第21話『できるなら厄介事は断りたいけどね?』
お、ちょうどいいところに奏美を発見。
「おは――」
「えっ!?」
俺は腕を上げてから挨拶の言葉を送ろうとしていた。
しかし今は、背中に激痛を感じつつ柔らかい感触に包まれながら視界が真っ暗。
ある程度は予想がつく。
奏美は背後を気にしているのか、何度も振り返りながら走っていた。
俺は奏美に視線を向けていたわけだが、その行為に違和感をもって目線を奥の方に向け――要するに、互いの不注意で衝突し、俺は奏美に乗られるかたちで地面に転倒したということだ。
「ご、ごめーん! 大丈夫!? でも離れてー!」
しかし誰も怒らないでほしい。
腕を上げていたということもあり、完全に抱きしめるように倒れてしまったのだ。
心地よい感触と気分が落ち着く甘い匂いに包まれていることに幸福感を得ている、というこの状況は不可抗力であり――。
「翔渡ー!」
「――はい」
俺は腕を解くと、奏美はパッと離れた。
同じく背中に感じる痛みを堪えつつ体を起こすも、ちゃんと痛いから顔を歪めてしまう。
どうやら奏美は怪我をしていないようだし、抱き着いてしまっていろいろと堪能したことは大目に見てほしいというか無罪にしてもらいたい。
というかこの状況、とても身に覚えがあるな。
「あ、立って!」
「え」
サッと立ち上がる奏美の後に、俺も立ち上がる。
「毎朝毎朝、外で待機しているの迷惑だからっ!」
視界に入っていた人たちが、俺たちの前に立ち止まっていた。
しかし不思議なことに、怒号を飛ばされているのに返答をしない。
というか、毎朝追いかけられているって悪質なストーカーでしかない……けど、3人から追われるってさすがにモテすぎでしょ。
可能性としては、俺が知らないだけで奏美は有名人なのか? なんかこう、芸能人的な配信者的なそんな感じの。
でも世間的に知られるほど有名なら、学園でもファンが居てもおかしくは――とか考えている場合ではないか。
「あの、彼女も嫌がっているので引き下がってもらえませんか? 待ち伏せしているということは、登校時間だと把握していてのことでしょう?」
「……」
「この人たち、ずーっと喋らないで追いかけてくるの」
「何それ怖すぎ」
というか服装もおかしいだろ、この人たち。
社会人だからスーツ、というのならわかるけど、黒いサングラスに黒のスーツって、もはやサラリーマンではなくボディーガードだろ。
いや待てよ、もしかしたら奏美が重要人物の可能性もあるんじゃないか?
「なあ奏美、この人たちのこと心当たりがあったり?」
「あるのはある」
「ストーカーではないと?」
「そうと言えばそう、そうじゃないと言えばそうじゃない」
「ハッキリさせてくれ」
なんで俺が気付きを得られたかは、そう難しいことじゃない。
奏美は秘密を打ち明けるように【異能】の話をしてきた。
であれば、それに関係しているのでは、と思うのは別に不思議じゃない。
そして、あの柔らかくて心地よい感触と安心感を与えてくれる甘い匂い――じゃなんくて。
初めて奏美と言葉を交わしたときのことを思い出せば、遅刻ギリギリまで家で粘り、そこから【異能】を使用して急いでいた――まで結び付けられる。
「今の俺、面倒事に巻き込まれようとしている?」
「もう巻き込まれちゃってるかも」
「じゃあ、逃げる?」
「逃げる」
俺たちは顔を合わせ、すぐに半身逸らして走り出す。
「どこまで行ったら逃走成功なんだ?」
「校門まで!」
「了解」
奏美は、俺のことなど気にせず【異能】を使用し始め、宙を駆け出す。
ちなみに俺はというと、状況が状況だから大袈裟にスキルを使用しないことを選択はしたが、負担になるものをキャンセル中。
ギリギリ奏美と並行するように走っているわけだけど、後方から革靴が地面を鳴らす音が耳に届き続けている。
当然、こんな光景を目の当たりにしている周りの生徒は、困惑の表情を浮かべたり目線を送ってきていた。
「あ、ゴール!」
門まで残り50メートルぐらいだろうか、奏美の声が鳴り響いた後に後方の足音が徐々に消えていく感じがした。
と思ってチラッと一瞬だけ半身逸らして確認すると、想像通りに彼らの姿は消えている。
そして周りの目を気にせず、時間に猶予があっても校門を突っ切った。
「うひょ~、今日も朝からいい運動したねぇ~」
「奏美のソレは、走っていることに含まれるのか」
「含まれるよー」
奏美は膝に手を突いて呼吸を整えているし、たぶんそうなのだろう。
俺も一応は怪しまれないため、呼吸が乱れている風に肩を上下して装っている。
しかし絶景かな。
女子高生が前屈みになって呼吸を整えている姿は、制服姿ということも相まって色っぽく見えてしまう。
くっ……奏美の前だったらはだけている胸元を、後ろだったらスカートから覗く足を眺められたのにっ!
「てかさ、さすがに説明はしてもらえるよな?」
「巻き込んじゃったし、そこはね。でも……」
「でも?」
「もしかしたら、これから先も巻き込まれちゃう可能性についても説明しなくちゃかなって」
「物騒な話っぽいから、説明を聞かなければ関与を疑われないとかない? 回避不可能な感じ?」
「うーん……どっちにしても断言はできないかも」
何それ、本当に怖い話が始まる感じ?
「だったら理不尽な目に遇いたくないから、事情だけは聴かせてくれ」
「また授業中とかにコソっとでもいいかな」
「そのタイミングが都合よさそうっぽいし、それでいいよ」
「じゃあそのときに。着替えしたいから、もう移動しよー」
「おう」
着替え!? と、驚く半面、その手があったのかと感心する。
汗をかくのが決まっているようなものだから、着替えを持ってくるという手もあるか。
それに、値段も値段だからワイシャツは購買でもいいし、洗ったものを学園に置いておくのもいいのか。
個人ロッカーもあるし――なるほど、たしかに。
俺たちは再び移動を開始。
すれ違ったり、未だ後方を歩く生徒たちから注がれる視線を無視して。




