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感情という錘  作者: 隆頭
第三章 家族

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七十五話 夏休みを終えて

 そうたくさん遊ぶことのできなかった夏休みだったが、それでも終盤は(かえで)たちと遊ぶことができた。瑞稀(みずき)美白(みしろ)さんも仲良くなれたから、それも良かったことのひとつだ。

 それに、華純(かすみ)さんもすごく優しい人で、今日まで一緒に住んでいたわけだが、とても俺たちのことを気にかけてくれた。

 瑞稀(みずき)もすっかり安心感を抱いたようで、もう俺の家に戻っても大丈夫だろう。


 課題もそこまで難しくなくてすぐに終わったし、終わり良ければすべて良しってとこだな。登校日も先日終わったので、明日からは普通に学校。


 とはいえ明日自体は始業式だけなので、そこまで苦にはならないな。のんびりやれるので助かる。

 ただ一番の問題は、例の女子生徒だ。俺に妹がいると周囲に広める一旦を担った女。奴が余計なことを噂女にバラしたせいで、面倒だらけだった。

 変なことがないといいけどな。


 ちなみに、あれから母さんからの接触はない。暗識(くらしき)の方も順当に裁く方面に向かっているらしい。もうそっちの方は心配することもないだろう。

 バイト先にも顔を出して、来週から出られると店長にも伝えておいた。怪我の具合を心配されたが、もちろん問題ないとも言っておいた。

 今はもう痣が残ってるくらいで、もちろん見苦しくはあるが、それもだいぶ引いてきたしな。



 そんなこんなで二学期が始まり、久しぶりに和雪(かずゆき)と共に学校へ向かう。


「よう(しずく)……ってお前、大丈夫か?すげぇ顔になってんぞ」


「おはよ、大丈夫だ。ちょっと歯が折れただけだからな」


「それは大丈夫じゃねぇだろ、なにがあった?」


 当然ながら心配されてしまった。和雪(かずゆき)からは、少しばかり怒気を感じるが、既に加害者は捕まっている。

 学校に行きがてら、その辺りの話をして、今は調子が悪くはないことも伝えておく。結々美から聞いた、例の女についても。


「やっぱり確定ってわけか。アイツが嘘ついてなけりゃだけどな」


「もうその時はその時だろ。それに、今さら嘘言うってのも変な話だ」


 疑心暗鬼になったって疲れるだけだ。そう思っての言葉だが、和雪(かずゆき)は微妙そうな表情をしている。信じきれてない感じ。

 なんにせよ、奴がちょっかいをかけてこなければそれで良い。そうじゃなければまた考えるしかない。



 そんなこんなでまた数日経過した。夏休み前に綾坂(あやさか)にしょっぴかれて行ったあの女子生徒だが、奴は学校にやってきていた。よくもまぁ顔を出せるもんだとは思ったが、それでも孤立していることがよく分かる。

 前のようなイキイキとした姿はそこになく、ひっそりと過ごしているようだ。


 また、夏休み前に告白してくれた女の子についても、なんだかんだ仲良くやっている。良い友達って感じだな。クラスの連中とも、以前のような悪感情はなく普通に関わっている。


 割と順風満帆だ。だからこそ、そのうち何かあるのではないかと不安になってしまう。また誰かが変な噂を流すのではないか、誰かに悪意を向けられるのではないかと。

 日常というものはいつだって、あっさりと崩れ去ってしまう。その原因が誰であろうと、きっかけなどたった一つだ。


 瑞稀(みずき)のときや、結々美(ゆゆみ)のときのように、その時はいきなりやってくる。


「ちょっと良いかな、寺川くん」


 そう声をかけてきたのは、例の女だった。なんてことのない様子で、彼女はいきなり俺を呼び出そうとしてきたのだ。

 今から帰ろうと思ったんだがな。


「ここじゃだめか?」


「うーん、ちょっとね。できれば二人で話がしたいな」


 彼女から悪意は感じないが、俺だってそこまで察しが良いってわけじゃない。もしかしたら足元を掬われる可能性もある。

 少しくらい疑心を持たなければ、嫌な思いをするのはこっちだ。


「悪いけど二人きりってのはな。前だってそれで、悪意マシマシの噂を流されたわけだし」


「それはあの子がやったことでしょ?大丈夫だよ」


「そう言われても、確証がないんだよな」


 そもそも、二人きりで話す内容(こと)って、いったいなにがあるというのか。好意的に捉えばそれこそ告白なんてのがベタな話だが、仮にそうだとしても俺には(かえで)がいるのだから、それこそ応える義理はない。


 もしそうじゃないとして、あとは密告だろうか?だとしたら誰の?なんのために?という話である。教員にやれそんなのは。

 逆に悪意があると仮定すればそれは罠ということだ。女という性別を利用して、ありもしない被害をでっち上げれば成功する簡単な話。


 以前からある嫌な噂も紐付けしまえば、せっかく落ち着いたこのこの環境がまた荒らされてしまう。いい加減のんびりさせて欲しいんだ。


「そんなぁ、それじゃあ悪魔の証明じゃん。"ない" ことって証明できないんだよ?」


「そんなことはないだろ。別にここで話せば良いだけだ。そうじゃなくても、せめて楓も立ち会わせるなら考えるけどな」


 ここまで邪険にされれば、まともな用事で来た奴は引き下がるハズだ。悪意があるからいつまでも食い下がる。

 ほんの少しでも人の目から外れれば、言い訳なんていくらでも思い付くからな。


「んーそっか、分かったよ。じゃあ今日は諦めるね。それじゃまた!」


 やけにあっさりと引き下がっていく彼女に、なんとなく嫌なモノが拭えない。それはあまりに不気味だった。

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