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第三十二章「共鳴する意志と終焉の幕開け」

祭祀場全体を揺るがす地鳴りのような轟音と、天井から舞い落ちる土埃の中、月影(つきかげ)静馬(しずま)は、狂気に満ちた電脳亭(でんのうてい)(ゆめ)(ゆう)の猛攻を受け止めていた。キンッ!キンッ!と、甲高い金属音が連続して響き渡り、光の刃と電脳(でんのう)小太刀(こだち)が激しく火花を散らす。彼の『真実の言葉』が『虚空を喰らうもの』の『意思』を揺るがした反動で、電脳(でんのう)黒船(くろふね)の攻撃は激化し、鉄斎(てっさい)とお(りゅう)からの通信は、切羽詰まった焦燥感を伝えてくる。

(……時間が、ない……!)

静馬は、歯を食いしばり、(ゆめ)(ゆう)の無秩序な攻撃を捌きながら、祭祀場の中央に鎮座する水晶を睨みつけた。水晶は、まだ激しく明滅を繰り返している。彼の『真実の言葉』は『虚空を喰らうもの』の『降臨』を妨害しているものの、完全に阻止するには、まだ何かが必要なはずだ。

「貴様……! この俺の『物語』を、邪魔しやがって……!」

(ゆめ)(ゆう)は、顔を歪め、憎悪に満ちた瞳で静馬を睨みつけた。彼の光の扇子は、まるで彼の感情を映すかのように、不規則に光を放ち、その攻撃はさらに苛烈さを増していく。

その時、静馬の脳裏に、北斎(ほくさい)|オルタの言葉が蘇った。「『虚空を喰らうもの』は……『真実の言葉』を恐れています……。その『言葉』が……『世界』を……『再構築』するからです……」。そして、絵に描かれていた、水晶の前に立つ静馬自身の姿。彼の口元は、何かを唱えているかのように微かに開かれ、その手には、電脳(でんのう)小太刀(こだち)が握られていた。その刃からは、青白い光が放たれ、まるで『真実の言葉』を具現化しているかのようだ。

(『真実の言葉』を、この水晶に……完全に定着させる……!)

静馬は、直感的に理解した。彼の『真実の言葉』は、一度発せられただけでは不完全なのだ。この水晶──『根源の器』──に、その『言葉』を深く刻み込むことで、初めて『虚空を喰らうもの』の『意思』を完全に封じ込めることができる。

「くそっ! 静馬殿! 無事か!?」

朧月(おぼろづき)の旦那! あんた、まさか一人で突っ込む気かい!?」

背後から、鉄斎(てっさい)とお(りゅう)の焦燥に満ちた声が響いてくる。彼らもまた、電脳(でんのう)黒船(くろふね)の猛攻に晒されながら、静馬を案じているのだ。

静馬は、(ゆめ)(ゆう)の攻撃を紙一重でかわし、水晶へと向かって駆け出した。彼の体から放たれる青白い光が、祭祀場全体を照らし出し、空間に満ちる『虚空を喰らうもの』の『意思』に、さらに強く抵抗するように揺らめく。

「貴様……! 何をするつもりだ!?」

(ゆめ)(ゆう)が、驚愕の声を上げた。彼は、静馬の意図を察したのか、光の扇子を大きく振りかざし、最後の抵抗を試みる。水晶から、さらに強大な光の糸が静馬へと襲いかかってきた。

静馬は、光の糸の奔流を全身で受け止めながら、水晶へと飛び込んだ。ピリリ、と激しい痛みが彼の全身を駆け巡り、意識がノイズに包まれる。しかし、彼は歯を食いしばり、その痛みに耐えた。彼の脳裏には、この街の、そして人々の未来が、鮮明に描かれている。

「──世界は、無に帰すべからず。記憶は、消滅すべからず。意識は、束縛すべからず。自由は、奪うべからず。真実の理、ここに顕現せよ!」

静馬は、再び『真実の言葉』を、祭祀場全体に響き渡るように、力強く唱え始めた。彼の声は、空間に満ちる『虚空を喰らうもの』の『意思』と共鳴し、その『意思』を乱していく。

そして、静馬は、電脳(でんのう)小太刀(こだち)を水晶の最も深い部分へと突き立てた。

ギィィィィィィィィン!

祭祀場全体が、これまでで最も激しく揺れ動いた。水晶から、眩いばかりの光が溢れ出し、祭祀場全体を、そして地下通路の奥までをも照らし出す。その光は、空に広がる不吉な「影」へと吸い込まれていく。しかし、それは「影」の『糧』となるのではなく、その『意思』を浄化するかのように、不規則に明滅を繰り返している。

「な……馬鹿な……! あたしの『舞台』が……! あたしの『神』が……!」

(ゆめ)(ゆう)が、信じられないものを見たかのように、呆然と立ち尽くした。彼の光の扇子は、その輝きを失い、地面に音もなく落ちた。彼の瞳には、狂気の光は消え失せ、代わりに、深い絶望と、そして全てを失ったかのような虚無の色が浮かんでいた。

その時、祭祀場全体を覆っていた「影」の『声』が、断末魔の叫びとなって響き渡った。それは、全てを『否定』し、『再構築』しようとする、強烈な『意思』が、今、完全に打ち砕かれたかのような叫びだった。

そして、その叫びと共に、祭祀場の中央に鎮座する水晶から、無数の光の粒子が、まるで蝶のように飛び立ち、空に広がる「影」へと吸い込まれていく。しかし、それは「影」の『糧』となるのではなく、その『意思』を浄化するかのように、不規則に明滅を繰り返している。

「くそっ……! こんなはずでは……!」

(ゆめ)(ゆう)は、顔を歪め、静馬を睨みつけた。その瞳には、もはや憎悪すらなく、ただ、深い虚無が宿っている。

彼の体は、まるで陽炎のように揺らぎ始めた。そして、静馬が瞬きをする間に、その姿は、祭祀場から完全に消え失せていた。

祭祀場全体を包んでいた光が収束し、静寂が戻る。水晶は、その輝きを失い、ただの巨大な石の塊と化していた。そこから伸びていた光の糸も、全て消え失せている。

朧月(おぼろづき)の旦那! 無事か!?」

「静馬! あんた、一体何をしたんだい!?」

背後から、鉄斎(てっさい)とお(りゅう)が、息を切らして駆け込んできた。彼らの体には、激しい戦闘の痕跡が残っているが、その瞳には、安堵と、そして驚愕の色が浮かんでいる。

静馬は、電脳(でんのう)小太刀(こだち)を鞘に収め、二人に頷いた。

「……終わった。おそらくは、これで……」

彼の声は、疲労で掠れていたが、その瞳には、確かな勝利の光が宿っていた。

その時、静馬の電脳(でんのう)印籠(いんろう)が、再び通信の着信を告げた。画面には、北斎(ほくさい)|オルタからのコールサインが点滅している。

北斎(ほくさい)|オルタ殿! 無事だったか!」

静馬は、慌てて通信を開いた。

「……はい。わたくしは……大丈夫です。あの『影』が……消えました……。空が……澄んでいます……」

北斎(ほくさい)|オルタの声は、相変わらずか細いが、どこか安堵したような響きがあった。

「そうか……よかった」

静馬は、心底から安堵した。彼女の描いた絵が示す未来は、完全に回避できたのだ。

静馬は、祭祀場の中央に立つ水晶を見上げた。そこには、もはや『虚空を喰らうもの』の『意思』は感じられない。ただ、静かなデータの流れだけが、微かに感じられる。

『虚空を喰らうもの』の『降臨』は阻止された。

しかし、この戦いは、静馬たちに、この世界の新たな『理』を突きつけた。

そして、朧月(おぼろづき)の夜は、今、まさにその終焉を迎えようとしていた。



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