表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
感情という錘  作者: 隆頭
第三章 家族

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

67/123

六十七話 瑞稀の選択

 瑞稀との関係が、完全とまではいかないまでもそれなりに元通りになってきた。まだどこか俺の心には距離があるものの、兄妹として笑い合える日に近付いているのかもしれない。


 そんな期待ともいえないが、僅かながらの前向きなことを考えていると、大事なことを伝えていないことを思い出した。

 瑞稀を胸に抱いたまま、その櫛を流しながら声をかける。


「瑞稀。俺さ、もう母さんについていけない」


「えっ……うっうん」


 突然の放たれた俺の言葉に悲しそうな声で返す瑞稀に、そのまま言葉を続ける。


「だからさ、俺は父さんの方に行くよ」


「えっ?父さん?」


 驚いているところへ更に、これからのことを話す。父さんと一人暮らしを始めてすぐに会ったこと、今も連絡を取り合っていること、父さんにも再婚相手がいることを話した。

 そして、一番聞きたかったことを、瑞稀に尋ねる。


「瑞稀は、母さんと父さん、どっちがいい?」


「えっと……」


 当然だが、いきなり重要なことを聞かれた瑞稀は黙り込む。はっきりいって、今の母さんに瑞稀がついていけば、あの男に手を出されるのは時間の問題だろう。一人暮らしが間に合うなんて、そんな楽観的なことは到底思えない。

 母さんはそれを知ってか知らずか、それでもあの男を家に上げているし、危うい場面もあった。むしろ、今まで強引にでも手を出されていないことの方が、不思議なくらいだと言ってもいい。


 もし瑞稀が母さんを選んだとすれば、必然的にあの男に身体を捧げることと同義になる。それくらいギリギリの状況だ。

 瑞稀にはそのこともしっかり説明し、その上で判断を委ねる。大事なのは、本人の意志だ。


 俺の言葉を聞いた瑞稀は、しっかりとそれを飲み込んだ上で、逡巡の後に顔を上げた。背中を預かっているので、こちらからその表情は窺えない。


「まだ私は、決めれないかも。お母さんともう一回話してみないと……」


「そうか、なら次で決めた方がいいと思うぞ。アイツがいつ暴走したっておかしくないからな」


 俺の言葉に瑞稀は少し不安そうな表情を浮かべながら頷いた。なんとなく、時間はあまりないような気がした。


 どうか無事に終わって、楓と遊びに行きたいものだ。その時は、瑞稀と美白さんも一緒に。



 ───────────



 ずっと言えなかったお兄ちゃんへの謝罪の言葉を、ようやく口にできた。許さないとも忘れないとも言っていたけど、憎まれてはいないようで少しホッとする。

 でも、そんなことは当然だ。人として最低なことをしたのに、まだ兄でいてくれることに感謝さえしてる。

 だから、思わず思い切り泣いちゃった。久しぶりにお兄ちゃんの前で泣いた気がする、ちょっと恥ずかしいな。


 でも今は、それどころじゃない。ついさっきお兄ちゃんの家から帰ってきた私は、お母さんに大事な話をしなければならない。

 今回の返答が、私のこれからを決める。あんな人に汚されるくらいなら、私はお兄ちゃんを襲いたい……なんてね。


 半分本気ではあるものの、実際にそれをするわけにはいかない。でもあの人は絶対に嫌だ。最悪な想像(みらい)を避けるためにも、やっぱりお父さんの方に行くべきかもしれない。


 実を言うと、私はお父さんのことをよく覚えていない。私に物心が付いてすぐに離婚して、離ればなれになってしまったからだ。

 お兄ちゃんはお父さんが大好きみたいだけど、私はどちらでもない。ただお兄ちゃんについていきたいだけ。


 でも、お母さんだって大好きなんだ。確かに今はあの人が優先になってしまっているけど、それまではずっと私のことを大切にしてくれていた。

 お兄ちゃんのことも大事にしてあげて欲しいけれど、なぜかお母さんはそうしない。甘え続けていた私が言っていいことじゃないけど。


 話は逸れたけど、私はお母さんに考え直してもらうように言おうと思う。これが最後のチャンスだ、私だって我が身がかわいいと思ってしまうから。

 あんな人に、汚されたくはない。


 リビングでお母さんに向き合った。もし私の言葉に耳を傾けてくれないというのなら、私もお兄ちゃんと同じ選択をしよう。

 そのことも、きちんと含めて話をするんだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ