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感情という錘  作者: 隆頭
第三章 家族

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六十九話 そっちは様子見

 いったいどうして、雫だけでなく瑞稀まで葛彦(くずひこ)さんを嫌っているのだろう。不器用なところはあっても、少なくとも悪い人ではないのに。

 彼と電話をしている時に瑞稀が帰宅して、私は電話を切らないままに話をした。つまり、瑞稀の酷い言葉を彼が聞いてしまったというわけだ。


 傷付いていたらどうしようかと思って、瑞稀が部屋に戻ってからすぐに謝ると、彼は "年頃だから仕方ないさ" と、広い心であの子を許してくれた。

 本当に優しい人だと、嬉しくて涙が滲んでしまう。


 それなのにどうして、二人ともその優しさを理解しようとしないのだろう。あまりにも聞き分けのない子供たちに、頭を抱えてしまう。


 そういえば雫はいつだったか、元夫の方に行くと言っていたけれど、それはどうなったのだろうか?

 雫たちのためにこの家を残した彼は、隣の県にある実家に戻っていったはずだ。その場所を雫は知るはずがないし、連絡先だってお互いに知らないだろう。

 そこから考えられるのは、雫が私に言うこと聞かせたいがために言った、質の悪い嘘ということだ。そうとしか考えられない。


 一人暮らしを始めてから、随分と悪い子になってしまった。葛彦さんは "若い時なんてそんなものだ" と言っていたけれど、それにしたって酷すぎると思う。


 たしかに私はあの子を放置しつづけてしまったけれど、我が子を思う気持ちに間違いはない。それなのに、どうして理解しようとしてくれないのだろう。

 繰り返されるすれ違いが、関係修復を妨げる。


 私にはもう、どうすれば良いのか分からない



 ──────────



 妹である瑞稀も俺と一緒に父さんの方に籍を移すことは、問題なく決まった。まだ華純(かすみ)さんとの顔合わせはしていないが、それはまた少し後になる。

 先にやるべきは、母さんにその旨を話すことだ。バイトが休みである明後日に、籍を移すことを母さんに話す。


 もうこれ以上母さんにはついていけないから。


 ちなみに父さんには、過去から続く母さんの行いについての話をした。俺を放置した挙句、優先していた瑞稀でさえも蔑ろにしていることを。

 もちろん瑞稀との間に起こったことも、それが一区切りついたこともだ。


 父さんから養育費(おかね)は受け取っていたみたいだが、子どもへの愛情は受け取らなかったということだろう。話を聞いた父さんはだいぶ憤っていた。

 俺たちが母さんから離れるということにも納得の意を示していた。母としての責務に対しては、信用していたらしい。

 どちらかといえば、任せるしかなかったという方が正しいかもしれないが。



 実際に籍を移す手続きを終える前に、瑞稀の荷物を父さんたちの住む家に移動させる予定だ。あの男の魔の手から一刻も早く、瑞稀を引き離す。

 タイミングとしては、それこそ明後日に母さんとの話を終えた後だろう。その日には父さんはも実家にくるから、荷物を車に乗せればそう苦労はしないはずだ。

 二日もあれば瑞稀も、荷物をまとめることができるだろう。


 とりあえず今は、その時を待つしかないだろう。



 そんな日の夜、スマホに着信があった。画面には結々美を示す名前が表示されており、いったいどんな用事なんだと首を傾げる。

 面倒なので無視しようかとも思ったが、そんなことをしても仕方ないので、受話器のマークをスワイプして対応した。


「もしもし」


『もしもし雫?ごめんね、こんな時間に』


「本当だよ。それで、何の用?」


『あのね、雫に妹がいるって話をした人の話っていうのかな?前に綾坂さんに連れてかれた子に、その話をした人のことで』


 それを聞いて、俺は あー…と返す。探りを入れてはいたが、どうやらその目星がついたということだろうか。

 こちらもそれは同じなので、先日和雪から聞いた名前を、結々美に伝えた。どうやらビンゴのようで、彼女は 知ってたんだねと返す。


「まだ確定はしてないけど、一番怪しかったってだけだ。もしかして……」


『うん、間違いないよ。だってあの子に聞いたからね』


 あの子とはつまり、綾坂に連れてかれたアイツである。やはり、女子には女子の繋がりとやり方があるか。

 不服ではあるものの、さすがに頼りになるな。


「それで、ソイツはなにか言ってたか?」


『ううん、まだ話はしてないよ。夏休みが終わったらとは思ってるけど……』


 分かりにくいが、ソイツというのは妹がいることをアイツに話した女だ。黒幕と言うにはやっていることがささやかなだけに、どう表そうかと考えてしまうな。


 そのままスッ込んでいて欲しいものだが、どうなることやら。


「分かった。後は?」


『んっ、それだけだよ。ありがとね、話聞いてくれて』


「あーはいはい。こっちこそ情報提供ありがとよ」


『うん♪』


 話が終わったからと、さっさと挨拶をして電話を切った。

 そちらについては特にできることもないし、無視をしておくことが一番だろう。今やるべきは、母さんとのことについてなのだから。


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