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感情という錘  作者: 隆頭
第二章 噂

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四十三話 怒る瑞稀

 楓に見送られ、瑞稀を迎えに行くために実家へと向かう。まさかこんな頻度で再婚相手とやらが家に来るとは思わなかった。

 足早に実家へと向かい、到着する少し前に瑞稀に電話をかける。しかしどれだけ電話をかけても出ない。

 大丈夫か?そんな気持ちが胸中に現れる。瑞稀が出てこないのなら、家に入るしかないか……


 家に到着し、ポケットから鍵を取りだして扉を開ける。なにやら言い合っているようだが?


「あぁもう やめてって言ってるじゃん!」


 そんな声が聞こえてきた。それは瑞稀の(もの)であることはすぐに分かり、走るように階段を駆け上がる。


「そんなに怒らないでよ。俺はただ瑞稀ちゃんと仲良くした──」


「それがウザいって言ってんの!いきなり部屋に入ってこないで!勝手に私の物も触らないで!ベタベタしてこないでよ!」


 初めて見る瑞稀の激昂した姿。そこまで声を荒らげていることから、ただならぬ状況であることは明白だった。


「瑞稀」


 そう声をかけると、瑞稀は男を押し退けてこちらに飛び込んでくる。それを受け止めて相手の男を見ると、その顔には見覚えがあった。


「キミは誰だ?もしかして、鎮香(しずか)の息子くん?」


「───まぁ、そうですけど……あまりに非常識じゃないですか?」


「え?」


 この男は、俺の言葉が理解できないという風で首を傾げる。その眉がピクリと動いたところを見逃さなかった。


「年頃の女の部屋にノックもなしで入るなんて、おかしくないですか?男相手だとしてもノックなり声掛けなりします。それもしないって、相手に嫌がられること分かりません?プライバシーとか考えた方が良いですよ」


「そんなことを君に言われたくないな。第一、既に君はこの家に住んでいないんだろう?それなら俺たち家族の事に首突っ込んでガチャガチャ引っ掻き回されるのは迷惑だ」


「どっちが迷惑かけてんだよ」


 母さんと結婚さえしていないクセに "俺たち家族" だなどと(のたま)ったことで無意識に出てしまった声。それは一段と低くなり、聞いていた人物に緊張感を走らせる。

 瑞稀は肩を震わせて、男は苛立ちを滲ませる。


 いい歳こいて、金髪のチャラ男みたいな風体をしているが、いい加減情けなくないだろうか?年齢不相応だし、見苦しいにも程がある。

 未だに若いと勘違いした、イタい人って感じだな。


「とりあえず、俺は今日ここで一晩明かすんで。出てくなりしてもらえます?母さんにもしっかり話しとくんで」


「ッチ……うぜぇな」


 男はそう言ってドスドスと階段を降りていく。すれ違いざま、俺に肩をぶつけながら、怒っているアピールを欠かさないその姿は、見ているこっちが悲しくなるほどに小さかった。

 あまりに薄っぺらい人間だ。


「とりあえず、準備できてるか?」


「──うん」


 さっきあの男に泊まると言ったのはブラフだ。俺がいるとなれば奴も居心地が悪いだろうし、しぶしぶながら出ていくだろう。もし出ていかなくても適当に理由をつけて、二人で出ていけばいい。

 ただあの男がこの家にいると、もしかしたら瑞稀の部屋に勝手に入る可能性もある。鍵がないから心配なんだ。


  しばらくすると、下から扉の開く音が聞こえてきた。靴を履く音も聞こえてきたことから、おそらく奴は出て行ったのだろう。

 階段を降りると、母さんが沈んだ表情で玄関に立ち尽くしていた。


「母さん、話がある」


「雫?もしかしてあなたがあの人を──」


「それについても話がある」


 下らない質問に答える必要はない。言いたいことをしっかりと話すために、まずはリビングに三人で向かった。

 母さんを向かいに、俺と瑞稀が並ぶ。奴が帰ってしまったことに対し、少し憤りを感じているようだ。本当に何も変わっていないんだな。


「まず聞きたいんだけど、あの人って母さんの浮気相手だよね。まだ関わりあったんだ」


「そうだけど、会ったのは最近よ。もうずっと連絡なかったから」


「そんなことはどうでもいいんだよ。まだあんな人と関係持ってるってのも驚きだけど、俺とのことを通じてなにも学んでいないことが一番びっくりなんだ」


 あの男に随分と入れ込んでいるのか、出て行ったことに対しての苛立ちを晴らすように、語気を強くして母さんは言った。

 しかし、会ったのは最近だなどと的外れな事を言った母さんに思ったことを返すと、気まずそうに目を逸らす。


「母さんは俺をずっと一人にさせといて、引越そうとしたら止めた。その時に俺言ったよな、家にいるのに一人はしんどいって。それをなんで瑞稀にもやってるわけ?あの人とどうしようと知ったことじゃないけど、瑞稀にまで迷惑かけんなよ。勝手に部屋に押し入ったり物触ったりするって、あんまりにも非常識過ぎないか?」


「えっ……?」


 やはり母さんは知らなかったみたいだ、目を見開いて疑問符を浮かべている。

 どう考えても下心があるし、そんなことに気付かないのにも呆れる。本当にどうしようもないな。


「しかもあの人、勝手に入ってきて私の体触ったりするの。本当に気持ち悪いしやめて欲しい。あんな人と付き合うのはもうやめて」


「えっ、えぇ……?」


 この期に及んで理解できないようだ。俺からも瑞稀からも言われて狼狽している。

 どれだけ人のことを見ていないのかがよく分かるな。俺が家を出るした時にあれだけ制止しておいて、学んでないんだな。


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