第15話『世界で初めて迎える、独りぼっちな朝』
俺は朝、無事に目を覚ますことができた。
特に体がどうこうなっていたわけでも、遅刻ギリギリで起きたわけでもない。
むしろ、起きてしまったと言っていいほど。
「5時30分……」
昨日は1度も寝室の明かりを点けなかったせいでわからなったけど、壁に時計が設置してあったようだ。
それのおかげで遅刻していないことがわかったわけだけど、早起きにもほどがある時間に軽く絶望する。
なんせ、あっちの世界でも学校がある日に、こんな早く目が冴えてしまった状況は非常に少なかった。
記憶に残っているのは、小中学生のときにあった修学旅行前日ぐらい。
当日に早起きするならまだしも、前日って――まあ、そのおかげで夜はしっかり眠ることができたわけだけど。
「さて、と」
体を起こしてすぐ、隣の部屋へ向かう。
「あー……」
昨日お家デートもとい食事に誘われた際、脱ぎ捨てた制服やらワイシャツやらが散乱していて、頭を抱えるしかない。
どうするのが正解かわからずクローゼットの中へ目線を向けると、そこには消臭スプレーや防臭剤などを発見。
しかし何をどうすればいいのかわからないから、とりあえずハンガーにかけて――。
「やべ、ご飯ご飯」
試行錯誤をしているうちに、6時になってしまった。
帰り道で学校までの時間を把握できておらず、何時に家を出たらいいのかわからない――が、それは緋音がチャイムを押してくれるから大丈夫。
でもその時間に出発準備を終えておかなければならない。
お願いします、冷蔵庫の中に食べ物――って祈る前に、昨日コンビニでおにぎり4個買ったじゃん。
「でも一応」
台所隅に設置してある、実家で使用していた大きい冷蔵庫より少し小さい両扉を開く。
中には数本の飲料が入っているだけではなく、コンビニなどで販売している弁当などの食料が入っていた。
さすがに料理はできないと悟られているようで、調理が必要な肉や野菜などはラインナップに含まれていない。
感動するほど揃えてもらっても、どうせ腐らせて捨てることになってしまうから、それはそれで感謝感謝。
「でも弁当をこのまま学校に持っていくのは無理があるよな。まあでも――賞味期限と消費期限は今日までだから、朝食と晩飯にしよう。おにぎりを持っていけば解決っと」
本当、何から何まで用意してもらって至れり尽くせりだ。
電子レンジだって、こうして棚の所に設置してもらっちゃってるし。
ここからは手慣れたもの。
時代や環境が似ているから、ハイテクな機械を扱うわけではない。
ピッピッピッと時間を設定し、後は待つだけ。
食事用の机と椅子の元へ移動して食べる――という、あっちの世界でも習慣化していた動きをそのままやればいい。
「今のうちに顔洗って、口を濯いで」
配置は違えどやることは一緒。
洗面台に立っていつも通りに。
そして背後にある洗濯機が、まるで異質なものに感じてしまう。
恥ずかしくも、洗濯機に衣類を入れて出すまでのことしかやったことがないから、洗剤を入れる量がわからないし柔軟剤とか未知数なものだし、干して取り込んで畳むもやったことがない。
全てが初めてで新鮮ではあるが、どうしてもいろいろ失敗したり、昨日の緋音みたいに干しっぱなしの状態を何度もやってしまいそうだ。
「――さて、と」
全てが終わった6時30分、玄関で靴を履く。
制服にも着替えて鞄を持ち、中には教材やら筆記用具などが入っている。
おにぎりも一緒に鞄へ入れようとしたけど、潰れる未来が容易に想像できたからやめて、コンビニで購入したままビニール袋に入れて別途手持ちすることにした。
「たしか7時ぐらいで焦っていたような気がするし、そろそろ出た方がいいと予想する」
ならば、と立ち上がりいざ出陣。
「おはよ~」
「――お、おはよう」
完全なる不意打ちに、俺は決意なんて虚しくなってしまう挨拶を緋音へしてしまった。
もっとこう余裕を持って顔を合わせる予定だったのに。
互いに部屋の鍵を閉め、エレベーターへと向かう。
「いろいろと大丈夫だった?」
どのような意味が含まれているのかドキッとしてしまい、即答ができない。
冷静に考えなくても深い意味がないことぐらいわかる。
でも、自分でもわかるほど泣き疲れた出来事を見られてしまっていたのか、と邪推してしまう。
さすがに泣いている姿を見られた、なんて事実があったら恥ずかしくて目を合わせられないから。
訂正――そんな恥ずかしいことがなくても、緋音と目を合わせて話すのは恥ずかしいです、見栄を張りましたごめんなさい。
「――大丈夫だったり、大丈夫じゃなかったり」
「何やら複雑そう」
エレベーターに乗った俺は、朝から至福のときを過ごしていることにようやく思考が追い付いてきて、湧き上がる叫びたい気持ちをグッと堪える。
「昨日コンビニに連れ出してくれたおかげで、今日のお昼は大丈夫そう」
「あらそうだったの? いろいろと大変そうかなって思ったから、お弁当を作ってみたんだけど」
「え」
俺は今、妄想と現実の区別がつかなくなっているのか……?
出会って間もなく、右と左は辛うじてわかるぐらいでしかない俺が、こんな美少女に弁当を作ってもらった……だ、と……?
「もしかして、その保冷バッグみたいなのに入っているのが……?」
「そうだよ~。でも大丈夫なら余っちゃうから晩御飯のときに食べようかな」
「いいいいいいや、大丈夫っていうのは最低限に空腹を満たすということで、思春期男子の胃袋が満足するにはもっと食べる必要があって」
「ふふっ、すっごい早口」
クスッと笑っていただけたのなら光栄です。
そして、エレベーターが到着してくれて照れ隠しをできてありがたい。
でもこれ、本当にいいのか。
毎日こんな幸せな時間が待っているのなら、絶対に寝坊しない自信が湧き上がってくる。
「――じゃあ、いつ頃渡そうか? 今は早すぎるだろうし」
歩道へ出てすぐ、そんな選択肢を委ねられていいのか心が躍ってしまう。
普通に考えてヤバいでしょ。
じゃあ人目が多いところを選択したら、学園内で変な噂が広がりかねないってことじゃん? 同棲しているだの、付き合っているだの、なんだのって。
校門や昇降口で手渡しを懇願すれば、生徒のみならず教師陣も変な勘繰りを入れてくるようになるかもしれない。
「……タイミングは任せるよ。せっかく作ってもらった弁当を無駄にはしたくないから」
「ん~、どうしようかな。じゃあ、お昼も一緒に食べる?」
「えっ!? いいのぉ!?」
「うわビックリしたー」
「急に大きな声を出してごめん」
「全然大丈夫だよ。じゃあ、お昼休みになったらお弁当を届けに行くね。あ、それとも教室じゃないところにする?」
「全てお任せします」
「うーん、うーん」と考えている姿もいい、とてもいい!
ていうか、もしもこんな関係が続いたら誇張なしで半同棲状態じゃん!?
口が裂けても言えないし自意識過剰なのはわかるけど、もうこれって付き合ってるって公言してたとしても疑われないのでは!?!?!?
「じゃあ廊下で待ち合わせして、そこから園内にある公園とかどうかな」
「ぜひともよろしくお願いします」
ん? 学園の中に公園がるの? 中庭的な場所ではなく? あの?
「ちなみに公園って言っても遊具はないから、遊ぶことはできないけどね」
「なるほど」
ドラマとかで見たことのある、ベンチやらとかしかない場所のことか。
昨日の4つのグラウンドを想像したら、学園内に公園があっても不思議ではないよな。
と、こんな感じな、たぶん一方的に至福のときは学園に到着するまで続いた――。
ここまで読み進めていただき、本当にありがとうございます!
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