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感情という錘  作者: 隆頭
第三章 家族

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六十二話 労いの言葉

「ごめんね、いきなり呼び出しちゃって」


「いえ、大丈夫です」


 母さんと話した翌日、学校終わりにやってきたのは米倉家である。美白さんからの呼び出しでやってきたのだ。

 リビングまで上がらせてもらい、彼女に促されるまま椅子に座る。テーブルには既にお茶が用意してあった。おかまいなくー。


「それで今日来てもらったのはね、雫くんの妹さんについて聞きたかったんだ。ほら、悪い噂の中に妹がどうとかって話があったからさ」


「そういうことですか。確かにいますよ、なんなら楓とも会ってます」


 俺の返答に楓が頷く。美白さんはそこまで予想していなかったようで、えっと声を出して目を見開く。


「なにそれ、アタシ聞いてないんだけど?ねぇ楓」


「そういえばそうだったね。ごめんごめん」


 気まずそうに苦笑する楓を美白さんがジト目で睨み、ゴホンと咳払いをして話を続けた。


「ところでだね雫くん。ものは相談なんだけど、良かったらアタシにも会わせてもらうことって、可能かな?」


「まぁそれは良いんですけど、会うとしても機会があればですよ?今はちょっと立て込んでますから」


 そもそもその機会があるかも分からないが、しばらくの間は籍を移す関係上、父さんと会ったりもしなくてはならないので、事が終わるまでは余裕がないかもしれない。

 俺自身、瑞稀との関係はあまり前向きに考えられないのだ。


「おや、そうなのかい?良かったら、何があったか聞いても良いかな?」


 楓も美白さんと一緒に首を傾げるが、そもそも楓にさえ話していない内容だけに、どうしようかと悩む。そもそもあまり明るい話じゃないし、あくまで家族間のゴタゴタに過ぎないのだ。

 そう軽々しく話すのは憚られるが……かといって話さないのも、二人を信じていないことになる。


 俺は意を決して、父さん母さんや瑞稀との関係、そして父さんの方に籍を移すことを話した。二人とも、やはりな表情をしている。


「うん……なんというか、色々と大変だったんだね。お父さんが信用できるというのなら、たしかに頼った方が良いだろう」


 美白さんは普段から浮かべている微笑みを消して、言葉を選ぶようにそう言った。楓は何も言わずに、俺の手を握りながら頷いた。


「じゃあその瑞稀ちゃんも、お父さんの方に移すつもりなのかい?」


「それはどうなんでしょうかね。ハッキリ言って、俺は瑞稀とあんまり関わりたくない気持ちがあります。今さら家族だなんて、ただのごっこ遊びにしか感じないですから」


「っ……」


 困った時に手を貸すのは仕方がないとして、それ以上はあまり干渉したくない。そう思った俺の言葉に楓が、酷く悲しそうな表情をした。

 恩を着せるわけじゃないが、助けられた時に感謝するどころか、ほぼ絶縁状態になったわけだ。

 あの時受けた仕打ちは、一生忘れられない。


「ある意味当然だね。瑞稀ちゃんは歳もあるから、アタシからはなんとも言えないけどさ、せめてお母さんの方は、雫くんと瑞稀ちゃんを繋いであげて欲しかったね」


「そうですね。まぁ、今さら戻れませんけどね……とはいえ、大事なのは瑞稀の意思です。あくまで俺の方から瑞稀に、どうこうしろと言う気はありません。もちろん、止める気も」


「ってことはつまり、もし瑞稀ちゃんがお父さんを選んだ時は、それを受け入れるってことかな?」


 美白さんの言葉に首肯する。あくまで俺からは来いとも来るなとも言うわけじゃなく、好きにしろというスタンスになるだけだ。嫌なのは俺の意思(きもち)なのであって、それを押し付けるとしたら、いったい瑞稀となにが違うと言うのか。


 もし瑞稀がついてくるというのなら、俺からは関わらなければ良いだけだ。まだどこか受け入れきれないというのも、俺の問題。

 覚悟はしておく必要があるな。


「そっか……今まで、辛かったね」


「──はい」


 俺を労うように、美白さんが優しく微笑みながらそう告げた。辛かったのは間違いなかったので、顎を引いて肯定の意を示す。

 きっと俺よりも辛い人がいるからと、今までその気持ちに蓋をしてきただけだ。ただそれをこうして労ってもらえるのは、思ったより気が楽になるんだなと思った。


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