表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
感情という錘  作者: 隆頭
第二章 噂

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

55/123

五十五話 ため息

 もし雫くんの話が事実だというのなら、それはあまりにもふざけた話だ。もちろん彼の話を疑っているわけではないし、信じていることに間違いはない。アタシが色々と聞き込みをしている時に、彼と同じような話をしてくれた子もいたし、ほぼ裏は取れたようなものだ。

 ただ、何かの勘違いやすれ違いであって欲しいと思っているところはある。そんな下らない理由で人を追い詰めるマネをするなんて、最低にも程があるから。


 もうすでに日は落ちて、あとは寝るだけの時間。アタシは、とある人物からの連絡を待っていた。

 例の女の子から話を聞いているはずの友人からだ。もうすぐ電話が掛かってくるとは思うけど……


 まだかなぁと椅子に背中を預けているとスマホに着信が入り、すぐにスワイプしてソレに出た。待ちわびたよ。


『もしもし?待たせたね、米倉』


「ほんとだよぉ綾坂(あや)ちゃぁん。それで、どうだった?」


 これから続く話にきっと不快感を抱くだろうと憂鬱な気持ちになり、それを払拭するためにわざとおどけたように尋ねる。

 案の定というか、彼女は大きなため息をついた。


『なんだあれは、話がめちゃくちゃ過ぎて胸焼けがしてくる。寺川くんもあんな子に目を付けられて、随分と災難だ』


「そんな雫くんに綾坂(あや)ちゃんはなにしたのかな?」


『ぅぐっ……』


 ただでさえ憂鬱な気持ちになっているというのに、いったいどの口が言っているのかと本音が出てしまう。いつもより低い、怒りを感じた時に出る声。

 しかし今はそんな話をしている場合じゃないと、咳払いをして気を取り直す。


「あぁごめんごめん……ゴホン。それで、何を言われたんだい?」


『あっあぁ、うん。なんて言うかな、寺川くんに対して色々と不満があるというか、なんというか……』


 言葉を選らんでいるのか、思い出すのに精神的苦痛を伴っているのか、中々言語化に時間がかかっているようだ。これは、覚悟をした方がいいのかもしれない。


『とにかく寺川くんを貶めようとしている感じが凄いな。アレをされたコレをされたとか、あんなことをしているとか根も葉もないことばかりで、何を言っていたのかあんまり覚えきれてないんだ。あの子が話す大半が彼に対するヘイトみたいなものだったか……』


「もしや、どこぞのお気持ち思想の嘘松みたいなものでもあったというのかい……?」


『……なんだそれは?』


「ああいや、まぁそういうのがいるんだよ。常に自分中心で、とにかく人を叩かないと気が済まない人さ。プライドが高くて面倒臭いタイプ」


 私の言わんとすることが伝わったのか、彼女は あー…と気まずそうに答えた。私の言っているソレはSNSに蔓延る、差別的思想を持つダチョウのような人たちなんだが、多分 例の女子生徒は現実でもそれと似たようなタイプだろう。

 まぁ細かい違いはあるみたいだけど、そんな臭いはある。

 差別の対象が雫くんという違いはあれど、嘘松で周囲にヘイトを押し付ける感じが似ている気がする。将来はきっとSNSで、悪意を垂れ流して共感性羞恥を集める人になるに違いない。


『確かに、話していてそのきらいはあったな。ただどうしてか、寺川くんに異常な執着……というか、憎悪みたいなものを持っていた』


「彼に何かされたみたいな、そういうことは言ってなかったかい?」


『あぁ、そういえば言っていたな。去年の今ごろだったか、その子が寺川くんの友達という人に告白した時にそれを邪魔されたとか、手を出されたとかなんとか……』


「……ッチ」


 おそらく、雫くんの友人がその女子生徒に付きまとわれている時に、それを見かねた雫くんに咎められたという話だろう。よくもまぁぬけぬけと嘘を()けるものだと、苛立ちが強くなり舌打ちしてしまう。

 電話の向こうで綾坂(あや)ちゃんが息を呑む声が聞こえる。


「──済まないね、ついつい苛立っちゃって。あまりにも胸糞悪くてさ」


『あぁ……そっちは、寺川くんから話を聞いたのかい?』


「もちろん」


 私は、雫くんから聞いた話を彼女に話した。もちろん、聞き込みをしている時のことも交えながら。

 彼女はそれを聞き終えると大きなため息をして、ううんと唸りながら言った。


『それは、ひどいな……しかもそれって、寺川くんだけじゃなくて、他にもその話をしていた子がいるんだろう?』


「うん。雫くんにはなにも言ってないけど、たぶんその子は実際に付きまとわれた被害者なんじゃないかな。雫くんとは随分と親しそうだったし、彼のことを気にかけてるみたいだったよ」


 名前までは聞いていないが、雫くんのことをやたらと褒めていたことは覚えている。大事な友達なんだとか、本当に良い奴なんだとか。


『そうか……できれば、その子にも話を聞いてみたいな』


「んー、そうだねぇ。まぁ続きは明日話そう。ちょっと胸焼けがね……」


『そう、だな……』


 これ以上はしんどいと思い、互いに挨拶をして電話を切る。しかしまぁ、性懲りもなくゴチャゴチャとゴミみたいなことをぬかしているみたいで呆れるよ。


 とにかく、しっかりと罰を受けてもらわないとな。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ