第4話『スキル【キャンセル】で初見殺し無双』
「それで学園長、状況を説明してもらえませんか」
翔渡は学園長室へ無事に到着。
そこから諸々の説明が行われると思っていたが、軽い自己紹介だけが済んだと思えば移動が始まってしまった。
早速、配属される教室へ案内されるのかと思えば、あろうことか広大な訓練場へ行きつく。
学園の敷地内ではあるが、屋根などはない場所で――現在は学園長と翔渡しか居ない。
「今朝ね、神様からの信託を得たんだよ」
と、翔渡も身に覚えのある話が始まる。
学園長は一般的な上下黒のスーツに、白のワイシャツに淡い青のネクタイを身にまとう。
軽い自己紹介で43歳と発言しており、「私は、もうおじさんだよ。参った参った」と髭もない清涼感のある爽やかな笑顔を披露していた。
「諸々の話は聞いているよ。家族が誰も居ない状態で、別の世界から転生……というより移転してきた、と言った方が正しい説明だったかな」
「なるほど。一言一句、女神様は正しい情報を伝えてくださっていたのですね」
「『だからよろしく』と、最後だけ投げやりではあったけど」
翔渡は「そればかりは、自分が無茶な前例のない要望をしたのが悪い」と思いながら罰が悪い笑みを浮かべる。
しかしそれと同じく、学園の敷地内とはいえ校庭とはまた違う、どうみてもそれ以上広くも仕切りはしっかりとある場所へ案内される理由の説明にはならない。
翔渡は、対価として厄介な要件を押し付けられたのではないかと邪推する。
「難しいことではないのさ。こういった学園は、本島にはなくてね。言ってしまったらスキル保有者を幽閉する場所になっているのだよ」
「女神様から説明を受けました。人工島的な場所になっているのですよね」
「その通り。で、だ。翔渡くんもスキル保有者という話だったから、今からテストをするというわけさ」
「なるほど。この状況に納得できました」
理不尽な話をされるのではないと安堵するも、であれば、ここまで広大な場所へ移動する必要がないでは、という話ではある。
安全を期するためだとしても、さすがに過剰では、と。
「俺のスキルは――」
「それはよくない」
「え?」
「基本的に、どれだけ相手を信用してもスキルの詳細を伝えてはいけない」
「そうなんですか?」
「スキルは言ってしまえば生命線になりうる。そう、例えば相手がスキルを把握していたら対応されてしまうだろ? それが学園内だったらまだしも、外では別なのだよ」
「そうなのですね?」
その説明を聞いた限りでは、学園外ではむやみやたらにスキルを使用するべきではない――という話にもなる。
であれば、今朝出会ったばかりの緋音は相当なリスクを背負い、犯人を無力化したということ。
感心する他ない、と同時に、この世界と元々住んでいた世界とのギャップを感じざる負えない。
「では早速、私にスキルを発動させてみてください――【多重複数結界】――」
「ああなるほど、そういうことですか」
(要するに、スキルの測定をするってことだ。そして、こんなだだっ広い場所が必要なのは、もしもスキルが殺傷能力が高い、もしくは広範囲だった場合への考慮というわけか)
学園長は胸の前で手を叩き、半透明の壁を無数に展開し、さらには自身を正方形に囲う無数の結界を出現させた。
翔渡視点からは、光の反射があるおかげでギリギリ見える程度ではあるものの、慣れたら目を凝らすほどではない。
その光景を目の当たりにした翔渡は、スキルというものへの関心度が高くなっていく。
「じゃあ」
(【キャンセル】)
発動条件を未だに理解していなかったが、柔らかい感触を体験してしまった少女――ではなく、宙を浮いていたように見ていた少女の件を思い出す。
(たしかこうだったよな。でも、緋音と学園長は言葉に出してたけど、何か違うのかな)
「――なっ?!」
「え?」
「い、いったい何が。動いていないし、言葉も発していない……だ、と?」
翔渡が内心で【キャンセル】と唱えた後すぐ、学園長が展開していた全ての結界が消えてしまった。
出来事自体は翔渡も目視で確認しているため把握できているが、学園長はその事実に動揺を露にしている。
「も、もう1度――【多重複数結界】」
学園長が両手を胸の前でパチンッと合わせ、再び出現する数多くの結界。
(もう一度ってことは――【キャンセル】)
理解が完全に追いついていない状況下、翔渡は先ほどの再現を行う。
「な……なん、だと……」
「学園長。俺には状況が理解できないのですが」
「いやまさか……そんなことがありえるというのか」
「もしかして俺、何かマズいことをしちゃってるのですか?」
「一応、確認させてほしい。間違いなくスキルを発動させているのだね?」
「はい」
「そうかわかった。じゃあ説明しよう」
学園長は咳払いをし、翔渡の元へと歩み寄る。
「この世界では、スキルを発動する際に完成形を明確にイメージして名を呼ぶのだよ」
「なるほど」
「最初に軽く説明したけど、スキルの名は言う必要がない。というのも、スキルは根源であり――そう、私で言うところの【守護障壁】になる」
「え、言っちゃって大丈夫なんですか?」
「今回ばかりは仕方がない。例外の例外だからね。それに女神から託されたことは使命なのだから、蔑ろにしたら罰が当たるからね」
翔渡は『それは確かに』と思うも、そもそも現地人にリスクを背負わせて説明させるのなら、『最初から女神様が説明した方がよかったのでは』とも思ってしまう。
現に、学園長はスキル名を伝えるときだけ耳元まで近づいて声を小さくしていたぐらいなのだから。
「だから簡単な話、炎を扱う人が居るとして。その人は【炎操作】なのか【爆炎】だったり【炎剣】など、様々なスキルが存在しているんだ」
「ほほお、なるほど」
ちょうど今朝あった出来事と直結している説明だったため、偶然に感謝しつつ翔渡はすぐ腑に落ちた。
「中には身振り手振りを加えたりするが、全員ではない。だが、全てに共通してることが言葉に出すということなんだ」
「あ」
「そう、翔渡くんは身振り手振りどころか口元をピクリとも動かさなかったよね」
「そういえばそうです」
「腹話術が得意だったり?」
「試してみたことすらないです」
「ふむ……」
学園長は空を見上げ「これはまた凄いプレゼントをしましたね」、と呟いた。
「その様子だと説明は……受けていないけど、その特殊発動条件を自分から願ったわけでもなさそうだね」
「そうですね。前例がないお願いはしましたけど、この件に関してだったり世界観を望んだりはしていないです」
「まあ、この世界に新しく生を受けたのだから考えても仕方がない。なんせ、女神様は世界に干渉することができないらしいからね」
学園長は首の裏に手を回し、諦めたようにため息を吐き出す。
「ちなみに発動条件で発言しない、なんていうのは特殊すぎて前例がない。だから、せめて動作だけは考えておこう」
「もうこの際、スキルを伝えておきますよ。今後も助けてもらうためには、その方が都合がいいと思うので」
「ふむ……先ほどの話をした後に聞くのは複雑な感情ではあるが、状況が状況だから仕方がないか」
翔渡は学園長に倣い、近づいて小声で伝える。
「な、なんだと」
「え? 何かマズいですか?」
「すまない、取り乱した。全てにおいて前例がないものでね。しかし驚いたよ。そりゃあ結界も消えるけど……あまりにも応用が利くというか利かないというか。スキル特攻とでも言ってしまえるスキルだね」
「そう驚かれてしまうと、こちらも反応に困ってしまうのですが……ちなみに、元々住んでいた世界でいろいろとキャンセルしちゃう癖がありまして」
「もしかしてだけど、女神様との会話中にその単語を出したということかい?」
「実はそうなんです」
常識を疑っていると予想がつくほど、眉をひそめられて口を開けられてしまう。
その光景を前に、翔渡もさすがにやりすぎというか失礼があったことを心から思った。
「もしも次、女神様と言葉を交わせる機会が訪れたら謝りたいと思っています」
「そうだね、そうした方がいい。何はともあれ――そうだ、何か好きなポーズなどはないかな」
「好きなポーズですか……」
翔渡は思考を巡らせる。
幼少期から記憶を遡ると、某仮面を被る特撮シリーズや戦隊ものが数多く浮かび上がるも、それを人前でやる度胸はないため即却下。
であれば、何かの映像媒体などで模索してみるもピンとくるものがない。
「大袈裟すぎず、でもスキルが発動していると判断できればいい感じですか?」
「そうだね」
「じゃあ、指パッチンは大丈夫ですか?」
「なるほど、それはいいね」
「ついでに思ったのですが、もはやスキル名をあえて言葉にしてしまうのはどうですか?」
「……なるほど、その手があったか」
「意表を突いた考えだとは思うのですが」
「いいよ、いいよそれ。それは採用だ。常識を逆手に取った感じでとてもいい」
何を参考にしたでもなく、ただ童心をくすぐる動作に決定したまで。
いつか、いや今、少年としてのワクワクと憧れを体現できることに心が躍っている翔渡。
「じゃあちょっと――【キャンセル】」
右腕を突き出し、指をパチッと鳴らす。
「お、おぉ……」
「というわけで、翔渡くん。これからいろいろあると思うけど、困ったことがあったら遠慮なく相談してほしい」
「ありがとうございます」
「金銭面や衣食住に関しては後々説明するから、とりあえずは配属される教室で学園生活を楽しんでみるんだ」
「わかりました」
翔渡は、これから始まる学園生活に不安は残るものの、それを打ち消してくれるぐらい、これから待ち受ける未知の世界に高揚感を抱いている。
(いろいろあったけど。新しい人生を楽しんでいこう!)
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