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第17話『実技にてコッソリ話をされても困る件』

「実はね、わたしって【異能】使用者でもあるんだ」

「はい?」


 実技の時間、2人組を作って座りながら先生の話を聞いている最中、相方は奏美(かなみ)

 第1グラウンドという広い場所で、少しぐらい話をしても先生に聞こえないからといって、意味の分からないタイミングで意味の分からないカミングアウトをされた。


 このルールをほとんど把握していない俺にとって、初めてのことだらけだというのに【スキル】以外に【異能】という言葉を耳にするとは思ってもみなかった。

 とりあえず不安を払拭したくて、俺も超小声で質問をする。


「それってサラッと聞いても大丈夫なやつ?」

「もしかしたら大丈夫じゃないかも」

「じゃあなんでカミングアウトしたんだよ」

「なんとなく、翔渡(しょうと)になら言っても大丈夫かなって」

「理由になってないって」


 隠さなくちゃいけない秘密とかだったら、本当にとんでもない話になるって。

 事件性のあることに巻き込まれるのは勘弁してほしい。

 これには、さすがに顔を歪めてしまう。


「それぞれ移動して、スキルの練習をするんだって」

「お、おう」


 なんでカミングアウトした方が平静を保って、ちゃんと先生の話を聞いているんだよ。


「――で、その話は口外しない方がいい内容なわけ?」

「スキルと一緒だね。基本的には誰へも言わない、聞かない、探らない。そんな感じ」

「じゃあなんで俺に言ったんだよ。誰かに聞かれる可能性だってあっただろ」

「それはそうなんだけど、まあ大丈夫かなって」

「軽すぎだろ」


 奏美(かなみ)にはツッコミどころしかないが、本人はサラサラな黒髪を耳にかけたりと余裕の表情をしている。

 なんでこちらばかり心をかき乱されなくちゃいけないのか疑問だが、あちらこちらでスキル発動が始まった今なら普通に話しても大丈夫なはず。


「で、じゃあその【異能】って言うのはスキルと何が違うんだ」

「あんまり変わらないね」

「おい」

「厳密に言うと、スキルは本人が獲得するもの。【異能】は遺伝や継承されるもの、だね」


 ……その理屈があるのなら、俺が貰ったものはスキルというよりも天恵とでも言えてしまうな。

 実際はどうか知らないけど、女神様は間違いなくスキルと言っていたからスキルなんだろうけど。


「でね、こんな感じに発動名を言わなくても【異能】は使えるの」

「……」


 女神様、俺が貰ったものって本当にスキルなんですよね?

 今されている説明を聞く感じ、物凄く身に覚えがある内容なのですが。


 奏美(かなみ)は、俺が知っているスキル発動方法で【異能】を発動させ、空中を歩いたり滑ったりしている。


「周りに人が居るときは、ちゃんと発動名を言っているけどね」

「――あ」

「ふっふっふ。こんな【異能】だから、ちゃんとスパッツ履いてるよ」


 くっ……ふわっと浮き上がったスカートから、神秘的かつ男子であれば懇願するほど見たいものが拝めると思ったのに。

 目を輝かせてしまったから気が付かれてしまい、かなり気まずいけど。


「それで【異能】っていうのは、スキルみたいに根源の名前みたいなのってあるのか?」

「あるよ。わたしのは【エアソール】って名前なの」

「ちょ、なんで言うの」

「言っても大丈夫かなって」

「なぜそこまで信頼されているのかわからないけど――まあいいか」


 信頼には誠意で応えろ、と教育されてきた俺は、秘密を打ち明けられたのなら秘密を少々出すだけだ。


「あれ? ちょっと浮いてない?」

「そうだな」

翔渡(しょうと)のスキルって、風を操ったりするものなんだ――あれ? でも、ついさっきまでわたしと話をしていたのに……」

「こういうのもできたりする」

「え、歩いたり見えない階段を昇って……?」


 一応、学園長にも忠告されているから大袈裟には空中を移動していない。

 たった2㎝ぐらい浮いて、あれやこれやをしているだけで、周りから見たらジャンプしたりしているように見える――はず。


「よっと。それで、だ。じゃあ、せっかくの機会だから試させてもらう」

「何を?」

「急に落ちるだろうから、しっかりと着地してほしい」

「だから何をするつもりなの?」

「――【キャンセル】」


 ここはいつも通りにして、左手を前に突き出して指パッチンをする――すると。


「うわぁっ!」

「ナイス着地」

「び、びっくりしたぁ。今の何?」

「俺のスキルだよ」

「たしかにちゃんと発言してた。でも、随分と珍しい発動名だね」


 自分でもそう思うし、事の発端になったのは『異世界転生をキャンセルしてしまったから』なんてことは口が裂けても言えない。

 厳密には言っていいのかもしれないけど、女神様から受けた厚意を無下にしたくないのが本音だ。


 キャンセル界隈を自称していたけど、あんなタイミングでキャンセル癖が出てしまうとは思ってもみなかった――と、だけ軽く言い訳しておく。


「偶然じゃないことを証明するために、落下する覚悟を持ってから【異能】を使ってみて」

「わかった――じゃあいくね」

「【キャンセル】」

「うお」

「【キャンセル】」

「うわ」


 慣れてきたのか、体勢を崩さずに着地している。


 連発してみて新しくわかったこともあった。

 指パッチンって、連続でやると結構指が痛い。

 そしてスキル名を連呼すると早口言葉みたいになって、舌を噛みそうになったり言葉が詰まりそうになる。


 このことから、とある疑問が浮かび上がったけど……どうやって質問するべきか。

 今まで生きてきた中でわかりそうな疑問だから、この世界で思った疑問をそのままするのは簡単なことじゃない。


「その……あんまり自分でも経験したことがないし、周りにも居なかったから疑問が浮かんだんだけど」

「何?」

「スキル名の発動名を発言したとき、噛んだり小声だったらスキルって発動するのかなって」

「あー。小学校のときとかに都市伝説であったよね。スキル発動名で噛んだら爆発する、とか、へそがなくなるとか」

「そうそう、それ。実は、まだちょっと信じてたりするんだよな」

「わかるわかる。中学校に進学したら嘘の話だってことはすぐに習うけど、思い込みがあると怖くて信じられないんだよね」


 島に住んでいる小学生たち、変な噂を流してくれてありがとう!

 そして、信じる人が絶えないように伝承し続けてくれてありがとう!


「でも、わたしは小さい頃から隠すように発動名を言っているだけだったから、実際のところはわからないんだけど」


 今の俺にとっては、小学生が信じるような都市伝説を初めて聞いてしまったということもあり、正直信じそうになっている。

 でもスキル名を発するという行為は、俺にとって飾りみたいなものだから実際は関係ない。

 が、心の中で思ったは発動するから、そこで噛んだら爆発とかしないよな……?


 そして疑問に思ったことがもう1つ。


「そろそろジャージで実技の授業を受けたいよなぁ」

「うん、それはその通り。制服っていうかブレザーだと動きにくいよね」

「そうそう、特に上半身なんて腕を振るのが面倒だよなぁ」

「うんうん、わかるわかる。でも、いついかなるときも実践に備えていなくちゃいけないから仕方ないよ」


 やっと理由が出てきたと思えば、実戦? 実践?

 どちらにしても、随分と穏やかではない内容だな。


「街中で危険なことがあったら動けるようにしておかないと、ってのはわかってるんだけど、どうも動きにくさは拭えないというか」

「だよね~。わたしもずっと思ってるけど、いざというときに動けるようにしておく方がいいから仕方がないよ」


 なるほど、そのニュアンスだと昨日の出来事が全てなのだろう。

 緋音(あかね)が盗撮の犯人を制圧したように、俺がコンビニで勝負を挑まれたように。

 そして思うのが、スキルとは全て戦闘向けではなかったり、意思が備わっていない人もこの島で生活しているということ。

 スキルを所有していない人が生活している可能性も――そう、自身に危害が及ぶ可能性を承諾できるのなら、生活費が安くなったり家賃が安くなったり、そういう条件があるなら十分にありえる話だ。


 であれば、そういった人を守る意思が備わっている緋音(あかね)のような存在は、学園外でスキルを使用するリスクは百も承知というわけか。


「それにしても凄いスキルだね。何がどうなっているのか全く想像がつかないよ」

「でも詮索しないというルールがあってもどかしい?」

「むぅ……ちなみにルールと思われがちだけど、マナーみたいなものだし、わたしみたいに伝えちゃってもいいんだよ。ほほーん、なるほどなるほど」


 奏美(かなみ)は探偵になりきっているのか、親指と人差し指を開いて顎に当てて「ふむふむ」と呟いている。


「もしかしてキミぃ、都市伝説や噂話を鵜呑みにしてしまうタイプの人なのだねぇ」

「え」

「少なからず信じる人は居るから否定はしないよぉ。でもね、小中学生が信じるような話を信じ続けちゃうのはいかがなものかなと思うのだよ、翔渡くん」


 なんだか、どこぞの名探偵の助手みたいな呼ばれ方が始まった。

 しかも少しだけ得意気というか役になりきっているというか、ゆっくりと近づいてきたと思えば俺を探るように回ったかと思えば、元々居た場所まで戻っていくし。

 もしかして推理中とでもいうのか?


「ははぁーん、翔渡くん。もしかしてキミぃ、中二病というやつも患っていたりしないだろうねぇ?」

「なんだよ急に」

「最強に憧れたり――覇王なんてものを目指しちゃったりぃ?」

「そ、そんなことがあるわけ――」


 いいや、物凄ーく心当たりがあって反応しずらい!


「ポケットに何かが入っているわけでもないのに手を出さなかったり、スキル発動の演出を指パッチンというものにしたり」

「んぐっ」

「自覚がないだろうけど、スキル発動させるとき決め顔をしていたり!」

「な、なんだってぇ!?」


 全部が当てはまっていて、それらが中二病と言うのなら、間違いなく俺はそれに該当していることになる。

 そんでもって奏美が言う通りなら、俺は無意識に決め顔をしていたことも事実ということだ。

 ぐぬぬ……不本意ではあるが、覇王になる、と半分遊び感覚であっても誓ったことに変わりがないから……み、認めるしかないのか。


「あ、先生が戻ってこいだって」

「――」


 それを見抜かれた俺は、これから先どうやって立ち回っていけばいいんだ。

 このままずっと奏美にイジられ続けるとか――関係性が続くのなら、それはそれでいいかもしれない。

 だってほら、かわいい子と話ができるのは役得と言いますかラッキーと言いますか……べ、別に下心丸出しなわけじゃないんだからね!


「おーい、置いてっちゃうよー」

「あ、ああごめん」


 今だってほら、様子を窺うために顔を近づけて下から覗き込んでくれる――という、随分かわいらしい動作をしてくれるし!

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