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感情という錘  作者: 隆頭
第三章 家族

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六十八話 愚母

 お兄ちゃんの家から帰宅した私は、リビングでスマホを片手に持ちながら、ソファに腰を下ろしていたお母さんに声をかけた。


「ねぇお母さん、話があるの」


「どっどうしたの?瑞稀」


 いつもより畏まっている私を見たお母さんは、少し戸惑っているように見えた。そんなお母さんの隣に腰を下ろして向かい合う。


「お母さん、あの人と別れて」


「え……どっどうしてそんなこと言うの?」


 私の切実なお願いに、お母さんは戸惑ったように言った。


「だって、あの人浮気してるんでしょ?お兄ちゃんから聞いたよ。それなのに、どうしてお母さんはまだ別れてないの?話は聞いてるでしょ?」


「それは……それは誤解よ。あの人の友達らしくて、距離感が近い人らしいわ。だから雫が勘違いしちゃっただけで、浮気じゃないの」


「それがあの人の言い分?」


「あの人じゃないわ、葛彦(くずひこ)さんよ」


 どうやらそう言うことらしい。物は言いようという言葉をお母さんは知らないのかな?そんな取って付けたような言い分を鵜呑みにするなんて、お母さんには呆れてしまう。

 やっぱり、私もお父さんのほうに行こうかな。


「もしかしてお母さん、その言い分をホントに信じるの?きっと口からでまかせだよ、それくらい分からない?」


「やめて、あの人はそんな人じゃない!」


 話にならない。お母さんは完全にあの人を盲目的に信じている。

 そりゃあお兄ちゃんも呆れるわけだ。


「それにね、あの人すごくベタベタしてくるから鬱陶しいの。ジロジロと胸とか見てくるし、ノックもしないで部屋に入ってくるし、私怖いよ。そのうち襲われるんじゃないかって思って」


「葛彦さんはそんなことしないわ。きっと瑞稀と仲良くなりたいだけなの、ただちょっと距離を間違えてるだけよ」


「それでも限度があるじゃん!仲良くなりたいだけって、それならどうして嫌って言ってるのに直さないの?おかしいじゃん!」


 あまりにも馬鹿げた答えに腹が立って、思わず立ち上がり怒鳴ってしまう。間違えてるだけだなんて、いくらなんでも軽く考えすぎだと思う。

 もう私の中には、お母さんと別れることが決まっていた。


「落ち着いて、瑞稀」


「落ち着けるわけないじゃん。お母さん自分がなに言ってるのか分かってるの?私あんな人に犯されたくない!」


「なんてこと言うの!言っていいことと悪いことがあるでしょう!」


 琴線に触れたのか、空いた手を握ったお母さんが怒ったようにそう放つ。私といえば、先程までの微かな期待もなければ、苛立ちさえもなくなってしまった。

 もう何を言っても無駄なんだと、すごく残念な気持ちになる。そして、とても悲しい。


「──もういいよ、それなら。私は私で好きにするね」


「え、どういうこと?」


 聞き返すお母さんを無視して、私は部屋に戻った。もしかして洗脳でもされたのではないかと思うくらいに、あの人のことを信じきっている。

 もはや問答無用とばかりに信じることを強制されてしまい、大好きだったはずのお母さんに気持ち悪さを感じてしまう。


 やっぱり私もお兄ちゃんに着いていこう。そうじゃないと、絶対に後悔するから。


 そう思って、お兄ちゃんに電話をかけた。



 ──────────




 母さんにはほとほと呆れた。なにも成長していないどころか、悪化しているようにも感じる。俺だけでなくまさか瑞稀まで放置するつもりか?

 あまりにも酷すぎで、もはやコメントさえできやしない。


 とりあえず、瑞稀も俺と一緒に籍を移すという話を父さんにもしなきゃならない。そして早いうちに、母さんとは縁を切るように話をしなきゃいけない。

 ちなみに、今のスマホの回線を切って、俺名義で契約しようと思う。幸い端末代金は払ってあるので、切れば終わりだからショップに行けばすぐだ。明日にでも行こう、ついでにスマホも新調しようかな。


 できるだけ、母さんとの繋がりは断っておきたいからな。母さんが払ってるのは携帯代と学費だけだし、それらも父さんが出してくれるみたいだ。

 母さんと絶縁できるなら、喜んでするよ。ただ、今住んでいる家はどうしよっかなぁ……


 そんなことを悩みつつ、こうして着々と母さんの傍から家族が離れていく。瑞稀が離れたとき、あの男がどうするのか、見物ではあるな。


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― 新着の感想 ―
タイトル以上の言葉が見つからないなぁ。 どこまでいっても自分本位でしかないとは⋯⋯。
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