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感情という錘  作者: 隆頭
第二章 噂

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四十九話 しみじみ

 夜が明け、俺と楓は一糸纏わぬ姿で布団に転がっていた。昨日は夕食を終えてすぐに二人で風呂に入り、そこから寝るまでほとんど身体を重ねていた。

 一昨日の夜は瑞稀が来たので、少し物足りない気持ちはあった。だから昨日はそれを取り返すように、少し激しく、そして長く行為に及んでいたのだ。


 目を開けると、窓から差し込む光によって部屋が明るくなっていることが窺えた。時計を見ると、まだ少し早い時間だった。

 まだまだ寝るには充分だと思って目を閉じようとしたところで、楓が うぅんと声を出してモゾモゾとした。起きたのかな?


 そう思ったのだが、彼女は俺を抱き締めただけで、目を開ける事はなかった。言ってしまえば寝返りみたいなもんだ。

 そんな可愛い彼女の頭をそっと撫でて、俺は小さく呟いた。


「大好きだよ、楓」


 心の底から楓への気持ちを口にして、そのまま目を閉じて睡魔に身を委ねた。



 少し遅めの朝を迎えて朝食を食べ終えた後、楓は荷物をまとめて、出発準備もバッチリだ。

 もう少し時間が経って、昼前になったら家を出て楓の家に彼女の荷物を置いて、その後はお昼ごはんを食べるという流れだ。


「あー、もうちょっとでお別れかー」


 楓がそう言って、座っている俺の膝の上に飛び込んできた。彼女はそのまま俺の腰に腕を回した。

 足に感じるのは、彼女の柔らかなモノの存在だ。


「楽しかったし、また泊まりに来てよ。待ってるからさ」


「うん!」


 そっと彼女の頭を撫でながら、穏やかな時間を過ごす。ずっとこんな時間が続けば良いのにと思うほど、幸せな時間。

 だからこそ、自然と出てしまう言葉がある。


「大好きだよ、楓」


「んぇっ……んーふふ♪私も大好きだよ、雫」 


 突然の言葉に驚きながら照れつつも、楓はしっかりと返してくれた。その度に、俺の気持ちは独り善がりではないんだと安心できた。

 想いを伝えて触れ合って、言葉と身体でしっかりとコミュニケーションを交わしながら、甘く心地よい時間を過ごすことができた。




 のんびりしていると気付けば出発予定の時間を迎えており、楓の荷物を持って家から出る。彼女が家から出てきたことを確認して鍵を閉めた。

 手を繋いで彼女の家に到着し、その荷物を置いた後、食事のために街へと向かった。


 二人で店に入り、ゆっくりと会話をして穏やかな時間を楽しむ。料理を食べて、飲み物を片手に雑談に花を咲かせていた。

 そんな折に、楓がとある質問をなげかける。


「そういえば、昨日会った雫くんの先輩って、知り合ってどれくらいになるの?」


「んっ、そうだな……もう一年は経ってるかな。バイト始めたのが高校入ってすぐだから」


 早いもので、バイトを始めてから一年は経過してしまった。その時には既に二人ともそこに勤めており、面倒見が良かったので色々と教えてくださっていた。

 関わる時間が多かったことで色々と頼りにさせてもらっていたし、二人とも嫌な顔一つせずに付き合ってくれた。


 それはもちろん結々美との付き合いについてだ。特に記念日や誕生日プレゼントの相談なんかはよくしたもんだ。

 いずれはプレゼントよりも、傍にいる時間の方が大事になってくると言っていたのは印象深い。それこそ、あの二人の友人カップルなんかはまさにそうらしく、その人たちはプレゼントを贈るよりも、お泊まり旅行して過ごすことが基本らしい。楽しそうだ。


 結々美の時はそうならなかったけど、今俺が付き合っているのは楓だ。慣れ親しんだ間柄というのは、体験を共有することが一番のプレゼントになるというように、俺も楓と慣れ親しむような関係になるほど一緒にいたいな。


 結々美絡みの話は出さないものの、そんな思い出話を楓に話す。


「慣れ親しんだ、かぁ……それってすごい素敵なことだね」


 先輩たちの話を聞いた楓が、噛み締めるようにそう言った。ずっといるからこそ、傍にいる人を軽んじるのではなく、大切な存在として感じることが大事なんだろうな。

 本当に好きな人なら、どれだけ時間が経ってもその好意は廃れることはない。過去の俺がそうだったようにな。


「そういうのは自然となるものだって言ってたな。いつの間にかそういう(そんざい)になっているもんだって」


 彼氏先輩が言っていたことだ。きっとそれだけ彼女先輩に向きあってきたのだろう。


「なにそれなんかカッコいい!ってそういえば、あの人たちってどれくらい付き合ってるんだろうね?」


「あっ、それ聞いたことないな。今度話してみるか」


 もし付き合ったのがつい最近だと言われたら笑ってしまいそうだ、なんてことを考えながら、明日聞いてみることにした。



 そんなこんなで、俺たちの時間は終わりがやってくる。といっても、ただ帰らなきゃいけないってだけだが。

 楓を家まで送り、口付けを交わす。互いに抱き締めながら、その体温を確かめるように。


「またお泊まり行くから、その時はよろしくね!」


「あぁ、待ってるよ」


 そんな約束をして、楓はドアノブに手を掛けて振り返る。空いた手をこちらに振りながら。


「じゃあね雫くん!気を付けてね!」


「ありがと、またな」


 こちらも手を振り返して、挨拶をする。それを聞いた楓はニッコリと笑って、それを見た俺は家に向かった。



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