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感情という錘  作者: 隆頭
第一章 幼馴染
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九話 堕ちていく心

 俺の過去に別れを告げるように、結々美に渡す予定であったブレスレットを踏み躙った。

 足の下でパキリと音を立てたソレは当然ながらバラバラになっており、ささやかな装飾となっていた部分は完全にちぎれている。


 チェーンとはいえ意外と脆いな……だなんて、上の空になりながら考えていた。


 震える手でその残骸を拾う結々美を見て、これで諦めてくれるだろうかと思った。というか、普通なら諦めるだろう。

 ここまでハッキリ拒絶されて執着できる人間など、果たしているのだろうか?


 もし彼女がそうなら、" あんな事 " はしないだろう。


「ああぁ……あぁ……」


 涙を流し、手を震わせながらソレを拾っている結々美に、かける言葉などない。

 形を失ったブレスレットは、まるで結々美への気持ちを表しているようだった。


 ただ俺は、何も言わずに扉を閉めて、心の中でそっと結々美に別れを告げた。



 自室に戻ってベッドに座り、深い深いため息をいた。慣れないことはするもんじゃない。

 故意に誰かの心を傷付ける、それだけの為に何かをするなど、初めてのことなのだ。


 人を殴ればその手が痛くなるように、誰かの心を傷付ければ心も痛くなる。

 確かに結々美に対しては嫌悪感しかないが、それとこれとは話が別なのだ。ざまあみろとは思えない。最後の彼女はどうにも痛々しく見えてしまった。

 だから感情なんていらないんだよ、振り回されて辛い事ばっかりだ。でもそれだって無駄ではなかったと信じたい。


 彼女がこれからは、同じ過ちを繰り返さないようにと願うばかりだ。




 翌日、いつもの場所で和雪と合流して、学校に向かう。ただ、彼曰く俺の様子がいつもと違ったようだ。

 顔色が悪いから心配だと言われてしまった、心配をかけてしまい申し訳ないな。


 二人で学校に向かい、相変わらず嫌悪感剥き出しの視線を受けながら自分の席へ向かう。

 いつものことだが、和雪と違って俺に声をかける人はいない。いるのは米倉だが、彼女が来るのは少し後だ。


 席に座ってしばらくすると、周りの声で結々美が来たことに気付いた。

 とはいえ、そんなことはすぐに忘れて ボーッとしていると後ろから誰かに頭を撫でられた。


「おはよう寺川くん」


「おはよう米倉さん……昨日はありがと」


 米倉に挨拶をした後、ボソッと昨日のことでお礼を言った。彼女はそれを聞いてニコッと笑った。


「いいよ……寺川くんも大変だね」


「まぁ、そうだね。でも昨日アイツとは話をつけたから、もうあれ以上関わってくることは無いと思う……そう信じたい」


「そっか、もし困ったらまた私が助けるからね」


 優しくしてくれる米倉に感謝しかない。その優しさに報いたいものだ。


「ありがとう。米倉さんも困ったことがあった頼ってよ。力になれるかは分からないけど」


「その気持ちだけでも嬉しいよ、寺川くんは優しいね」


「米倉さんには負けるよ」


 実際彼女の優しさは相当なものだが、俺の言葉に またまたぁと肩をポンポンと叩いてくる。可愛すぎるなぁ惚れるぞ。


 なんとなく、そんな俺たちを誰かが ジッと見ている気がしたが、そんなのはいつもの事なので気付かないフリをしておいた。

 気のせいかもしれないし、それでいいだろう。



 ─────────────────────



 これが私の軽率が招いたことだというのなら、あまりに残酷だけど、仕方ないとも思う。それはきっと、彼の心にそれだけの傷を与えたということだから。


 まさか雫が、ここまで酷いことをできるなんて……と思ったけれど、怒りや憎しみというのはここまで人を変えてしまうのかもしれない。

 その原因も責任も私にあることは火を見るより明らかだ。


 バラバラになってしまったブレスレットに握りしめ、ただただ涙を流し続けた。

 私が抱いた不安は全てただの杞憂で、まさか素敵なプレゼントまで買ってくれていたなんて……


 もしあの時ずっと彼を信じていたら、こんなことにはならなかった。

 好きでもない人の告白をわざわざ受け入れて、好きな人との関係を終わらせるだなんて、何一ついいことない。百害あって一利無しということだろう。


 誰も幸せにならない、最低な裏切り。

 裏切った本人でさえ何一つ幸せになれないだなんて、それこそ愚行というに他ならないだろう。

 いくら不安だったからってやっていい事と悪いことがある。


 もはや後悔の念も飽和して、ただ悲しみにくれるのみだった。


 雫は前から米倉さんと仲が良かったけれど、今日もとても良い雰囲気になっていた。

 羨ましい気持ちで二人をジッと見ていたけれど、それによって感じたのは悔しさと嫉妬だけだった。


 本当なら、壊れてしまったこのブレスレットを雫がプレゼントしてくれて、彼の誕生日に私も同じものをプレゼントすればお揃いになって、きっと笑顔に溢れていたんだろうと思う。

 それも全部私が壊した、取り返しのつかないこと。


 もう一度だけ……もう一度だけでいいから、やり直せないかな?

 それをただ願うことしかできない私は、そもそもそんな権利も無いかと胸中で自嘲する。


 ホント、ばかなことしたなぁ……

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