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感情という錘  作者: 隆頭
第三章 家族

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七十三話 家族

 夏休みだというのにまったく(せわ)しないものだ、あのクソ野郎絡みで時間を割くことになり、気が付けばすでに八月半ばを迎えてしまった。

 ちなみに、バイト先には父さんが連絡を入れて、しばらく休むと伝えておいてくれたらしい。

 なので無断欠勤の心配はないのだが、少なくとも今月はシフトが入れられない。


 今はとにかく、問題の解決だ。



 ちなみにあのクソ野郎……暗識(くらしき) 葛彦(くずひこ)に対して示談は一切せず、そのまま傷害事件の罰を負ってもらう。示談にすると刑罰が軽くなるらしいので、それを防ぐためだ。

 どのみち奴に金はないらしいので、示談にしたところで払えないと、逃げられる可能性も高い。

 まぁその辺りは父さんが弁護士と考えてくれるので、俺が気にする必要はないか。



 母さんについてだが、暗識(くらしき)の共犯ということはなくなってしまったらしい。瑞稀(みずき)が襲われたものの、その手引きをしたというにはあまりにも稚拙で、本人(かあさん)が受けた精神的ダメージも大きいためだ。

 この状況を生んだ責任は大きいものの、警察にそれを追及する能力はないようだ。男に入れ込んだが故の、バカな判断の結果ということになった。


 そうなれば民事にしても、こちら側が不利なのでやる意味もない。どのみちそれをしなくても、子供を失うというダメージを与えれば大きいだろう。特に瑞稀(みずき)を失うとなればな。

 母さんからすれば、愛する男に裏切られた挙句子供が離れていくのだ、その精神的ダメージは相応の罰といえるだろう。

 同情の余地は全くないが。




 籍の移動も無事に終わり、瑞稀(みずき)の引越しも終えた。華純(かすみ)さんもしっかり向き合おうとしてくれているし、こちらは時間の問題だろう。

 話を聞いてとても心配してくれているし、母さんとは大違いである。 


 俺はしばらくゆっくり休むとしよう。難しいことは任せてくれと、父さんと華純(かすみ)さんが言っていたので、夏休みの間だけは父さんの家でゆっくりさせてもらおう。

 俺は引き続きあの家に住むが、もし母さんが来るというのなら転居を考えている。まぁその時のことはその時考えるさ。



 ──────────



 (しずく)瑞稀(みずき)も、私の傍から離れていってしまった。もしあの子達の言葉に耳を傾けていたら、こんなことにはならなかったのだろうか。

 ずっと信じていたあの人がまさか、瑞稀(みずき)を狙っていたがために私を利用していただなんて、本当であって欲しくはなかった。


 二人の言っていた通りだったのに、私はそれを信じることもなく、それどころか苛立ちさえ感じていた。あまりにもバカげていて、救いようもない話。

 子どもたちを愛していながら、その子どもたちを蔑ろにしているだなんて、誰が聞いても擁護などしないだろう。それどころか、軽蔑されてもおかしくない。


 私のバカな選択が瑞稀(みずき)の心を傷付けて、雫に大ケガをさせてしまった。今の二人がどうなっているかは、尚月(なおづき)さんから教えてはもらえない。

 せめて(しずく)が無事に退院できれば良いのだけれど……



 今思えば、(しずく)をずっと放置し続けていたときから、私は親としての資格が無いことを証明していたのかもしれない。それなのに、(しずく)が一人暮らしをすると言ったときに、それを引き留めようとした。

 散々拒絶される理由を作って、それなのに離れないでと言うのは無責任だ。自覚がなかったからこそ、余計にタチが悪いと言える。


 後悔しても改善していない私には、瑞稀(みずき)(しずく)も幸せにできる能力なんてなかったんだ。



 自分が信じたいものだけを信じた結果、何もかも失って後悔だけが残る。(しずく)にはなにもしてあげられず、瑞稀(みずき)のことも途中で突き放して、葛彦(くずひこ)さんばかりに気を向けて……




 離れていった二人に想いを馳せながら、強い後悔と悲しみに暮れる。涙が止まらず、ただ広いだけの家で一人の時間を持て余す。

 子どもたちを養っていくためにお金を稼いで、その仕事も在宅ワークがメインになったおかげで余裕ができたはずだった。

 本来使うべきそのリソースを無駄なところに割いて、今となっては何一つ(みの)り無く、終わらない後悔に使うしかない。


 お金も時間も空間も愛情も、全て向けるべきはあの子たちだった。特に、(しずく)にはなにもかも足りていなかった。

 どうして今になって、それを理解しているんだろう。手遅れも手遅れだというのに、どうすればいいんだろう。


 寂しい、苦しい……そんな感情も、(しずく)にはたくさん味わわせてしまった。尚月(なおづき)さんならきっと、そんな思いはさせないだろう。


 それなら私は何のためにいたの?何のために生きているの?

 親を名乗って、そんなハリボテの肩書きに何の意味があるの?


 そんな問いかけも、もはや口に出ることもない。答えは分かりきっていることだから。

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― 新着の感想 ―
まだ時効になって居なければ、母親に以前の不倫の慰謝料を請求すべきだね。それと養育費 慰謝料には今回の事件を踏まえて金額マシマシで。
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