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感情という錘  作者: 隆頭
第二章 噂

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五十三話 義弟(仮)

 探れば探るほど、聞けば聞くほど、彼に纏わる噂の出処はたった一人の女子生徒に辿り着く。先月あたりに出た一つの噂はとある男子生徒だったが、それ以外のすべての噂は彼と同じクラスの女子生徒から出ている。


 やれ襲われそうになっただの、盗撮や窃盗をしているかもしれないだの、自分の妹を所有物のように扱っているだの、それ以外にも悪意にまみれた根も葉もない噂がたくさんある。

 妹がいるのかと気にはなったけれど、その詳細は後で本人から聞くとして、あまりにも乱暴な噂に辟易してくる。

 前々からちょくちょくと名前は聞いていたけれど、ここまで悪意に(まみ)れたソレも珍しい。


 彼とちゃんと顔を合わせてから、彼のクラスメイトなど周囲の子達に聞き込みを行ったところ、様々な噂の内容を聞くに至った。と言っても詳細なんてあってないようなもので、なにか悪いことをしている "かもしれない" というフワフワとしたものばかりだ。

 周囲の連中もよくこんなものをあっさり鵜呑みにするものだ。結局誰かの悪口を言うことで優位に立った気になりたいだけなんだろうね。


 そんなこと、なんの意味もありはしないのにずいぶんと忙しいことで、呆れてしまうよ。




 そんな稚拙な悪意の渦中にいる彼、雫くんを放っておけない私は、生徒会長である綾坂(あや)ちゃんに話をした。私が聞き込みをしたことを。



 ──────────



 下らない噂が流れて二日後、俺は放課後に米倉家宅(かえでのいえ)にお邪魔していた。バイトが休みなので問題はないが、なぜ俺がここに来ているのかというと、美白(みしろ)さんから呼び出されたからだ。


 楓と二人でリビングで待っていると、玄関から音が聞こえた。生徒会の仕事を終えた美白さんが帰ってきたのだろう。


「お待たせ雫くん。ごめんね、こちらから呼び出したのに」


「いえ、生徒会のことですからね。むしろお疲れ様です」


「そう言ってもらえると助かるよ。労いありがとう、やっぱり君は素敵な男の子だね」


 当たり前のことを言っただけなのだが、随分と大袈裟に言われてしまった。気に入ってくれたのは嬉しいが、買い被り過ぎではなかろうか?

 とはいえ、褒められて悪い気はしないので、素直に頭を下げておく。


「それでお姉ちゃん。どうして雫くんを呼んだの?」


「あぁそれはね。ほら、一昨日から変な話を聞いてね。雫くんが二股だのをしてるって下らないアレさ」


 美白さんから聞いた言葉に俺たちは少し身構える。彼女の口振りからして信じているってわけではなさそうだが……


「それが気になって色々と調べたんだよ。いったい誰がこんな話を始めたんだってね。仮にも義弟が悪く言われてるんだし、憤りを感じないわけじゃないからさ」


 調べたって、そんなことをしていたのか……

 まぁ大っぴらにすることでもないから、気付かなくてもおかしい話ではないが。そっちよりも美白さんが俺のことを義弟……つまり、弟として見てくれていることに喜びを感じる。


 なんとなく、胸中に一滴の雫が落ちた気がした。淀んだ水に澄んだ水が落ちて、少しずつだとしても心が洗われていくような、そんな気持ち。

 認めてくれる人がいる。それがなんとなく、特別なことに思えた。


「それでね?色々と調べてる内に犯人っぽい子に辿り着いてさ。去年からずっと変なことを言い続けている、お馬鹿さんをね」


「っ……!」


 その言葉に思わず反応して、少しだけ目を見開く。驚きもあって、思わず言葉が出そうになった。

 もしかして……と。


「雫くんのその感じだと、心当たりがありそうだね」


「そう、ですね」


 美白さんの辿り着いた答えと、俺の予想が合っているかは分からないが、なんとなく合っている確信はある。

 すると、美白さんはその女子生徒の名前を述べた。


「────その感じだと、合っているみたいだね」


 美白さんの言葉に頷くと、彼女はニッコリと笑った。もしかして、注意でもしてくれるのだろうか?

 まぁああいう逆恨みするタイプは、ちょっとやそっと咎められたくらいでは止まらないだろうが、なにもしないよりはマシだろう。


 他人を使うようなマネをするのは好きじゃないが、あちらが周囲を煽動するというのなら、そうも言っていられないだろう。

 それに、少し注意してもらうくらいなら、卑怯ってこともないか。


「どうしてあの子が雫くんを悪く言っているのか、教えてもらっても良いかな?アタシも楓も気になってしょうがなくてね」


 美白さんからそう言われて隣を見ると、楓がコクリと頷いた。二人なら、話しても良いか。

 そう思って、発端と思われる出来事を話した。

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