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感情という錘  作者: 隆頭
第一章 幼馴染
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四話 バイト先の先輩方

「本当に申し訳なかった!私はなんてことを……」


 俺の目の前で土下座しているのは先ほど死ねと言ってきた生徒会長の綾坂だ

 後輩が俺にキレられたのは、過去から続く自身の言動のせいであると懇切丁寧に説明したことで、ようやく俺を掴んでいた手を離して即座に土下座したのだ。人に言うだけあるな。


「そうですね。まさか死ねとまで言われるとは思いませんでしたけど……あぁ頭を上げてください」


「えっ……いや、しかし」


「アンタの謝罪なんていらないから頭を上げてくれって言ったんです」


 正直もうほっといて欲しいし二度とこんなヤツは信用できないので、謝られたところで無意味だ。

 時間の無駄なのでと思い放った俺の言葉に、彼女は顔を上げて悲しそうに俯いた。


「すっすまない……」


「それじゃ」


「あっ、せんぱ……っ」


 受け取るかどうかは別として謝罪はされたのでとりあえずもう無視しておく。疲れたのでもういいでしょ?

 これ以上の関わりはヤブヘビでしかない。

 

 それから何度か後輩や綾坂から 待ってと声を掛けられるが、普通に不愉快なので全て捨て置いている。

 いやまぁ大人気おとなげないと言われてしまえばその通りだけどさ、俺もまだ幼いんだよ。

 何をされても傷付かない怒らない、感情なんてないような人間になるのが美徳だというのは分かっているんだ。


 声を荒らげたとしても苦しんで涙を流したとしても、起きた出来事は絶対に取り消すことは出来ないし、負った傷はすぐには塞がらない。

 咄嗟に感情的になったところで物事は良くならないし、取り返しのつかない事にだってなる。

 俺は過去にソレで母とも妹とも、仲は壊滅的になってしまったんだ。



 俺は一日でも早く一人暮らしをする為にバイトをしている。近くのファミレスで学校終わりに働き、その給料の半分は貯金に回している。

 その残りは家に、そして食費や少ない趣味と、また三ヶ月ほど結々美への誕生日プレゼントの枠も設けて、そのために貯めていた。

 今は趣味とプレゼントに掛けていたお金も貯金に回しているので、夏休みが始まる頃には一人暮らしを始めたいなと思っている。



 今日もシフトが入っており、今はそれを終えて着替えをして帰るところだ。


「お疲れ様でした」


「寺川くんお疲れ様!気をつけてね!」


 更衣室を出て店長に挨拶をして店から出ると、先輩が俺の隣にやってきた。茶髪のボブカットが可愛らしい女性の先輩だ、俺を挟んで反対側にその彼氏先輩も並ぶ。


「おつかれさんだね寺川くん!」


「おつかれ」


「お疲れ様です」


 彼氏先輩は少しチャラい風体だが、後輩想いで俺が結々美へのプレゼントに悩んでいると、彼女先輩も連れてきて一緒に考えてくれたのだ。

 よくある 女性と二人きりで恋人が浮気を疑う なんてことはないよ。


「さてさて、彼女さんよろこんでくれた?」


「あれだけ考えたんだし、少しくらいは響いてるんじゃないか?それとも重すぎて引かれたりして?」


「変なこと言わないの!」


 そういえば、二人には話していなかったな。

 残念ながら渡すことはなかったわけで、楽しそうにしている二人には、本当のことを話すのははばかられてしまう。

 しかし、嘘はつけないな。


「すいません。本当は渡したかったんですけど、どうやら新しく彼氏が出来たみたいで……」


 ピシリと、楽しそうにしていた二人からそんな音が聞こえた。こころしか二人が白っぽく、ヒビが入っているように見える。


「当日に振られちゃいました」


「そっそんな!あんまりだよそれって」


「うへぇ、マジか……そりゃショックだったろ」


 俺の心情を察してくれた二人は俺を撫でてくれた。本当にいい先輩を持ったものだ、学校とは大違いだね。


「すぐには立ち直れないよね……もし良かったらいい子紹介しようか?」


「立ち直れないのにそりゃ悪手だろ。でも、しんどい時は吐き出せよ。俺たちならちゃんと聞いてやれるからさ」


「ありがとうございます」


 支えてくれる先輩方に感謝の念を抱きながら、胸に感じた温かいものを噛み締める。

 涙が枯れてよかった。もしそうじゃなかったら二人の優しさに涙腺が緩んでしまうところだったから。


「もし良けりゃあパーッと行きたかったとこだけど、さすがに学生だからなぁ……それに門限とかもあるだろうし、話くらいしか聞いてやれねぇ」


「せめてご飯くらいは奢ってあげたいのに、ごめんね!」


「そんなことで謝らないでくださいよ。話を聞いてくれるだけですごく嬉しいです」


 素直な気持ちを言っただけだが、彼女先輩は いい子!と言いながらまた頭を撫でてくる。

 彼氏先輩は背中をポンポンと優しく叩くように、そして縦に動かして撫でる。


 イケメンすぎる先輩二人との時間は、俺にとってすごく癒される時間だった。


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