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第四十七章「崩壊の音色、目覚める帝都」

夜明けの光が、帝都ローマの街並みを優しく照らし始めていた。コロッセオの巨大な影は、その姿を朝日に預け、フォロの遺跡には、微かな秋風が吹き抜ける。しかし、その街全体に響き渡っていたはずの不協和音──『ノイズ』の異音は、完全に消え失せていた。

地下の隠密の拠点では、アヤメが電脳端末の前で、信じられないものを見たかのように呆然と立ち尽くしていた。彼女のディスプレイには、ローマ全土の電脳網に広がっていた「ノイズ」の波形が、瞬く間に収束し、消失していく様子が克明に表示されている。コロッセオのホログラム映写システムは、正常な稼働に戻り、帝都の空には、再び古代ローマの英雄たちの壮麗な姿が映し出されていた。市民たちの混乱は鎮まり、街路には安堵のざわめきが広がり始めている。

「シズカ様……! やりました……! 『ノイズ』が……完全に消滅しました!」

アヤメの声は、喜びと興奮、そして安堵に満ちていた。彼女の瞳には、涙が滲んでいる。

ウァレリウスは、羅針盤を握りしめ、目を閉じていた。彼の羅針盤は、ユスティティアの意思決定核から発せられる、清らかな、そして力強い波動を捉えていた。それは、これまで感じたことのない、真の秩序の波動であった。彼の顔には、長きにわたる使命を全うした安堵と、この奇跡への感謝が混じり合っていた。

「見事であった……月影(つきかげ)殿……。貴様こそが、この帝都が待ち望んだ『真実の言霊ことだま』の使い手……」

ウァレリウスの声は、静かに、しかし深い感慨に満ちていた。

その時、シズカの意識が、ユスティティアのシステム深層から、ゆっくりと肉体へと戻ってきた。羅針盤の水晶から放たれる光が収束し、シズカの全身を包み込む。彼女は、羅針盤を握りしめたまま、深く息を吐いた。身体の疲労が、ずしりと重くのしかかるが、その心は、帝都を救った確かな達成感で満たされていた。

「アヤメ……ウァレリウス殿……」

シズカの声は、疲労で掠れていたが、その瞳には、確かな勝利の光が宿っていた。

アヤメは、シズカに駆け寄り、その手を握りしめた。

「シズカ様! 本当に……本当にありがとうございます!」

アヤメの瞳から、大粒の涙が溢れ落ちる。

ウァレリウスは、静かにシズカの前に跪き、深々と頭を垂れた。

「貴殿の功績は、この帝都ローマに、永遠に語り継がれるであろう。貴様こそが、この地の真の守り手……」

彼の言葉は、偽りのない敬意に満ちていた。

シズカは、ウァレリウスの手を取り、彼を立たせた。

「いえ、これもウァレリウス殿の知恵と、アヤメの力があったればこそ。そして、帝都ローマの全ての人々の、記憶と意識があったからこそです」

シズカは、そう言うと、羅針盤を握りしめた。羅刹の狂信的な意思は消え去った。虚空の意思も、ユスティティアのシステムから浄化された。しかし、その戦いの中で、シズカは、人間がシステムに全てを委ねるのではなく、自らの意思で選択し、感情を取り戻し、真の『自由』を享受することこそが、この世界の『真実』であるという、彼女自身の『正義』が、この世界の『理』として刻み込まれたことを知った。



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