表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
感情という錘  作者: 隆頭
第三章 家族

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

78/123

七十八話 宝物

 どうやって寺川を追い詰めようか。それについて何度も考えているものの、なかなか良い案が思い付かず煮詰まってしまっている。

 やはり大きいのは、彼に対する周囲の認識だ。


 特に、海木原(みきばら)さんが彼の評価を下がらないように立ち回っているのが厄介だ。あんな別れ方をしたから、一時期は上手く行っていたのに。

 まぁあれは、海木原さんと軽田が勝手にやったことだけど。軽田は調子に乗りすぎだね。


 いつだったか、アイツ私に告白してきたっけ。寺川くんの足元にも及ばないクセにいきがって、彼を目を敵にしていた。しかも女の尻を追いかけてばっかで、本当に気持ち悪い。

 故に、奴が今 孤立しているのは当然の帰結、ということだろう。誰だってあんなクズはお断りだ。



 結局、寺川を追い詰めるのは難しいね。そもそも、憎いのであって恨んでいるわけじゃないから、苦しめた先になにがあるのかって話……ん?

 ふと視界に入ったのは、いつぞやか寺川に絡んでいた後輩の女の子だ。

 よく彼女は、寺川に憎ったらしい顔と態度を向けていた。軽田と同じく、調子に乗っていたら痛い目に遭ったタイプだ。


 ちょっと、けしかけてみる?


 そう思って声をかけようと思ったけど、どうにも気が乗らない。なんだかやる気が起きないな。

 吐き気もするし、なんならさっき少し嘔吐(もど)してしまった。嫌な予感がする。

 そういえば、前の生理っていつだって?元々不順しやすい体質だったけど、こんなに遅かったのってあんまりなかった。どうしてだろ?


 まさか、ね。いくらなんでも、そんな簡単にするはずないって。いったいどんな確率よ。

 ちょっと体調が悪いだけ、寺川くんを眺めればそのうち治るよ。そう思って、彼の横顔を眺めることにした。



 学校が終わり、少し急いで席を立つ。早く帰って寝たい。しんどいし気持ち悪い。

 いつもより重い身体を抱えて家に帰ると、私の部屋にお父さんがいた。このしんどい時に、面倒くさいなぁと思ったところで、その手にあるものに気が付いた。


 それは私の宝物である、寺川くんの写真があったアルバムだ。それを勝手に触られたことで、私の頭は怒りに染まる。


「勝手に触らないで!」


 怒りのままに叫んでアルバムを取り上げる。おそらく中身を見られただろう、隠し場所を考えないと。

 今まで部屋に入ってくることがなかったから、すっかり油断していた。


「ソイツは誰だ?」


「別に誰でもいいでしょ」


 私で処理してるくせに、余計なことまで首を突っ込まないで欲しい。まさか、誰かを好きになることさえ許さないとでも言うのか。

 本当にムカつく。


「まったく、下らんことをしおって。もっと他にやるべきことがあるだろう」


「なにそれ。親の処理をしろってこと?散々私を使ってるんだから満足でしょ、余計な独占欲出さないで」


「ふん。お前は俺の物だ、変な男に現を抜かすなど許さんからな。バカみたいな写真ばかり貼り付けおって。まぁ、もう目を覚ますだろう」


 目を覚ますだの、バカなことを言うお父さんに首を傾げる。ふと嫌な予感がして、ギュッと抱き締めていたアルバムを、恐る恐る開いた。


「えっ……うそ、ねぇどこにやったの?写真は?」


「捨てたに決まってるだろう。お前にはいらないものだからな」


 捨てた……その一言を、じっくりと頭の中で反芻する。もしかしてとゴミ箱を見てみると、そこには無残に破り捨てられた、寺川くんの写真があった。


 気を失いそうになるほどの衝撃を受けて、目を泳がせながら、フラフラとその写真だったものを手に取る。


「あ、あぁ……」


 そんな……という言葉さえ出てこない。叫ぼうにも、そんな力も残ってない。

 信じられない、信じたくない現実が、無理やり視界に入ってくる。


 私の大好きな寺川くんを映した、大切な写真。

 たとえお母さんが亡くなっても、お父さんに道具にされたとしても、なんとか耐えられたのは写真があったからだ。

 心の支えと言っても良い。


 付き合えなかったとしても、辛いときには寺川くんの写真を見れば、それだけで立ち直れた。でもそれが、こんな酷い姿にされるなんて……


「いっちょまえに落ち込むんじゃない。俺がいるだろう、たかが写真などすぐに忘れる」


 自分がなにをしたのか全く分かっていないのか、この男は軽く言ってのける。何が父親だ、自分の子供に汚い欲を向けているだけのクセに。


「ふざけんな……」


 ポツリと、呟くように言葉が漏れる。掠れた声を出すのが精一杯だ。

 そんな私に、この男は なに と呟いて首を傾げる。


「ふざけんな!たかが写真なんて言うな!」


 激情のままに立ち上がり、男を睨み付けてできる限りの声を上げる。

 でも、たくさん言いたいことがあるはずなのに、感情の奔流に流されて、上手く言葉が出てこない。


「うるさい奴だ。お前は俺のためにいればいい」


 男はそう言って、ズボンのファスナーを下ろす。ソレが目に入るとビクリと身体が跳ね、怒りの感情が押し潰されそうになる。


「なにをしている、やれ」


 動かない私を見て、男がそう命令した。

 思わず膝をついて、それに従いそうになる。でも、もうそれはやりたくない。許せない。


「早くせんか!」


 頭を掴まれて、グイっと処理を強制させられる。いつもいつも、最初は口でさせられて、その後は挿れられる。

 どうして私がこんなこと、しなきゃいけないんだ。


「いやっ!」


 髪を掴まれなかったことが幸いし、なんとか男の手から逃れることが出来たが、すぐ腕を掴まれてしまう。


「こんのクソガキが!」


 扉を目の前にして、外に逃げることもできないまま壁に叩きつけられる。顔が壁に強くぶつけられたことで、口内を切ってしまい血が出てしまう。


 なんとか逃げられればいいのに、大の男に力で勝てるはずがなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
噛み切ってやれ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ