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感情という錘  作者: 隆頭
第一章 幼馴染
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八話 確かな拒絶

 もう一度 雫と寄りを戻したいという私、海木原みきばら 結々ゆゆみは彼の家に来て、なんとか話をしようと思った。

 応対してくれた瑞稀ちゃんに彼を呼んでもらい、暫く待っていると彼が扉を開けた。


 私の大切な、大好きな男の子。


「っ、雫!」


「……なに?」


 その名前を呼ぶも、いつもよりも感情に乏しくなった表情で雫は冷たい声を出した。心まで凍りそうな程に、とてもとても冷たい声。

 私のしたことを思い返すとそれも当然だし、なんて言えばいいのか分からない。でも、いつまでも悩んではいられない。


「ごめんなさい雫。私のせいで嫌な思いをさせちゃった……本当にごめんなさい」


 深々と頭を下げて、謝罪の言葉をかける。私に出来ることはこれくらいだ。

 もし質問があればソレに答えるくらい。


「別に、今更どうでもいいよ。それだけなら帰ってくれ」


「待って!私、雫が好きなの!お願い、やり直させて……」


 まさかここまであっさりだとは思わず、無理に詰め寄ってしまった。良くないとは思うけど、それでも引き返す事はできなかった。

 このチャンスを逃したら、次はいつかは分からない。


「そうは言われてもな。もうお前を好きじゃいられないよ」


「いや!嫌だよ、だって私……まだ雫と一緒にいたいよ」


「結々美が始めたことだろ。そんなこと言われても無理だって」


 あれだけ不安に感じていた雫の私に対する気持ちが、今更になってちゃんと分かってしまう。あの時は別に私に興味がないとか、そんなわけじゃなかったんだ。

 でも、相変わらず動きの小さいその感情表現が、今の彼には私に興味が無いことを如実に表していた。


 怒ってさえいない……そのことがどうしても分かってしまって、それでも受け入れたくない。

 認めてしまったら、私はどうすればいいのだろう……


「でも、でも……!」


「……結々美の誕生日に、俺は渡したい物があった。去年は何もあげれなかったけど、バイトして買ったプレゼントがあったんだ……それを渡すことはできなかったけどな」


 その言葉に絶句した。私が馬鹿な不安で雫を疑っている間、彼はそんな用意までしてくれていた。

 それなのに、私はなんてことを……


「そんな……覚えててくれたんだ。私も今度は雫に──」


「いらないに決まってるだろ。どうせ渡すことはないんだし」


 良かったと、私の不安は杞憂だったんだと安心しかけたところで、彼はにベもなく告げた。

 何を渡そうとしたのかは分からないけれど、それでも私はその想いに応えようと思った。でも、それを雫は許さない。


「大好きな軽田にでも買ってもらえばいいだろ。お前の彼氏なんだから」


「ちがうよ!もう別れたよ、元々全然好きじゃないんだ……ただ、雫が私のことを好きなのかが分からなくて、怖くて……だから……」


「それがなんでアイツと付き合うことに繋がるんだよ」


 なんて言えばいいか分からず、ただ自分の気持ちを押し付けることしかできなくて、それでも段々と言葉が詰まる。

 そんな私に彼は冷たく言い放った。


「……はぁ、なんて言えば諦めてくれるんだ?あの時俺は、結々美に嫌われていると思ったから、すごく辛かった。最初は未練だってあったさ。でも、それも無くなった」


「ごめんなさい……ごめんなさいぃ……」


 淡々と告げられた彼の胸中に、涙が溢れてくる。きっと泣きたいのは雫のはずなのに、私の方が泣いてしまう。

 涙声で、ただただ謝罪を告げることしかできない私に、彼は掌に乗せた物を私に見せた。


「本当はこれが結々美に渡したかったものだ。目立たないように、それでも身につけられるもの……そう思って選んだものだ」


「っ……綺麗」


 派手ではないものの、シンプルなデザインをしたチェーンのブレスレット。あまり派手な物を好まない私にとって、それはとても嬉しい贈り物だ。


 心に出てきた希望。突き動かされるように私はソレに手を伸ばすけど、雫は私がソレを手に取る前に引っ込めて、私の手が空を切る


「あっ…」


「でも、これは結々美への未練だったものだ。叶わない想いってやつだよ。これは渡さない、渡せない。好きでもないのに渡すのは、俺の心が許さない」


「そんな……」


 雫は誠実だ。だから軽い気持ちで渡そうということは考えられなかったのだろう。

 私よりずっと、相手のことを考えられる人だから。


 だからこそ、恐ろしい程に残酷にもなれることを、私は知らなかった。


「だから、これは絶対にお前には渡さないけど……欲しいのか?」


「っ……欲しい、欲しいよ!私も雫の誕生日に同じものを買って、お揃いで付けよ?ね?」


 雫の問いかけを希望と勘違いした私が、能天気なことを言う。


「お前ならそう言うと思ったよ、俺も同じ気持ちだったからな。でも言ったよな?渡さないし要らないって。でもどうしても欲しいなら、くれてやるよ……っ!」


 しかし彼は、その手に持っているブレスレットを地面に叩きつけて、その右足で踏みつけた。

 普段の彼からは考えられないくらい、私の心を抉る行為。それはきっと、彼なりの応えだろう。


 私は呆然とただそれを見て、静かに涙を流すことしかできなかった。


 彼がその足をグリッと踏み躙った後、その足を戻すとソレは見るも無残な形になっていた。


「あ……あぁ……」


 彼は何も言わないが、膝を折り震える手で破片を拾う私を無表情で見つめていた。

 私に興味は無いけど、でも拒絶の気持ちは確かあったのだ。


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