四十六話 ひっそり
楓と瑞稀に挟まれながら夜が明けて、少し早い時間に目を覚ますと両サイドの二人ともぐっすり寝ていた。昨日は楓が家にいたというのに何もできていない、つまり欲求不満だ。
朝に起きるソレも、そりゃしっかりとしている訳だ。せめて少しくらい処理をしたいものだが、二人して俺の腕をがっちり固定しているため、それすらも許されない。
これトイレ行きたくなったらやべぇヤツである。漏らすしかない、泣くぞ。
少し腕が痺れるような感覚を味わいっている最中、楓がモゾモゾとしながらくぐもった声を漏らし、薄らと目を開ける。丁度良いタイミングだ。
目が合うと、彼女は にへらと笑いかけ、眠たげな声で挨拶してきた。
「おはよぉ、雫くん」
「おはよ」
寝ぼけ眼を擦った楓が、ふふーん♪とご機嫌な声を出しながら、その右手で俺に抱きついた。俺の手が彼女の下腹部へと当たり、色々と意識してしまう。
今の俺にそれは、あまりに危険だった。
「雫くん大好きぃ♪」
それでも尚 楓は身体を密着させ、なんなら右足までも使って俺に抱きついてくる。密着度合いどころか、よりいけない場所に手が埋まる。
「んん……雫くんのエッチぃ♪」
「されるがままなのよ」
いたずらっぽく笑う楓にそう返すと、彼女は 知ってるぅ♪と笑いながら、よりその腰をグイグイと押し付けてくる。
独特な柔らかさがズボンから伝わり、俺の下腹部へと血が寄っていく。勘弁してくれ。
「つんつん♪えへへ、そういえば昨日はあんまりできなかったもんね。溜まってる?」
「溜まってる」
俺の状態に気がついた楓が、膝でソレを突くと、察したように問いかける。溜まってないわけがないが、そんなこと妹の前で言えるはずもなく、寝ている今だからこそ話せることであった。
「瑞稀ちゃん寝てるよね……スッキリしよっか♪」
「ごめん、お願いしていい?」
俺のお願いに楓は いいよ♪と快く答える。ちなみにだが、ここまで全てヒソヒソボイスでのやり取りなので、瑞稀には聞こえていないと思われる。
ちなみに瑞稀はぐっすり寝ているのか、だらしない寝顔をしている。そのまま起きるなよ。
「じゃあ、ササッとやっちゃうね。瑞稀ちゃんが帰るまで我慢しなきゃだもん♪」
楓はやってやろうとでも言うように、ノリノリで事を始める。少し手こずったものの、なんとか瑞稀が目を覚ますまでに事態が収束した。
「絶対ヤった、絶対シた、間違いないよ。私の目は誤魔化せないからねお兄ちゃん」
「だから何もしてねぇよ」
時刻は十四時過ぎ、昼食を食べ終えて家に帰っている瑞稀が、なにかを察したように言い続けている。勘の良い奴め……とは思ったが、多分臭いかもしれない。
換気はちゃんとしたし臭いも残っていないはずなんだが、どうも瑞稀は ナニかの残り香がする!と言って聞かないのだ。
こうなったら全力でとぼけてやる。
「はいはい、まぁ別に誰にも言ったりしないけどさ。せめて私が帰ってからやってよね」
「だから知らんって」
事情があったとはいえ、俺たちの時間に干渉してきたのは瑞稀である。まぁその責任の大半は母さんにあるので仕方ないが。
俺だって男だし、恋人が隣で寝ていたらクるもんはクるんだよ。
ただ、一つ救いがあるとすれば、瑞稀は俺が一人でスッキリしたと勘違いしていることである。
楓まで巻き込まれていないのであれば、別に良いかとも思う。
「っていうか、やるなら私に言えば良かったじゃん。お兄ちゃんをスッキリさせるのは妹の義務なんだよ?なんなら楓ちゃんもいるんブフッ!」
「黙ってろバカ」
言うに事欠いてクソみたいな事を言い出した瑞稀の顔面を、平手で正面から叩く。そんな義務なんぞクソ喰らえだ。
「うぴー……お兄ちゃん酷い」
「変なことばっか言うからだ」
瑞稀が鼻を押さえながら睨んでくるが、俺は知らないフリで通す。これ以上付き合ってられません。
そんな俺たちを見て、苦笑いをしている楓であった。




