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感情という錘  作者: 隆頭
第二章 噂

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四十五話 意気投合する二人

 楓の沢山ある長所の一つは、そのコミュニケーション能力の高さだ。初対面相手にガチガチになることなく、その可愛い笑顔を向けられるのは本当に素敵なことだ。

 他人を警戒していた入学当時の俺に、無理せず優しく接してくれた。そのおかげで、和雪や結々美以外の人と関われなかった俺だが、楓という友人ができて、ほんの少しでも楽しく思える高校時代を手に入れることができたのだ。


 そんな楓と接していれば、瑞稀だってそれなりに仲良くなれるのは、決まりきっていたことだったのかもしれない。


「とりあえず今度、お兄ちゃんの写真は逐一私に送ってくださいね。もちろんエッチな奴も」


「雫くんのエッチな写真はちょっと嫌かなぁ……でも、写真は送ってあげるね」


 すっかり意気投合した二人が、なにやら盛り上がっている。まぁ盛り上がってるのは主に瑞稀だが。

 俺の変な写真をねだったものの楓に断られ、更に食い下がっている。もうやめろっちゅーに。


「そういえばお兄ちゃん。布団って三人並んで寝れるかな?」


「はみ出すに決まってるだろ。そういや布団は一つしかねぇな」


 一度 ()ぎっていたものの、実家でのゴタゴタで忘れていたことだった。寝る時狭くね?布団なくね?ってな。

 そこで挙げられた案は、川の字で並んで寝ることだ。俺を楓と瑞稀で挟んでのフォーメーションだってさ。なにがフォーメーションなのか、胸を張って言えることじゃないぞ瑞稀(わが いもうと)よ。


「私も瑞稀ちゃんに賛成かな。楽しそうだもん」


「だよね!楓ちゃん分かってるぅ♪」


「まぁ、別に嫌じゃないからいいけどさ」


 却下したところで代案がある訳でもなし、一晩だけならちょっとしたイベントのようなものだろう。そう考えると、なんとなく楽しそうに思えてきた。

 俺が頷くと、二人は やった♪と喜んだ。



 しばらくして瑞稀が風呂に入り、その間 俺と楓の二人が部屋に残される。残されるというか、本来はこっちの方が正しいんだけど、


「そういえば、お家の方は大丈夫だったの?」


 瑞稀との電話の内容を知っている楓が、心配そうにそう尋ねた。あまり話しても気分の良いものではないが、ある程度は話しても良いだろう。

 母さんが再婚を考えていること、その相手が瑞稀に目を付けていることを話した。母さんが過去に俺の事を見向きもしなかったことは、彼女には言おうと思わなかったし、俺が父さんの方に籍を移すこともまだ話そうとは思わない。

 下手に話しすぎるのも、楓を混乱させてしまうからな。


「そんな……じゃあもし再婚したら、瑞稀ちゃんが危ないってことだよね」


「そうなんだよ。俺としても、アイツに理不尽な目には遭ってほしくない。ある程度母さんには話をしたから、考え直してくれればいいけど」


 俺の話を聞き終えた楓は、本当に瑞稀の身を案じているようだった。そりゃあ誰だって、さっきまで楽しく喋っていた相手が辛い目にあうとなれば、心配もするだろう。

 母さんが俺たちの、せめて瑞稀の事だけでも深く気にかけてくれれば良いのだが、俺としてはあまり信用できない。俺が引越すと話をした時にあれだけゴネたクセに、男に擦り寄ってばかりで何も変わっていないのだから。


「もしお母さんが再婚するって聞かなかったら、どうするの?」


「その時はもう知らん。親戚にアテがあるから、その人に話をしてみるよ」


 親戚というか父さんなのだが、いちいち詳しく話をすると長くなるので、今回は割愛させていただくことにしたが、楓は そっかと返す。


「とりあえず、今できるのはそれくらいかな。また色々と決まったら話すよ」


「むっ無理に話さなくて良いからね?ただ気になるだけだから」


「うん、まぁ気になったら聞いてよ」


 正直、楓が俺たちのアレコレを聞いたとしても困るだけだろう。余計な心配をかけるのも良くないし、暗い話はもうこれくらいにしておこう。


 そうこうはなしていると、瑞稀が湯気を纏わせながら風呂から出てきた。


「ふぃー、さっぱり。お兄ちゃんも一緒に来て欲しかったな」


「何歳だよおまえは」


 いい加減もう中学三年生なのだし、なんなら風呂なんてずっと一人で入ってたのだから、俺まで連れていこうとしないでほしい。


 そんなことなら拒絶しないで欲しかったなと、今になっても思うよ。


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