第12話『美少女と過ごす超絶最高に幸せな時間』
「――という感じで、今日は鍋にしてみたよ」
「おぉ……」
決戦の地に辿り着いた俺は、永遠にソワソワして仕方なく、どう考えても失礼だとはわかっていても視線があちらこちらへと向いてしまう。
でもさすがに、慣れない手つきではあったけど野菜を斬ったり、取り分け皿を並べる、という最低限でしかないけど手伝いはしたから許してほしい。
そして今、様々な実績を解除し続けている最中ではあるが、今回の大目標が目の前に。
「キムチ鍋にしちゃったけど、辛いのが苦手だったりしないよね」
「ああもちろん、辛いのは大好きさ」
ローテーブルの卓上にカセットコンロを設置し、その上に鍋を置く。
俺たちは、対面に足るよう床に腰を下ろしている。
「よかった。まだ手の込んだ料理は挑戦できなくて、味付けは市販のやつにちょっと醤油とコンソメを入れてみたの。味が濃かったらごめんね」
「何も気にする必要はない。味見などせずとも、既に美味しいから」
「ふふっ、まだ何も食べてないでしょ」
「いいや。匂いを嗅いだだけでお腹が膨れていると言っても過言ではない」
そう、目の前に用意してもらった料理だけではなく、お部屋のお匂いも堪能させていただいておりますので!
冷静に考えなくても、自分がまともな思考をしているとは言えないし、言葉に出したら不審者極まりない。
こんな美少女に縁を切られたくないし、嫌われないように努力しなければ!
「ささ、食べちゃおう」
「いただきます!」
「はい、召し上がれ」
うおおおおおおおおおっ!
割り箸で、まずはキャベツを食す。
「ちょっとだけ味が濃かったかな」
「でも、体を動かした後だからこれぐらいがちょうどいいよ」
「次はもうちょっと薄めにしないとね」
「つ、ちゅぎぃ!? アッツ」
「ほらほら、熱いんだから急いで食べると危ないよ。落としたりしてない?」
「全然大丈夫です」
え、もしかして、こんな幸せな時間がまた訪れるということですかぁ!?
こんなん、興奮を抑える方が大変なんですけどぉ!
「そういえば、翔渡はランキング攻略はするの?」
「何それ」
「学園のランキングシステムだよ。意味はそのままで、能力で競い合って順位が変動するの。決闘で直接挑戦するのもあるけど」
「ほほお~。でも俺、そういう競い合いは苦手だから興味薄いかも」
「そうなんだ。でも、中にはそういう人も居るから気にしなくても大丈夫だと思うよ」
興味薄いというか、普通に考えて物騒すぎるでしょ。
要はスキルを相手に向けて使うわけで、怪我もするだろうし怖い思いもするはず。
こっちの世界かつ学園では普通のことかもしれないけど、少なくとも俺が住んでいた世界ではなかった。
喧嘩とか怖いし、できることなら避けたい。
「ちなみに、それって何かに関係しているものなの?」
「学園のランキングは、奨学金をもらえたり返済免除になったり。大学進学が有利になったり、就職に影響したり。でも、学校内での成績には影響しないからバランスがいいよね」
「ほえ~。たしかに興味ない人にとってはいいね。ん? 学園のランキングは、って別のランキングがあったりするの?」
「はふほふっ――ほうだお。そうだよ、各学園にランキング制度があって、学園島総合ランキングっていうのもあるよ」
熱くてはふはふしている姿もかわいすぎて、話がギリギリ入ってくる程度になってしまっている。
もう、食事をする手を止めて緋音のことばかり見ていてちゃダメかな?
「ちなみに、その学園島総合ランキングは何に影響が?」
「基本的には学園ランキングと一緒だけど、有利というか、希望したお仕事に就職できる。そして、アルバイトをしているみたいに日給が振り込まれるんだよ」
「特典が盛り盛りというわけだ」
将来を考えたら魅力的な話ではあるけど、個人的には避けて通りたい道だ。
そんな危ない道を辿るのなら、こうして緋音と楽しく青春学園生活を送っていた方がいい。
でも気になることもある。
スキルを所有している人が就職する先って、どこなんだろう。
サラッと質問したら答えてくれそうだけど……今までが奇跡的に不審がらず答えてくれていただけで、これからもそうとは限らない。
明日、学園長に感謝を伝えると同時に質問してみよう。
「ちなみに私は、こう見えて学園ランキング5位で総合ランキングは10位なんだよ」
「ほえー、それは……す、凄いねぇ!?」
「そうでしょそうでしょ。だから、男の子を部屋に入れても怖くないのよ」
「なるほど、それはたしかに」
驚愕とショックが同時に訪れた。
スキルを分析されると困ることが起きるかもしれない、という説明を受けていたから疑問だったけど、そんな実力者なら朝の1件だって納得できる。
自分より強い人間は認知しているから相手を見極めたらいいだろうし、ただの正義感で動いていたわけではないということだ。
そして、ショックだったのは実力がなかったら俺を部屋に呼んでいなかったということ。
理にかなっている話だけど、なんだかなぁ~。
「だからね、私が隣に居たら安心安全だよ。今日の朝みたいなことがあっても、お任せあれ」
「心強いボディーガードだ。どう考えても立場は逆だけど」
「細かいことは気にしなーい」
「あ、でもランキングを気にしなくても登録はしないとだけど。それは終わらせたの?」
「たぶん、まだかな? 学園長と話をしたときに言われなかったから、後日ってことだったのかも」
時間的な猶予はなかっただろうし、俺のスキルを見ていろいろと驚いてたから忘れていたんだと思う。
そこら辺も含めて、明日だな。
今日は、この至福の時間を堪能したい!
「あ、もしかして生活に必要なものが足りてなかったり?」
「足りないものが何かわからない状況だけど」
「だったら、いろいろ探しに行ってみる? 私もここら辺に慣れてきたころなんだけど、おさらいするために歩き回ったりしたいんだ」
「是非ともよろしくお願いします」
「すっごい早口」
ええそれはもう断る理由を探す方が大変ということもあり今回の機会を逃したら2度と訪れないかもしれない可能性を自ら捨てるという選択肢はなく美少女と買い物に出かけるという最強のイベントを絶対に行きたいと思っております故。
「一応、この島の凄いところはコンビニでも学生用のワイシャツが買えちゃったりするところなんだよ。学生の味方ってやつだね。値段も安いし」
「それは確かにありがたい」
「今日、走って汗かいちゃったと思うから食べ終わったら、軽い運動ついでにコンビニ行っちゃう?」
「はい行きます、よろしくお願いします」
「返答はやっ」
「でも鍋は最後まで堪能させていただきます。残り汁も全て飲みます」
「意気込み凄いね。でも、水分はちゃんと飲んでね」
何これ、俺――この世界でも死んじゃったりするの?
こんな幸運が続くと、さすがに身の危険を心配してしまう。
スキルがある世界でトラックから人を守る展開はないだろうし、つよつよ美少女ボディーガードが居るから……戦いに巻き込まれて、なんて嫌だよ。
まあでも、こんな幸せを堪能した後に待ち受ける不幸だったら、喜んで受け入れられるかもしれないな。