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感情という錘  作者: 隆頭
第一章 幼馴染
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六話 ささやかな協力者

 結々美か軽田か元かは知らないが、俺が結々美を脅したという噂がクラスに流布され、無駄に剣呑な雰囲気が充満する教室だが、当の本人はようやく教室に入ってきた。来なくていいのに。

 それから自分の席に着くかと思えば、何故かこちらにやってきたのだ。なんだよ気持ち悪い。


「雫、話したいことがあるの」


「俺は無い、失せろ」


 これだけしっちゃかめっちゃかにしておいて、どの面下げて話だのなんだのほざいているのか。

 意味不明が過ぎてまたもやムカついてくる、さっさと離れてくれないだろうか?


「ごめん、でも電話も繋がらないし……」


「当たり前だろブロックしてんだから」


「えっ……」


 絶句する結々美だが、ここまで言えば理解してくれるだろうか?それだけお前と関わりたくないんだよそれくらい分かれって。

 自分の行いをきちんと理解すれば、俺の対応も納得だと思うが?


「……でっでも私、話したいことがあって」


「だから迷惑なんだってさっさと失せろ」


「ひぅっ……」


 ほんの少し語気を強めると、結々美は怯んで小さく悲鳴をあげる。ここまでずっと目を合わせていないが、どんな顔をしているのか興味もない。

 俺が望むのは、ただ距離を置くことだけ。


 ヤツはトボトボと自分の席に着く。周囲の連中はここぞとばかりにあれやこれやと言っているが、無視だ。どうでもいい。

 和雪も米倉も、それには大層不満なようだったが、人なんてものは中々変わらないし変えようもない。放っといた方が身のためだ。



 あれから時間が経ち、放課後を迎えた。

 それまでも変わらず結々美が接触を試みてきたものの、不愉快なので無視するようにしていた。

 そんな彼女を軽田が度々連れて行こうとしていたが、結々美はその手を振り払って自分の席に向かっていた。


 何度無視されても近付いてくる彼女にいい加減辟易としてくるが、俺が脅したなどという嘘を流布したヤツが何言ってるんだろう?


「あっあの雫?一緒に帰りたいんだけど……」


 声を掛けてくる結々美に一瞥もくれずに教室から出る。和雪もそれに何を言うわけでもなく俺についてくる。


「待ってよ雫!」


 それでも諦めず引っ付いてくる結々美だが、そんな彼女を制したのは米倉だった。

 結々美の前に立ち、鋭い眼で彼女を睨む。


「やめてあげたら?嫌がってるよ、寺川くん」


「米倉さんには関係ない!」


 邪魔をされたことでそう声を張り上げる結々美だが、米倉は一歩も引く姿勢を見せない。

 彼女の思いに応えるというのは変だが、その気遣いを無下にするのも申し訳ないのですぐにその場を立ち去る。明日きちんと礼を言うことにしよう。


「雫!」


「ダメだよ」


 なんとか追いかけようとしてくる結々美だが、当然それは米倉に阻まれる。立ち止まる必要はなく、ただ俺たちは早足で帰るのみであった。



 校門をくぐり、できるだけ遠回りをしながら家に向かう。まぁ家の場所はアイツも知っているから直接来られたらどうしようもないが、その時はその時だ。


 できるだけ寄り道をして結々美と遭遇しないようにしていると、気付けば時間は十八時半を過ぎていた。とはいえ季節は梅雨明けなのでこの時間でも空は明るい。

 コンビニで買った冷たい炭酸の飲み物を飲みながら、俺たちは家へと向かう。


「大丈夫か、雫?」


 和雪が言ったその大丈夫には、言葉の綾というべきか、様々な意図が含まれている気がした。

 結々美が軽田へと乗り換えたこと、俺が結々美を脅したという噂を流されたこと、そして嫌だと言うのに付きまとってきて、こちらが策を講じなければならないということなど、色々だろう。


「まぁとりあえずは」


 実際のところ、大丈夫とかそういう話ではなくもはやどうでもいいと言った方が正しいかもしれない。面倒くさいともいえる。

 大丈夫とも、大丈夫じゃないともいえるその心情は中々に形容し難いものであった。


「なにかあったら言ってくれよ。俺でもできる事があるなら力を貸すよ……お前には借りがあるしな」


 和雪は俺の背中を優しく叩いて、そう言った。 

 借りだなどと、そんなものは無いようなものだが、過去のことをまだ気にしているのか?


「借りって、あのことだろ?そこまで大したことじゃないんだ、今更気にしないでよ」


「いーや、それじゃあ俺の気が済まねーの。俺のせいでお前は……」


「やめろ、そこから先は言いっこなしだ。言っただろ」


 この期に及んで自責の言葉を吐こうとする和雪だが、俺はそれを止める。どっちが悪いとかじゃなくて、仕方ないことだって過去に話をしたんだ。

 今更ほじくり返されるのは好きじゃない。そう考えながら彼の目をじっと見ていると、気まずそうに目を逸らした。


「……そうだったな、わりぃ」


 和雪は責任感が強い、異性絡みで困っていた彼を俺がフォローしたことで、俺が女子たちから目の敵にされてしまった事を未だに悔いている。

 そこから色々と波及して男女問わず俺に嫌悪感を抱いてるわけだが、そんなことをいつまでもネタにするなんて、皆暇だねぇ……

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