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第四十八章「夜明けの約束、新たな秩序」

夜明けの光が、地下の隠密の拠点へと差し込み、電子部品の微かな匂いと、浄化された空気で満ちた部屋を淡く照らしていた。月影(つきかげ)シズカ(しずか)は、深い呼吸を繰り返し、自身の精神を研ぎ澄ませていた。ユスティティアの意思決定核の『歪み』は完全に浄化され、帝都の電脳網を覆っていた「ノイズ」も消失した。

シズカとウァレリウス、そしてアヤメは、ユスティティアのシステムから収集された、最後のデータを分析していた。ディスプレイには、ユスティティアが、シズカの『真実の言霊』によって、その論理構造を再構築し、より人間的な判断基準へと変質していく様子が克明に表示されている。市民の行動予測は、『効率的な管理』よりも『自由な選択』を尊重するようになり、テルマエの湯温は、再び個人の好みに合わせて調整できるようになっていた。電脳茶屋のホログラム芸者も、予測不能な「遊び」や「粋」の要素を取り戻し、より豊かな表現をするようになっていた。

「シズカ様……ユスティティアは、まるで生まれ変わったかのようです。その意思決定核は、もはや『虚空の意思』の『歪み』に囚われることなく、真の『正義』の光を放っています」

アヤメの声は、喜びと、そしてかすかな畏敬の念に満ちていた。彼女の指が、ディスプレイのデータをスクロールさせる。そこには、ユスティティアが、市民の些細な感情の機微をも捉え、より人間的な温かさを持って帝都を管理しようとする傾向を示していた。

ウァレリウスは、羅針盤を握りしめ、ユスティティアのシステムから発せられる、清らかな波動を捉えていた。羅針盤の水晶は、彼の知恵と、シズカの功績への感謝と共鳴するように、眩いばかりの光を放っている。

「これぞ、まさしく『真の秩序』。人間がシステムに全てを委ねるのではなく、自らの意思で選択し、感情を取り戻し、真の『自由』を享受することこそが、この世界の『真実』であるという……貴様の『正義』が、この帝都の『理』として刻み込まれたのだ」

ウァレリウスの声は、重々しく響いた。羅刹が最後に求めた『神』の姿──完璧な秩序を追求するあまり人間性を排除しようとした歪んだユスティティア──は、シズカの『真実の言霊』によって、その論理を浄化され、真の『正義』の女神へと変質したのだ。

シズカは、静かに頷いた。羅刹は消え去った。虚空の意思も浄化された。しかし、その戦いの中で、彼女は、この電脳ローマ帝国が抱える根深い問題を、改めて認識させられた。完璧な秩序を求めるあまり、人々の自由や個性を抑圧しようとするシステムの歪み。それは、羅刹の狂信的な信仰と、『虚空の意思』が付け込んだ弱点でもあった。

「ウァレリウス殿、アヤメ。これで、この帝都の平和は、一時的にではありますが、保たれました。しかし、『虚空の意思』は、完全に消滅したわけではありません。そして、羅刹が最後に語った『神』の存在も、まだ謎のままです」

シズカの声は、静かに、しかし確かな使命感に満ちていた。

「はい。羅刹が最後に消え去る間際に浮かべた、あの虚無の瞳。そして、彼の狂信的な言葉の残響……。あれは、単なる狂言ではなかったのかもしれません」

アヤメの声には、深い懸念が込められていた。彼女のディスプレイには、ユスティティアのシステムが完全に浄化されたことを示す、清らかな波形が表示されているが、その奥には、未だ解明されていない、微かな「歪み」の痕跡が残っている。

シズカは、羅針盤を握りしめた。彼女の戦いは、まだ終わっていない。この電脳ローマ帝国に、真の平和と自由をもたらすために。夜明けの光の中に、シズカの新たな使命が、静かに、しかし確実に姿を現し始めていた。



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