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感情という錘  作者: 隆頭
第三章 家族

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八十一話 遺恨

 改めてプリントした写真を抱え、ホクホク顔で家に向かう。私は今、引き取ってくれた親戚の家で暮らしている。

 あの後お父さんは逮捕され、これからは私と会うことも無いだろう。


 今度こそ写真はバレない場所に隠しておかないと、また誰かに触られちゃ堪らない。以前ほどの枚数はないけれど、大切な宝物だ。

 もしあの時、寺川くんがアルバムを作ることを許さないと言ったならば、決してやることはなかっただろう。でも彼は、知らなきゃ止められないだなんて、わざわざ言ったのだ。

 それはあくまで、不干渉の姿勢でいるということに。


 私が裏で悪いことを言っていたことだって、許すことも忘れることもないと言った。それはつまり、私のことを覚えてくれるということだ。

 好意的に捉えすぎていることは分かってるけど、まだまだ私は彼を忘れられそうにない。


 本当に大好きな寺川くんのために、今度はできることをしようと思う。少しでも助けになれるかな?

 そんことを考えながら、封筒に入れてある彼の写真をちらりと見る。そして見えるのは、私が何度も唇を当てた写真だ。

 これが私のお気に入り。思わず口角が上がり、胸がドキドキと音を立てる。苦しささえ感じるほどに高鳴る胸を抑え、早く帰ってアルバムにしなきゃと急ぐ。


「楽しそうだね」


 そう声をかけられて、後ろに振り向く。そこにいたのは、夏休み前に噂を流したあの子だ。

 どうやら声の主は彼女らしい。


「まぁ、そうだね。住む場所が変わったからかな」


 少しだけ驚いたものの、何事もないかのように答えた。

 私が引越した理由を知るのは、寺川くんと米倉さんだけだ。目の前の彼女含め、他の皆はその理由を、家庭の事情で引越したと考えており、そこまで深刻だと思ってはいない。


 「ふぅん、そうなんだ。私はアンタのせいで、辛い思いをしたっていうのにさ。自分だけは寺川にちゃっかり取り入って、許してもらおうとして」


「それはお互い様じゃない?あなたはちゃんと謝ったの?」


「どうして私があんな奴に!」


 私の言葉に被せるように、彼女は声を荒げる。いつの間にか、寺川くんへの嫌悪を強くしていたようだ。

 これも私のせいだ、彼女の意識(てきい)を彼の方に向けさせたのだから。


「私はアンタの言う通り、アイツの本性を皆に教えただけ!腐ってる奴のことを皆に教えて何が悪いっていうの!」


「悪いよ、だって事実無根だからね。私が嘘と本当を混ぜて教えたのも悪かったよ。だからもう、考え直そうよ。寺川くんは優しいよ」


「ふざけんな!」


 分かってはいたけど、やっぱり聞く耳をもたない。それもそうか、私とは行動原理も環境も違う。

 好きだから矛先を向けた私と、嫌いだから矛先を向けた彼女。加えて私は、人を使うというズルいやり方をしたんだ。

 利用された彼女が私に怒るのは当然。だからその矛先は、私にだけ向けば良い。


「アンタのせいで、私の居場所がなくなったんだよ?」


「うん、それはごめん。だから私と──」


「うるさい」


 私と一緒にいようと提案する前に、彼女はそう被せる。鞄から刃物を取り出して、それを私に向けた。

 これは、まずいかもしれない。


「全部アンタのせいだから」


 そう言って、私に向けて駆け出す。咄嗟のことに反応が遅れ、それが私の脇腹を傷付ける。

 転ぶように避けたから、刺さらなかったのは不幸中の幸いだけど、その勢いで封筒を落としてしまった。封をしていなかったからか、写真が外に出てしまう。


「えっ、寺川……?」


「っ……!」


 彼女はその写真を見て呟いた。私はその写真を咄嗟にしまおうとしたところで、彼女はそれを踏みつける。


「あぁっ!」


「なにこれ。まさかアンタ、寺川のことが好きになったの?」


「っ……」


 怒りのあまり睨み付けても、刃物を突き付けられたまま睨まれてしまうと、目を逸らす他ない。

 何とかして取り返したいけど、それを許してはもらえない。


「ちょっと謝って絆されて、あんなクソみたいな男に尻尾振るなんて、バカみたい。このクズが!」


「やめなさい!」


 激昂した勢いのままに刺そうとソレを振り上げた彼女は、制止する声と共に止められる。それは女性の声で、その人はナイフを持つ手を握っていた。

 それとほぼ同時に警察がやってきて、ナイフを持つ彼女は手からソレを落としてヘナヘナと座り込む。どうやら聞きつけた警察がやってきたらしい。


「どうして、どうして私がこんなことばっかり……悪いのは私じゃないのに」


 ボソボソと怨み節を並べる彼女は警察に連れられ、力なく従っていった。私は汚れてしまった写真を拾って、助けてくれた人にお礼を言った。


「ありがとうございます」


「いいのよ。それより怪我は?」


 そう言われて傷を見るけど、浅く切られただけなので大したことはない。


「ちょっと切っちゃっただけなので、大丈夫です。ありがとうございます」


「それならよかったわ……それで、あなたは雫のお友達?」


「えっ」


 写真を見たからなのはすぐに分かったけど、この人がどうして寺川くんのことを知っているのかと驚いた。


「友達ってほどでは……私が一方的に好きなだけです」


「そうだったの。私は雫の母なの……元、だけどね」


 自嘲するように告げられた内容に、私は驚いたのだった。

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