも、ステラはSTRゼロのため変換されるエネルギーも最小限。
展開していた《リストア・ヴェール》のバリアで、衝撃波を無事に受け止めることができた。
敵は再びHPを吸収し、瞬く間に傷を塞いでいく。
青光が広間を照らすたび、また元の強さを取り戻していく。
(くっ……! やっぱりドレインでリセットされちゃう……!
それに、さっきの爆発はいったいなんだろう…
でも、“回復したとき”に何かが起きてるのは確か……!)
ステラは考える。
「回復で鈍る」――なら、もっと大きな回復をぶつけたらどうなる?
「……試してみる価値、あるかも」
ステラは息を吸い込み、杖を高く掲げた。
眩い光が彼女の掌からあふれ出す。
「――《ヒール》!」
放たれた癒しの光が、生命喰らいを包み込む。
通常なら味方を癒す魔法。だが、今回の対象は“敵”だ。
広間に澄んだ音が響き、青い核が一瞬激しく明滅した。
次の瞬間――
「……!?」
生命喰らいの動きが止まった。
鎧全体がビリビリと震え、核の青光が乱れ飛ぶ。
まるで、限界を超えて“あふれ出した回復量”に耐えられないかのように。
「まさか……ヒールで……!」
ステラは叫ぶように唱える。
「もう一回――《ヒール》!」
「――もう一発、《ヒール》!」
立て続けに光の奔流が放たれる。
ヒールを受けるたびに、敵の鎧が軋み、光の粒が弾けていく。
吸収限界を超えた再生機構が、逆流するかのように暴走を始めた。
蒼い結晶の光が激しく脈打ち、広間全体が震える。
「これで――終わり!」
最後のヒールが炸裂。
光が爆ぜ、生命喰らいの胸部に亀裂が走った。
青い核が砕け、蒼白い残光となって霧散する。
――静寂。
やがて、重い音を立てて鎧の巨体が崩れ落ちた。
ステラは息を吐き、杖を握りしめたままその場に膝をつく。
「……ほんとに、ヒールで倒せるなんて……。」
重い音を立てて崩れた鎧の残骸が、淡い光に包まれる。
そして、ステラの視界の端にいくつもの通知が浮かび上がる。
――レベルアップ。
――新スキル習得。
「……え? スキル、四つも……?」
画面を開いたステラは、表示されたスキル説明を目で追う。
《キュア・ブースト》
習得条件:戦闘中、合計ヒール量が術者の最大HPの100倍を超える。
効果:ヒール系列魔法の回復量が2倍になる。
《ドレイン・オーラ》
習得条件:吸収されたHPの総量を、三倍以上の回復魔法で上回りつつ「生命喰らい」を討伐する。
効果:発動から十秒間、周囲の敵から持続的にHPを吸収する。吸収量はWISに依存。
《セラフィック・リザーブ》
習得条件:総ダメージの九割以上を、回復魔法によって相殺した状態で「生命喰らい」を撃破する。
効果:受けたダメージの一部を光の力として蓄積し、限界に達すると聖属性の爆発として解放する。
《リフレクト・ヴェール》
習得条件:一度の戦闘中に、バリアが受けた総ダメージ量が術者の最大HPの五倍を超える。
効果:《リストア・ヴェール》のバリアが受けたダメージの一部を、反射して相手に返す。
普通のプレイヤーなら、そもそも「生命喰らい」のHP吸収行動を長く見届けることはない。
多くのパーティーは火力役を中心に構成し、盾役がヘイトを稼ぎながら一気に畳みかける。
多少の吸収行動があっても、ポーションと火力で押し切ってしまうのが定石だ。
だが、ステラはそもそもそんな“定石”を知らなかった。
ゲーム初心者ゆえに、ダンジョン攻略はパーティーを組むのが当たり前だということも、
ソロ挑戦が無謀だということも、誰からも教わっていない。
ステラはただ、「死ぬのが怖いから」という理由でWISだけを伸ばし、
リリアから「蒼の深淵洞は初心者でも入れる」と教えてもらって、この深淵へと足を踏み入れた。
VITもSTRもゼロ――攻撃も防御もない、極端なバランス。
そしてその極端な選択が、奇跡のような条件を満たすことになる。
生命喰らいの吸収に耐え、なおかつ回復魔法だけで押し返すという、
他の誰にも不可能な戦い方を実現したのだ。
「……なるほど、だから私しか……」
思わず微笑む。けれど同時に、胸の奥がほんの少しだけ震えた。
――ドレイン・オーラとセラフィック・リザーブ、どっちも“ただの回復職”の領域を越えている。
まるで、敵の力が私の回復によって《反転》し、私自身の力として《転化》したかのようだった。
そんなことを考えながら、ステラはふと視界の端に目をやる。
そこには、淡く光を放ちながら静かに鎮座する巨大な宝箱があった。
ついにまともな攻撃手段を手に入れたステラちゃん。
次は12/6に投稿予定です。




