第18話『夢や目標について考え行動してみよう』
この先の人生、俺はどう生きるか。
今すぐに出さなくてもいい答えだとしても、何かしら試さなければ何も見つからない。
「難しい顔して、どうしたの?」
「――夢や目標を探してみようかなって」
「ほうほう、哲学ですかな」
放課後――緋音と帰路に就く途中、ふと思った。
間違いなく俺の性格だ、あっちの世界で今まで通りに生活していたら、進路選択するまで将来について考えることすらしなかったはず。
「お悩みな少年のために、私の目標を語ってあげよう」
「ぜひともお願いします」
「私ね、警護の仕事をしたいなって思ってるの」
「ボディーガード的な?」
「そうそう。要人警護か専属警護なのか――とかいろいろあるから、そこら辺は全然決めてないんだけど」
「凄い夢だね。でもさ、今の強さなら引く手数多になるんじゃない?」
学園島ランキングで10位という実力もあり、昨日の感じから街中での実践も十分なんだから。
全部で7校の中で10位って、相当な実力ってことぐらい素人の俺にだってすぐ理解できる。
とっさの判断とは言え手加減だってできるんだから、申し分ない以外の感想が出てこない。
「返す言葉が間違っているかもしれないけど、かっこいいね」
「えへへ、でしょでしょ」
「既に将来有望だ」
「スキルが発現したのは10歳の誕生日の日だった。当時は怖かったよ。炎が扱えるようになっただけじゃなく、みんなと離れなくちゃいけないってわかっていたから」
「……」
「でもね、夢を見つけるまで時間はかからなかったの。だってスキルが発現したそのときが、大切な友達を守るときだったから。今も寂しいけど、全然後悔してないし自分を責めてない」
淡々と話をしているし、言葉通りに曇った表情ではなく胸を張って自信に満ち溢れている。
嘘偽りがなく見栄を張っているわけでもないことはわかる。
10歳からそんな思いをしながら生活するなんて想像できない。
自分の10歳なんて、ただのクソガキだし学校なんてなくなればいいと思っていたし、友達と明日から会えなくなるなんて考えたことすらなかった。
人生を他人と比べるべきではないけど、緋音が歩んできた道を考えればちっぽけに感じてしまう。
「でもね、就職先が選べても雇ってくれる人が居なかったらできない仕事だからね。それに、私より強い人が9人も居るし、世の中にはもっと強い存在を知っているから敵わない目標とも言えちゃうんだけどね」
「……そう聞いちゃうと、無責任に『そのまま頑張れば大丈夫』とは言えないな」
「ね。それが世界基準で考えたら途方もないから、もっと実力を身に着けて上を目指さないと」
「向上心の塊は凄いけど、無理は禁物だぞ。とだけ言わせてほしい。やはり体が資本であり、怪我をして動けなくなったら周りの人間に追い抜かされてしまうから」
「心配してくれてありがとう。そして忠告もしてくれてありがとう。本当にその通りだから耳が痛いよ」
見ず知らずの俺に献身的な態度で接してくれるのは、緋音が抱く正義感や困った人を見過ごせない体質がそうさせているのだろう。
それを薄々わかっていたけど、こうして直接的に知ってしまうと悲しくなってしまう。
その反面、年端もゆかぬ健気な少女が自分よりも他人を優先する自己犠牲の精神は見上げたものだが、自分を労わってほしいと思うのは自然だ。
だって、まだ俺と同じ16歳だよ?
少なくとも俺が知っている女子高生というものは、友達と遊んだり、好きな人のことを考えたり、話題作りに忙しかったり趣味に没頭していたりしていた。
「本当に立派だと思う。俺も見習いたいけど、デカい目標は模索するとして。小さな目標でも考えたいところ」
「趣味の延長線上で考えてみるとか? 好きなものとか」
「んー、なかなかに難しい。趣味と言える趣味はないし、好きなもの……ゲームばっかりやってきたし、部活をしていたわけでもないかなぁ」
「まあでも、それが普通と言えば普通な気だと思うよ。自分で言うのもあれだけど、『夢や目標に一直線』って人の方が少ないだろうし」
俺もそう思うし、実際に周りの人で夢や目標を掲げて努力している人を探す方が難しい。
ん? ちょっと待てよ。
「さっきの話でちょっと気になったことがあるんだけど」
「何かあった?」
「心配と忠告で耳が痛いって、どういうこと? 毎朝あんな感じに対応しなくちゃいけない人とは出会ってないと思うけど」
「うげっ、随分と鋭いね。無意識に反省しちゃってたのが漏れちゃった」
「言いたくなかったら言わなくていいけど、何してるの?」
「じ、実は……手の届くような範囲で世直しみたいな、悪いことを取り締まったり……」
パッと考えただけでも危なそうなことしか思い浮かばなかったのに、想像通りに危ないことをしていた。
「それ、どう考えても学生の領分を超えていると思うけど。逆に取り締まられたりしないの?」
というツッコミを入れたら、少し俯いて罰の悪い雰囲気が醸し出されてしまった。
これたぶん、何度か危ない場面に遭遇したことがあったり、警察や自治組織なところから注意されたことがある流れだ。
「1回、3回……もっと多いかもしれない感じに、フワッと注意されたことがある……かな」
ほらね。
はぐらかしている感じ、最初に出した数字は嘘でもっと数が多いのだろう。
「その活動は善意だとわかっているから辞めるよう言わないけど、本当に危ないときは助けを呼んでから行動してもいいと思うよ」
「う、うん。だから最近は、行動を移す前に通報するようにしたんだよ。ほら、昨日の朝みたいに」
「たしかにやってた」
「と、到着ーっ」
話をしているといつの間にかマンションに到着していた。
楽しい時間ではあるものの、緋音がこれから外の世界に繰り出して危ないことをし始める、と考えると複雑な感情を抱いてしまう。
だからといって、一緒に居たい、話をしたい、と懇願すれば断られないだろうけど活動を妨害する行為にも繋がる。
エレベーターに乗って、なんて声を掛ければいいか考えている内に2階へ到着。
部屋まで足を進め、互いに鍵を取り出す。
「ねえ、一緒に行ってもいい?」
「え? 私の部屋に?」
「それはそれで許可してもらえるなら行きたいけど、そうじゃない。今から始まる活動の方」
「ほ、本気?」
「本気も本気。できるだけ邪魔はしないよう努めるから」
「うーん……」
緋音は「うーん、うーん……」と唸りながら凄く悩んでくれている。
正直、なんでこんな突拍子もないことを言い出したのか、自分でも理解できない。
でも夢や目標を追いかけ、努力を実行している人の姿を間近で見てみたら何かが変わるかもしれない、と思ったのは事実だ。
そして何よりも、緋音が危険な状態に陥ったり怪我をした後を見たくない、と思ってしまった。
ただの自己満足なのはわかっている。
でも、自分には有り余ってるスキルを持っていながら、何もしていない状況から抜け出したいと想っているのも事実。
「わかった。でも、基本的には私がどうにかする。翔渡は巻き込まれないことだけ考えて」
「ありがとう。提案通りにするよ」
「準備は10分後で大丈夫?」
「もちろん」
「じゃあ、それぐらいになったら外で待ってるね」
「わかった」
「それじゃ」
緋音が部屋に入ったのを見送り、俺も鍵を開けて部屋に入った。