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感情という錘  作者: 隆頭
第一章 幼馴染
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七話 後悔

 結々うっとうしいヤツに追いかけられた俺は和雪と夕方まで寄り道をしながら帰り、彼に見送られて家に入った。

 靴を脱いで家にあがると、リビングから顔を出した妹……瑞稀みずきが話しかけてきた。うぜぇな。


「おっおかえりお兄ちゃん、結々美ちゃんが探しに来てたけど……」


「ただいま。気にしなくていい」


 どうやらやはり結々美は家に来たようだ、わざわざご苦労なことで。俺は彼女の連絡は拒否しているが、恐らく瑞稀とは繋がってはずだ。

 もしかしたら帰宅報告でもされるか?と頭によぎったが、まぁその時はその時か。


 乗り込んできたらしっかり拒否の意を示しておくしかない。関係を終わらせたのは結々美だ。


 部屋に戻りカバンを置いて、その中から未練の証であった小さな箱を取り出した。

 結々美の誕生日プレゼントとして買ったもの、ちょっとしたアクセサリー。


 彼女との思い出の品はほとんど全て捨てたが、コレだけは思い留まってしまったのだ。

 捨てられないコレをカバンの奥底にしまって、自分の未練に目を背けた。だが、その未練ももうすっかり砕け散ってしまった。

 跡形も残らないほどに。


 その包装を破り、なんとなく箱を開けて中身を取り出す。


 派手すぎないようにと買ったチェーンのブレスレット。彼女といつかお揃いにしたいと願いながら、あの時はこれを手に取ったのだ。

 結局これが彼女の手に渡ることはなく、かといって他に渡す相手もいない。


 物に罪は無いが、処分してしまおうか。きっと見る度に心の傷が疼いてしまうから。

 そう思ったところで、誰かがノックをしてきた。誰かと言っても、今は家に瑞稀しかいないのだが。


「お兄ちゃん、結々美ちゃんが来てるよ」


「分かった、今行く」


 瑞稀が教えたのか、はたまた出直したのかは知らないが、結々美が来てしまったらしい。

 仕方ないかと立ち上がったところで、俺はふととある事を考えた。


 ハッキリと結々美を拒絶するためにどうするべきかということを。



 ───────



 厄介な事になってしまった。もちろん私が悪くないかと言われれば、どう考えても私が悪い、最低なことをしたと思う。

 雫が私のことを好きでいてくれるかどうかを確かめるために、軽田くんを利用した。

 彼が告白してきたから、その告白を敢えて受け入れることで付き合って、それに対して雫が否定たり怒ったりしてくれると、きっとそうだと信じ願っていた。


 雫は感情表現が乏しい。もちろん付き合いは長く、小さな表情の変化である程度の感情の動きは分かるのだけれど、彼と付き合い始めてからというもの、中々にその気持ちを察することに不安になっていたんだ。


 もちろん私が雫の感情を察することができなかったとしても、彼はそんなことで責めたりも怒ったりもしないことは分かっているのだけれど、それでも不安が大きくなっていってしまった。


 "感情が読めない" という不安が "私のことを好きかどうか" という不安ものへと形を変えて、それによって悩むようになった。

 もちろん彼はちゃんと言葉で好きだと伝えてくれるけれど、愚かな私はその言葉を疑ってしまった。


 どれだけ言葉を聞いても、どれだけ唇を重ねても、どれだけ愛し合っても……その心根にある好意を信じきれなかった。あるのかどうかさえも、どこか懐疑的だった。


 そんな不安を抱えたまま私の誕生日が訪れて、彼からの祝いの言葉があるのかと期待した。

 でも、朝に待ち合わせたときにその言葉が彼から出てくることはなかった。


 もしかしたら忘れてる?私のことはもうどうでもいいの?


 そんな気持ちが私の心を包んだけれど、その時完全に忘れていた事があった。

 雫は緊張するとたまに忘れっぽくなったり、どこか抜けたりしてしまうということを。


 後になって考えると、和雪くんがすぐに来るかも分からない状況で、私に祝いの言葉をかけるのは照れくさかったのかもしれない。

 その照れが緊張に繋がり、その結果忘れてしまったというのなら合点がいく。


 もちろん今更だし、だからといって好きでもない人に乗り換えるだなんて許されることじゃない。ましてや軽田くんは異様なほどに雫を敵視しているのだ。

 よりによって雫を目の敵にしている相手に乗り換えるだなんて、私もその同類だと思われてもおかしい話じゃない。

 だからこその拒絶だったんだろう。


 連絡もできないことからブロックされている事は雫の言う通り間違いなく、和雪くんに助けを求めてみたけど、当然ながら手を貸してはくれなかった。そもそもあまりにムシのいい話だよね。


 そんな状態ではいけないと、まずは軽田くんに別れを告げた。それだけじゃまだ足りないことは分かってるけど、大事なことだ。

 でもまだ私にはそれしか思いつかなくて、後は必死に謝ることしかできないと思った。


 それなのに、何故か学校では変な噂が流布されて、私が雫に脅されてるとか変なことを言われた。本当にもうやめて欲しい。

 私を心配してか友人たちも声をかけてくれたのだけれど、みんなここぞとばかりに雫を罵倒するのも、聞かされるこっちはすごくしんどい。


 それでもと思った私は、雫と直接話をするために声をかけた。彼は聞く耳を持たないし米倉さんには邪魔されてしまったけどね。

 だから彼を追いかけて家まで来たんだけど、まだ帰ってきていないと瑞稀ちゃんが先程教えてくれた。


 でも時間が経った今ならともう一度訪ねてみると瑞希ちゃんが出てきてくれ、雫について尋ねてみるとやはり彼は帰ってきていたようだ。

 瑞希ちゃんに雫を呼んで貰うようお願いし、そのまま待っていると彼が扉を開けた。


 なんとか雫を説得して、もう寄りを戻して貰えるように頑張ろう。


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