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感情という錘  作者: 隆頭
第二章 噂
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三十三話 浮かれる母

 一方的に電話を切られてしまったスマホを眺めながら、また失敗してしまったと後悔に暮れる。だけどその感情は更に私の情緒を狂わせるだけだった。

 これでは雫に見限られるのも当然と言えるだろう。


「瑞希ちゃん、今は息子くんの家にいるんだ」


「えっえぇ……そう、みたいね」


 雫との電話を聞いていた彼がそう告げる。電話をしている私に、面白半分で身体を弄って、行為を始めてきた。

 その時の声が雫に聞かれてしまったようで、どうすればいいのかと頭を抱える。


「あっ、ちょっと……もう、電話をしてる時はやめて」


「いやごめんごめん、背中見てたらついね。それはそうと、今日は瑞稀ちゃんいないんでしょ?それなら泊まってくよ」


 悩む私を励まそうとしてくれるのか、彼は私をそっと抱き寄せてそう言った。もう十年位はご無沙汰で、彼とも会えない日々が続いていたけれど、やはりこうして愛されるのは幸せだ。

 どうしてずっと会えなかったのかというと、彼との浮気(かんけい)元夫(あのひと)との離婚のきっかけになり、元夫が私と離婚し、彼に向けて慰謝料請求をしたからだ。


 元夫は雫たちのことを考えて、私に対しては慰謝料請求をしなかった。親権については裁判で争ったけど、今の法律上、母親である私が強行すれば親権を取られることはそうそうない。

 ただそんなゴタゴタがあって、彼とはほとぼりが冷めるまで会わないという話になった。


 そして雫が引越して数日後した頃、彼が私を訪ねてきたのだ。驚きはあったけれど、なにより私がまだ女であるということを思い出した。

 雫と瑞稀の事は心配だけれど、今だけはまだ彼の胸に抱かれるのもいいだろう。


「なぁ鎮香(しずか)、もう少ししたら俺たち、結婚しないか?」


「えっ……いい、の?」


「あぁ、鎮香が良かったらなんだけどさ」


 それは願ってもない話だった。子供たちのいる手前私からは言い出しづらく、それでももう一度彼と一緒になりたいという想いあった。

 今の私には相手もいないし、唯一の問題といえば瑞希だろう。雫は引越して家にいないし、今なら結婚を考えても問題ないはず。

 瑞稀にはちゃんと事情を話せば納得してくれるはずだ。


「どうかな?」


 考え込んでいた私に彼はもう一度尋ねる。私としては、断るなんて考えられなかった。

 年の差はあれど、それでも私たちの間には確かな愛があったんだ。


「嬉しい……よろしく、お願いします」


 喜びのあまり涙が溢れる。彼の気持ちが嬉しくて、思わず抱きついてしまう。

 まだ夜は始まったばかりだと、その喜びを噛み締めるように私たちは行為に耽るのだった。


 雫と瑞稀のことはすっかり忘れ、今の私は完全に女になっていたのだ。いずれ来る後悔も知らぬままに。



 ───────────



「そういえば、さっきからずっと女の匂いがする。もしかしてお兄ちゃん彼女できた?」


「だったらなんだよ、瑞希には関係ないだろ」


 ゆっくりしていると、いきなり瑞稀が変なことを言い出した。

 なにが女の匂いだ、妹に俺の色恋をとやかく言う資格はないだろう。そう思った俺はそうやって返した。

 いちいち触れられたくないんですよ、ほっといて貰えます?あなた得意でしょソレ。


「関係ないわけないじゃん。お兄ちゃんの彼女ってなら、私にも会う資格があるはずだよ」


「なんでや」


「だって、気になるんだもん」


 まぁ会うだけというのなら別に構わないが、変なことを言わないか心配である。まぁ何を言うんだよと言われてしまえばその通りなので、それは杞憂かもしれないが。


「まぁ機会があったらな」


「やった♪」


 いちいち否定を続けても面倒なので、そう誤魔化しておく。そんな意図など露知らず、瑞稀は嬉しそうに笑った。


 そんなこんなで寝る時間になった。だが、ここでまたも問題が発生する。

 俺と瑞稀、どちらが布団で寝るかだ。正直俺が布団で寝たいが、妹から布団を奪うのも気が引ける。

 そんな俺の悩みを他所に、瑞稀がきょとんと首を傾げた。


「一緒に寝るしかなくない?私のせいとはいえ、ずっと離ればなれだったんだもん……お兄ちゃんと一緒に寝たいな」


「いや引越す前に散々寝ただろ」


 いくら兄妹とはいえ、いい歳こいてここまでベッタリなどもはやネタだ。ってやかましいわ。

 それなのに瑞稀は俺の手を握って、お願い とねだってくる。めんどくせぇ。


「はぁ……仕方ない。分かったよ、一緒に寝てやるからもう寝るぞ。眠いんだ」


「やったぁ!お兄ちゃん大好き!」


 今更になって何を言っているのだと思ってしまうが、話も終わったしもういいだろ。



 そうして俺たちは同じ布団で寝た。瑞稀の鼻息がやけに荒かったがそれはそうとして睡魔に身を任せ、今日の疲れを癒すのだった。


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