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電脳ローマ絵巻 DX風雲録 第三十七章「元老院への報告、そして新たな疑念」

夜明けの光が、元老院の大理石の壁を淡く染め上げ、その威容を際立たせていた。評定の間には、夜通しの事態で疲労の色を濃くした元老院議員たちが集まっていた。彼らは、からくり鎧を脱ぎ、質素なローブを纏っているが、その瞳は、帝都の安寧を願う、確かな光を宿していた。

月影(つきかげ)シズカ(しずか)とウァレリウスは、評定の間へと足を踏み入れた。シズカは、簡潔に、しかし詳細に、廃競技場で起こったこと、羅刹の企み、『虚空の意思』の顕現と、それを『真実の言霊ことだま』で封じたことを報告した。ウァレリウスは、その補足として、自らの羅針盤の力と、古の文書館に記された予言について語った。

元老院議員たちは、二人の報告を黙って聞いていた。彼らの顔には、驚愕と、信じられないものを見たかのような表情が浮かんでいる。

「……なるほど。つまり、この帝都を襲った脅威は、単なる電脳攻撃にあらず、この世の理そのものを変えようとする、古き神話に登場する存在であったと……。そして、それを、日ノ本(ひのもと)より来たる、貴殿と、この老人が封じたと申すか……」

元老院の議長を務める老議員が、信じられないという顔で言った。彼の声は、疲労で掠れていたが、その瞳は、真実を探ろうと、シズカとウァレリウスを鋭く見つめていた。

「はい。その通りにございます。羅刹は消え去りましたが、『虚空の意思』は、この帝都の記憶の層に深く根を張っています。完全に消滅したわけではありません。このまま放置すれば、いずれ再び姿を現すでしょう。ゆえに、この地の監視と、さらなる対策が必要でございます」

シズカは、慎重に言葉を選んだ。元老院議員たちに、全ての真実を語ることは、混乱を招きかねない。彼女は、彼らが理解できる範囲で、この脅威の深刻さを伝えた。

元老院議員たちは、互いの顔を見合わせ、深く沈黙した。彼らは、シズカの言葉の裏に隠された真の脅威を、肌で感じ取っているかのようだった。

やがて、議長がゆっくりと口を開いた。

「……分かった。貴殿らの報告を受け入れよう。帝都の兵士を廃競技場へ派遣し、この地の封印を厳重に行う。そして、貴殿には、引き続きこの脅威の調査を命ずる。帝都の平和を護るため、貴殿の力が必要だ。いかなる難儀も、申し付けよ」

議長の声は、重々しく、しかし確かな決意に満ちていた。元老院議員たちも、一様に頷いた。彼らは、シズカの言葉の真実性を疑いつつも、帝都の平和のために、彼女の力を借りる決断をしたのだ。

シズカは、深々と頭を下げた。

「はっ。御意のままに」

評定の間を後にすると、東の空は、茜色から藤色、そして淡い水色へと、息をのむほど美しいグラデーションを描いていた。真新しい太陽の光が、コロッセオの巨大な影を照らし出し、その光は、シズカの心に、新たな希望の光を灯した。

しかし、シズカの心には、まだかすかな不安が残っていた。羅刹は消え去ったが、彼の狂信的な言葉の残響は、シズカの心に深く刻み込まれていた。『虚空の意思』が完全に消滅したわけではないというウァレリウスの懸念。そして、羅刹が最後に語った『神』の存在。それは、単なる狂言だったのか、それとも……。

シズカは、羅針盤を握りしめた。彼女の戦いは、まだ終わっていない。この電脳ローマ帝国に、真の平和と自由をもたらすために。夜明けの光の中に、シズカの新たな使命が、静かに、しかし確実に姿を現し始めていた。



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