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感情という錘  作者: 隆頭
第三章 家族

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七十七話 久しぶりの元カノ

 あの女が接触してきて数日経過した。あれから奴が話しかけてくることはなく、平穏な日々が続いている。

 そんなのんびりとした日々の中、下校中に(かえで)と別れたところで声をかけてきたのは、よりによって結々美(ゆゆみ)であった。なんやねん。


「ごめんねいきなり呼び出しちゃって。そういえば、怪我は大丈夫?」


「お前が心配する必要ないだろ。見ての通り大丈夫だよ」


 少なくとも円満な別れ方ではなかったというのに、どうして何食わぬ顔で尋ねてくるのか分からん。本題を言えよ本題を。

 だから雑に返してやった。なのに、結々美は気にした様子がない。


「そっか、よかった」


「……どーも」


 コイツは自分がなにをしたのか忘れたのだろうか?ニコニコとご機嫌にクッソ可愛い笑みを浮かべているが、それを向けるべき相手は俺じゃないだろう。

 それにしても、やっぱり楓は最高だな。結々美の笑顔を見ても他人事のように可愛いとしか思わないもん。


「それでね、あの子のことなんだけど……」


「あー、うん」


 どうやら探りを入れていたようだ。例の女子生徒についての話を、結々美から伝え聞く。

 とはいえ、別にどうということもない、一般的な家庭らしい。彼女の家を直接見た奴はいないが、まぁ高校生ともなればおかしい話じゃない。


 小学校や中学校のように、学区で区切られているというわけじゃないから、住んでいるであろう地域候補の範囲が広い。人によっては隣の市から来てるなんてのもおかしくないし、なんならそれでも近いくらいだ。


 友人の住んでいるところの地名は分かるが、立ち入ったことのない地名ですってのもよくあるのなら、更にそいつの家を把握することも中々ないだろう。


「だからね、私あの子の家を見てきたの」


「見てきたのかよ」


 結々美の行動力に驚きつつ、彼女が見たものを聞かせてもらう。その内容は、一般的な家庭とは言え、裕福ではなさそうだった。


 築年数がかなり経っており、言っちゃ悪いがかなりボロい建物で、奴の父親と思しき人物は、かなり不健康な見た目らしい。

 また、スーツもよれており、着古した感じが強いとのこと。


 まぁ、個々の家庭にはそれぞれ事情というものがあるはずだ。俺は父さんがバチバチ稼いでいたし、それは母さんも同じだ。

 共働きともなればその分稼ぎは増えるし、家も持ち家だ。まぁ今はそれも母さんのだけど。


 細かいことは俺もよく分からないが、もしあの女子生徒の母親がいないとしたら、その分苦労することにもなるだろう。


「というか、もしかしてソイツの父親と会ったのか?偶然帰ってきたとか?」


「たまたま見かけただけだよ。入ってった部屋も同じだったから、間違いないと思う」


 まぁそんなことを知ったところでって話だろう。人の家庭のあれこれを詮索するのは好みじゃないし、ましてやあんな奴のことを知ったとして、どんな旨味があるのか。


「ただね、ずっとカーテンが閉まりっぱなしだったのは気になったな。なにか見られたくないものでもあるのかな?」


「そんなこと知るか。ただ怠けただけじゃねぇのか?」


 もしかしたら開けたくないだけかもしれない。怪しく思えることの理由は、意外とそんな下らないことだってある。

 まぁ知るのはあの女とその家族だけだが。


「もしかして、なにか悪いことでもしてたりして。それこそエッチなこととか?」


「それこそ勝手だろ、ほっといてやれ。俺に矛先が向かなきゃなんでも良い」


「ツレないなぁ」


 俺の無関心な返答に結々美は口を尖らせる。そして、すぐに表情を戻して、踵を返した。


「取り敢えずそんなとこだよ。また何かあったら連絡するね、バイバイ」


「おう、じゃあな」


 立ち去っていく結々美に手を上げて返し、俺は、家に向かう。すると、後ろから結々美が戻ってきた。はよ帰れ。


「忘れてた。あの子の家の場所、一応教えとこうかなって」


 そう言った結々美は、俺の返事を待たずにスマホを取り出して、マップを開きその場所とやらにピンを刺した。

 意外な場所に住んでいるということは、よく分かった。


「そう言うわけで、今度こそ帰るね!じゃあね雫、大好き!」


 言いたいことを言って、満足して離れていく結々美に頭を抱える。結々美のことでもそうだが、例の女が住んでいるという場所に、もっと頭が痛くなる。


 なにせ奴の家は、俺の住むアパートの近所だと言う話だから、たまったものではない。

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