第010話 極振りヒーラー、生命喰らいとの邂逅1
扉の中に入ると、そこは別世界のようだった。
天井から垂れ下がる蒼い結晶がほのかに光を放ち、広間全体を青白く染めている。
空気はひどく冷たく、どこか濡れた鉄のような匂いが漂っていた。
ステラは一歩踏み込む。
足音が石床に反響し、静寂の中へ吸い込まれていく。
そして――。
奥の闇が、ゆっくりと蠢いた。
鎧のこすれるような音が響き、蒼い光が灯る。
現れたのは、全身を青黒い金属の鎧で覆った人型の魔物。
胸部には心臓のように脈打つ青い核が透けて見える。
それが、ボス――《生命喰らい(ライフイーター)》だった。
「……なにあれ。ボス……かな? なんか強そう……」
目を細め、ステラは杖を構える。
相手は一言も発せず、ただ静かに剣を構えた。
次の瞬間――風が切れた。
「――っ!」
ステラの前を青い残光が走る。
見えないほどの速さ。だが、受けたダメージはそんなに大きくはなく、
HPゲージも半分くらい削られた程度だ。
(速い……!でも、致命傷じゃない。これくらいのダメージなら回復も十分間に合う!)
削られたHPをヒールとリジェネで即座に回復。
超過分回復量が結晶のように光り、《リストア・ヴェール》のバリアを展開した。
ステラは、今持っているスキルでできる最大限の防御態勢を取る。
「よし……これで、防御は完璧……!」
しかし――。
再び青い影が目の前に迫る。
敵は再び素早い動きで間合いを詰めて攻撃を仕掛けてきた。
ステラは反射的に杖を振るい、剣を受け流しながら近距離でカウンターを叩き込んだ。
――カンッ。
乾いた、硬質な音。
確かに鎧の胸部を打ったが、手応えはまるでない。
ダメージログに【1】の文字が一瞬浮かんでは消えた。
ただの打撃にノックバックなんてものはなく、ステラはバリアの上から斬られた。
「ひゃっ!」
展開したバリアのおかげでステラのHPは減ることはなかった。
が、その瞬間、生命喰らいの鎧全体が蒼い光を放ち、、完全に元通りになる。
「回復……してる? まさか、こいつも再生系……?」
ステラはすぐに気づく。振り下ろされる蒼光の斬撃。
そのたびに、ステラのHPがじわじわと吸い取られていく。
(攻撃しても……すぐ戻っちゃう!)
生命喰らいは無言で剣を構え直し、再び踏み込んできた。
振り下ろされる蒼光の斬撃。
そのたびに、ステラのHPがじわじわと吸い取られていく。
「ヒール! ……リジェネ!」
自分の体力を維持しながら、ステラは応戦を続ける。
けれども、攻撃を与えても、すぐに修復される。
むしろ、戦闘が続くほどにライフイーターの輝きが強まっていった。
(回復が早すぎる……! 攻撃しても、意味がない!)
そのたびに、ステラの胸に焦りが広がる。
敵の攻撃力はそこまで高くない――
だが、「倒せない」ことが、じわじわと精神を削っていく。
「……これ、本当に倒せるやつ……? 演出バトルとかじゃないよね……?」
ステラは息を荒くしながら、必死に杖を構える。
だが、攻撃してもすぐに回復。
ヒールで耐えても、ただ均衡が続くだけ。
「……ねぇ、どうすれば倒せるの……?」
十数分が経っても、敵のHPバーはまったく減っていない。
それどころか、ステラの攻撃を受けるたびに、鎧の蒼光が強くなっていく。
「攻撃しても、意味がない……。
このままじゃ、永遠に終わらない……!」
ステラの握る杖が小刻みに震える。
それは恐怖ではなく、焦燥。
誰も助けてくれないソロダンジョンで、攻略法が見えない相手と対峙する絶望。
「私の力じゃ、届かない……の?」
その呟きの直後――
ライフイーターの剣が空を裂き、ステラの《リストア・ヴェール》を砕いた。
衝撃と共に体が弾かれ、床に叩きつけられる。
視界の端でHPが半分近く削れていた。
(まだ……終わらない!)
ステラは立ち上がり、再び《ヒール》を唱える。
光が走り、体力が満ちる――が、それと同時に、敵の核がさらに強く脈打った。
青い光が、脈動するたびにわずかに歪んだ。
その光には、ほんの一瞬、“揺らぎ”があった。
(今の……なに……?)
ステラは息を整えながら、もう一度敵の挙動を観察した。
――ほんの一瞬。
生命喰らいの剣を構える動作が、微かに鈍ったように見えた。
(もしかして――)
再び斬撃。HPを吸われ、敵の核が青く脈打つ。
その瞬間、鎧の関節がきしむような音を立てた。
ほんのわずかだが、さっきより動きが遅い。
「……今、ちょっと……遅れた?」
ステラは再度ヒールを唱え、HPを満タンまで回復させ、《リストア・ヴェール》でバリアを展開する。
「……よし、次は――試してみよう」
ステラは一歩前に出て、あえて防御を解いた姿勢を取る。
生命喰らいの剣が再び光を帯び、空気が震えた。
青い残光が走り、ステラの身体に衝撃が走る――が、バリアがそれを完全に受け止めた。
バリアの表面を青い光が滑り、ライフドレインの吸収エフェクトが発動する。
だが、その直後――。
生命喰らいの鎧の光が、一瞬だけちらついた。
まるで内部に無理な負荷がかかったように、足取りが鈍る。
「やっぱり……! 吸った瞬間、動きがにぶくなる!」
ステラは確信した。
この魔物は「吸収によって再生」しているが――吸収量には“限界”がある。
HPドレインで無理やり吸い上げるたびに、体の内部に何かが詰まっていくような反応を示している。
「吸いすぎて……許容量を超えちゃったんだ……!」
このダンジョンの敵の秘密に、ステラちゃんは気付いたようです。
投稿が遅れてしまって申し訳ない...
次は12/4に投稿する予定です




