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感情という錘  作者: 隆頭
第三章 家族

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六十話 告発

 俺は今、職員室にやってきていた。理由はご存知の通り昨日のことである。綾坂に連れられたあの女の行いを聞いたであろう教員が、噂について色々と話をしてきた。


 その噂がまったくの嘘であることや、聞いた者の不信感を著しく刺激したものであるかどうか、その真偽や影響のことだ。

 当然だが、そのどれもが事実無根で極めて悪意に満ちており、俺の名誉を著しく毀損させクラスメイトなどから強い負の感情を向けられたことは、到底看過できるものではない。

 結果的に最悪の事態にはならなかったが、学校としてはやはり放置はできないということだろう。


 後日あの女の親と今回の件を話し合いをして、また今回の件である程度の処罰を本人に与えねばならない。本人の態度によっては、退学とはいかずとも内申点に大きな影響を与え、進学や就職に響く可能性もある。

 現在は一時的に謹慎処分ということになっているようで、あの女が学校にきていないのはそのためだ。綾坂が色々と言ってくれたのだろう。


 ただ、そこまで大きな罰を与えることはできない可能性が高い。なにせ当の被害者である俺が、普通の学校生活を送れてしまっているからだ。

 教員はハッキリとは言わなかったが、やんわりとそう告げられた。


 とはいえ俺としては、あの女の行動が白日の(もと)に晒されただけでもマシである。強い罰を与えて欲しいという個人的感情はあるが、世の中はそこまで単純じゃないということだろう。



 とりあえず話しはそこまでで終わり、事の次第はまた後日とのことだ。俺にできることはないので、後の事は大人に任せることにした。

 話を終えて教室に戻って席に着く。今の時間は昼休みで、あと十分は残っていた。


「雫くんおかえり」


「ただいま」


 戻ってきた俺に挨拶したのは楓だ。彼女はもちろん昨日のことを知っているので、どこに行っていたのかは尋ねなかったが、代わりにどういう話になったのかを尋ねてきた。


 ある程度の罰はあるだろうが、今のところはなんともいえない。端的に言えば保留ということになる。

 そもそも、被害を受けた本人である俺がピンピンしているので、罰は与えるにもやりづらいだろう。最初に被害を訴えたのも綾坂が代弁したのであって、俺じゃないこともまたややこしくさせている。


 一応俺からも、あの女が流した噂のせいでかなり不愉快な気持ちになったことはしっかり訴えているため、一切の罰もないということはないだろうが、先のことはまだまだ分からないのだ。

 今はただ、待つしかないだろう。




 やがて放課後を迎え、学校を後にする。これから実家に向かい、昨日のことを母さんに話す。いい加減、あんな男とは決別して欲しいものだ。

 そんなことを考えながら、鍵を開けて家に入る。一応 ただいまと告げ、向かうのはリビングだ。


 そこには母さんがいて、俺の声に気付いて驚いたように振り向いて、声をかけてくる。


「えっ、雫……おかえり、なにかあったの?」


 母さんは目を泳がせながらそう言って、タオルで手を拭いてこちらに数歩と歩いてくる。俺は近くのソファに腰を降ろして、顔をそちらに向けた。


「母さん、あの男とは別れた方が良い。浮気してる」


「───えっ?」


 一秒程度の間を空けて、母さんが声を出す。理解できないといった、そんな様子だ。どれだけ信じきっていたのかは知らないが、いい加減学習して欲しいものだ。


「昨日バイト先で、あの人が女の人と会ってた。それに、バイト先の先輩の手を掴んで、無理矢理相手をしてもらおうとしてたし、ハッキリ言ってまともじゃない」


 俺の言葉に、母さんは目を瞬かせる。理解できないのか理解したくないのかは知らないが、瑞稀にしたことを考えると、納得さえしてしまう。

 未だに返事をしないでいる母さんを無視して、俺は話を続けた。


「この間も瑞稀に無理矢理絡んで、アイツにキレられてたし、バイト先の先輩も仕事中だっていうのに、あの人に手を掴まれて、話をしたいとか無理矢理迫られて迷惑してた。俺が注意してもやめる気はなくて他の人が来てようやく手を離したよ。その後にはやけに若い女の人が来て、その人と腕組んでベタベタしながら帰って行ったよ」


 途中から俺は、母さんから目を離して続けた。思い出せば思い出すほどに憤りを感じてくる。

 いくらバカとはいえ母さんが信じているわけで、それなのに裏切るという男に苛立っているのかもしれない。

 それは、いつまでも盲信している母さんに対しても。


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