第16話『学園長への謝礼とランキングについて』
「学園長、何から何まで本当にありがとうございました」
学園に到着した俺は緋音と別れて、教室よりも先に学園長室へ向かった。
そして今、土下座を止められたから深々と頭を下げているところ。
「いいよいいよ。神託を得たとはいえ、厚意でやったことだから」
「あんな立派な部屋を用意していただきありがとうございます。食べ物から飲み物だけではなく、生活必需品から学園で必要なものまで揃えていただき本当にありがとうございます」
「うんうん。感謝を素直に伝えられることは、とてもいいことだ。そしてとりあえず、頭を上げようか」
促されるままに頭を上げ、目線を戻す。
当たり前だけど学園長は椅子に座っていて、困惑はしていなかったけど笑ってもいない。
どうしてそんな微妙な表情を浮かべているのかを、俺は入室してすぐに下方向ばかり見ていたから気が付かなかった。
「浮かない顔ですね?」
「ああすまない。時間がそこまではないとはいえ、座っていいよ」
「ありがとうございます」
学園まで約30分で到着したから、残り時間は大体10分程度。
元々住んでいた世界の半分も短いから不思議な感覚に陥っている。
「こういうことを生徒に言う必要はないけど、翔渡くんにならいいか」
「聞いたらマズい内容だったらやめていただいて結構ですよ?」
「学生の立場には関係のない話ではあるが、学園としては気にしなくてはならない状況ではある。だが、それを愚痴として吐き出せる場所も相手も居ないのだ。助けると思って聞いてほしい」
「そういうことなら、俺に任せてください」
あれやこれやと用意してもらったのだから、ここで断ったら恩を仇で返すかたちになってしまう。
「ランキングのことは彼女から聞いたりしたかな」
「はい。学園と学園島であると。そして緋音が学園島ランキング10位ということも」
「そこまで把握しているのなら話が早い。その流れで他の学園があることは理解できてもらえたはずだ」
「ちなみにどれぐらいある感じですか?」
「学園島にある学園は全部で7。一応補足として、全員がスキルを持っている」
「なるほど」
素直に驚いたけど、昨日の夜に島の全貌を先に見ていたから、大袈裟なリアクションは必要なかった。
「あ、学園長。お話の途中で申し訳ないのですが、報告したいことがありまして」
「何かね」
「昨日、コンビニで不良っぽい人に絡まれてスキル勝負をすることになったり、スキルを試してみて島の全体を軽く見てみました」
「随分とサラッと報告しているけど、だいぶ濃密な1日を過ごしたようだね。あと、いろいろと危ないから空を歩くのは人目を避けようね」
「そうですよね、帰ってきてそれに気が付いて反省していました」
「わかっているのならいいさ。絶対にやらないよう言っているわけじゃないし」
不審者として扱われるのならまだギリギリセーフで、通報されたり、触れてはいけないことや見てはいけないものと無意識に接触してしまうリスクもある。
今も、俺に配慮してくれて軽い注意で終わらせてくれたけど、もしかしたら厳重注意される未来だってあったはず――たぶん。
「そして、流しそうになったけど早速スキルバトルをしたのか。結果は……聞かなくても簡単に想像できるけど」
「ご想像通りだと思います。相手は発動名を口に出していましたけど、こう、指パッチンして発動名を言葉に出して全部消してやりました」
「だろうね。で、相手は何か不審に思っていたりしたかい?」
「どうでしょう。でも、戦意を喪失して降参してくれました。一時は殴られるかと思ってましたけど」
「まあ……誰もが人生の中で、自分のスキルが発動しない、なんてことはありえなかっただろうからね。私もそうだ。理解が追い付かず、状況を把握しようとして戦意なんてどこかへ飛んでいってしまうよ」
自分でスキルを使っておいてなんだけど、学園長然り不良然り、2人共最後は同じ反応を示していた。
「それで、ランキングが何と関係しているのですか?」
「まだ先の話だけど、学園島祭で行われる催しに関係しているんだ」
「学園祭とは違う感じですか?」
「ああ。この日だけはランキングバトルをしない制約になっていることを利用して、全学園のランキングに入っている子たちが総当たりするんだ」
「それは随分とド派手な催しですね」
「お偉いさんもたくさん来るから、プレッシャーが半端じゃないし毎年の予算案にも影響があるんだ」
小難しい大人の話ってやつか。
学園に所属している身分だから関係ない話ではないけど、恩に報いるために何か力添えしたい気持ちはある。
でも学園ランキングに入ってすらいない俺は、その催しに参加する資格すらない。
「翔渡くんに協力してもらい気持ちは山々なんだけど、そのスキルだと学園島ランキング1位にも勝てちゃうだろうし……あんまり目立ちたくはないでしょ?」
「できたら目立ちたくはないですけど、それを望まれているのなら応える選択肢を設けてもいいかな、とは思います」
「とりあえず、そろそろ時間だ。こちらも何かしらの策を考えてみる。学園島祭が開催されるには時間がたっぷりあるからね」
そう言い終えて立ち上がった学園長につられ、俺も立ち上がる。
「廊下はできるだけ走らないよう、教室まで急いで」
「げ、もうこんな時間ですか」
壁掛けの時間が視界に入り、25分。
これじゃあ、余裕を持って到着したのに緋音と全力で走ったときと同じじゃないか。
「それでは失礼します」
「ああ、じゃあまた」
一礼して部屋を飛び出す。
この世界のルールなどをまだまだ理解できていないから、スキルを使えば廊下をとんでもない速度で移動することはできない。
人と衝突する可能性もあるわけだけど、勝手がわからないから説明してくれそうな緋音の存在は本当にありがたいな。
ランキングか……。
もっと詳細を把握してから挑まないと、メリットばかり知ってもデメリットやリスクがわからなければ正直怖い。
無敵にも近いスキルではあるが、本当にそうなのかわからないし。
冷静に考えている場合じゃない!
うおおおおおおおおおお、遅刻はしたくないぞおおおおおおおおおお!
学園長権限だったり、事情が事情だから遅刻免除になりませんかね!?