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感情という錘  作者: 隆頭
第三章 家族

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六十四話 準備の裏で

 夏休みが始まって数日後、俺は父さんから連絡を受けてとある喫茶店に来ていた。今日は父さんの再婚相手の人と顔合わせをする日である。


 連絡のあった店に入って中を見回すと、右を向いた窓際の席に父さんがいた。こちらに気付くと手を上げたので、店員さんに待ち合わせと伝えて、そちらに向かう。

 父さんの隣には茶髪の優しげな女性が座っており、この人が再婚相手であると分かった。


「おまたせ、父さん」


「いやいや、全然待ってないよ」


 挨拶もそこそこに、父さんと向かい合うように椅子に座る。父さんの隣にいる女性と目が合ったので、頭を下げた。


「はじめまして、俺は雫っていいます」


「はい、尚月(なおづき)さんから聞いています。私は華純(かすみ)と言います、よろしくね」


 華純さんは透き通るような声でそう言って、ふわりと微笑んだ。義理とはいえ母親というには少々若いように見えるが、大事なのは二人の気持ちと彼女の性格である。

 ここ 一、二年の他人とのあれこれによって、対人的なところで僅かな不安はあるものの、父さんが傍にいるのだからそこまで怯えることもないだろう。


 ちなみに、父さんの苗字は虹柳(にじや)という。つまり、これから俺は虹柳(にじや) (しずく)を名乗るようになるわけだ。

 とはいえまだ正式な届出を出していないので、戸籍としてはその後になるわけだけどね。


 今回は、新しい家族である華純さんとのご挨拶になるわけだ。なので、互いに色々と話をすることになる。じゃないとお互いのことが分からないもんね。

 なので、まずは父さんとの出会いを聞いてみた。


 二人はどうやら仕事の関係で知り合ったらしく、華純さんからのアプローチでお付き合いを始めたらしい。

 付き合ってから二年と半年を経て、父さんからのプロポーズで晴れて結婚。後に華純さんの住むこの町へ引っ越してきたということだ。


 ちなみに華純さん、見た感じかなり穏やかな人なのだが、なかなかハッキリと思ったことを言う性格らしい。そのお陰で、二人は喧嘩をすることはなかったそうな。

 しっかりと自分の意見を言いつつも、相手の意見とも照らし合わせて落としどころを見つける。それができるというのは、やはり末長く寄り添い合っていくには大事なことなのだろう。


 俺も結々美とのことがあったから良く分かる。言わなきゃ伝わらないもんな。


 二人を見ていると、本当に円満な関係を築けているのだと伝わってくる。俺も、楓とそんな関係を築いていきたいと思った。



 顔合わせも無事に終わり、華純さんとも仲良くやっていけそうだと思いながら、二人と別れた。父さんはまた連絡すると言っていたので、その時には母さんと話をしようと思う。父さんと二人でね。

 それまでは待機といったところか。




 ──────────



 夏休みに入った、お兄ちゃんのいない夏休み。せっかくだしどこかタイミングを見つけて、お泊まりにでも行こうかな?

 そう思ってはいるものの、お兄ちゃんには楓ちゃんがいるわけで、二人の関係を邪魔するのも良くないかなぁとも思う。末長く仲良くして欲しいからね。


 それは良いことなんだけど、私の方は家で落ち着かないでいることが増えた。母さんは何を思ったのか、あの男の人を相変わらず家に上げている。

 夏休みに入る前にお兄ちゃんから、あの男の人が浮気をしていると聞いた。 お母さんはそのことをお兄ちゃんから告げられている筈なのに、どうしてまだ関係を続けているのかが分からない。


 私もお母さんには、あの人が苦手だと言っているのに中々聞いてくれなくて、ちょっと前までは優しくしてくれていたお母さんが、あんまりこっちに興味を示さなくなったように感じる。

 あの男の人は相変わらずだる絡みしてくるし、泊まる頻度も増してきて本当に迷惑。


 自意識過剰だったら良いのだけれど、あの人はもしかしたら私のことも狙ってる?あの目やベタベタ触れてくるところを見ていると、なんとなくそんな気がしてくる。

 母さんは気のせいだと言っているけれど、それにしては嫌な感じがしてならない。


 実家だというのにこんなにも居心地が悪いというのなら、私も一人で過ごしていた方がずっと気楽だ。その分バイトもしなきゃいけないけど、それも社会経験だからね。そんなことは、何度思ったか分からない。


 私も早く、一人暮らししたいな。


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