三十四話 父との再会
瑞稀との突然の一夜を過ごし、朝に別れて学校に向かう。瑞稀は学校に向かって行った。
俺も学校に到着し、いつも通り授業を受ける。そうして放課後を迎えて、今日もバイトだ。
「おはようございます」
「おはよう寺川くん」
いつも通り店長との挨拶を済ませ、更衣室に向かって制服に着替えていると、彼氏先輩がやってきた。ということは、女子更衣室の方には彼女先輩が来ている筈だ。
「ぃよっすおはよう寺川」
「おはようございます」
一足先に着替えを終えてタイムカードを押し、仕事にかかる。ホールにて配膳や接客、テーブルの掃除や片付けなどだ。もう一年はやっている、いつも通りの慣れたものだ。
ただ、いつも通りのバイトに驚くべき再会があった。
ホールで仕事をしている俺だが、そんな中とある人物から声をかけられた。その人は、お客さんとして入ってきた後に、俺に声をかけてきたのだ。
「──雫?」
「えっ……?」
その人が昔の俺を知る人物であると思い出すのに、そう時間はかからなかった。突然のことで反応は遅れたものの、それでも俺の頭は理解した。
「父さん?」
「やっぱり雫か!嬉しいな、また会えるなんて」
その人はなんと父さんであった。十年近く前に離婚して離ればなれになった、唯一家族で信頼できる人。
再会を喜びたいところだが、とはいえ今はバイト中。父さんもそのことを分かっているのか、またあとで話をすることになった。
バイトを終えた俺は、店を出て駐車場に向かう。そこで待機していた父さんが、俺に気づいてこちらにやってくる。
「おまたせ父さん」
「お疲れ様、雫」
父さんはにこやかにそう言った。俺の記憶にある、優しい父さんのままで安心する。
とはいえ、離ればなれになってからたったの一度も会うことさえ叶わなかったのに、どうして再会できたのかが気になるところだ。
「積もる話もあるし、ほら乗って」
父さんはそう言うと、車の助手席のドアを開けてそう促した。お礼を言って車に乗る。
俺が乗ったのを確認した父さんがそのままドアを閉めて、運転席に乗った。
「せっかくなら家で話そうよ。今一人暮らししてるからさ」
母さんもいないしね……とは言わないが、その意図はある。もし実家暮らしだとしたらそれについても考えなければならなかったので、引越ししておいて正解だと今になって身に染みた。
まぁ父さんと再び会えるなんて、青天の霹靂だったけどね。言い過ぎかもしれないが、それだけ驚いていたのだ。
驚きすぎて却って冷静になってしまうくらいには混乱している。
「雫がいいなら、お邪魔しようか。案内頼めるかい?」
「うん」
突然の申し出だが、父さんは優しくそう言った。俺としてはいつもの道なので、右に左に真っ直ぐにと都度指し示し、すぐに家に着いた。
やはり歩きよりも断然早いな、当然だけど。
路上駐車した車から降りて家に入り、腰を下ろして改めて向き合った。まさかこうして父さんと会えるなんて、すごく嬉しい気持ちでいっぱいだ。
「最近、調子はどうだい?学校とか」
嬉しさの何を話そうか定まっておらず、どうしようかと考えている俺に父さんがそう投げかける。
「まぁぼちぼちやってるよ。別に困ったところもないし授業にもついていけてる」
「そうか……体調は?無理はしてないかい?」
「体調も悪くないよ。無理もしてないし、一人暮らしもしてるからだいぶ気楽にやってるよ」
そんな俺の回答に父さんは そうか…と返す。父さんのことだし色々と気にかけてくれているのかもしれない。
「実はな雫……僕、先日 こっちに引越すことが決まってね。転勤っていえばいいかな」
「そうなんだ。それなら、これから沢山会えるね」
そういうことならもっと嬉しい。母さんと違って父さんは信頼できるし、たまにでも顔を合わせられるなら寂しい思いをすることもない。
「そうだね。それに、もし雫の気が向いたらだけど、一緒に住むことだってできるよ。まぁそうなると、色々手続きも必要になってくるけどね。だから、いつでも頼って欲しい」
「うん。ありがとう、父さん」
もし母さんが再婚するというのなら、いっそのこと離れて父さんの方に行ってもいいかもしれない。
今は言わないが、それも考えてこう。




