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感情という錘  作者: 隆頭
第二章 噂

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二十八話 吹っ切れた元カノ

「なんで雫に構うのかな?キミのせいで、雫も瑞稀ちゃんも大変だったんだから、これ以上雫に構わないで」


 去っていく雫の背中を尻目に、私は彼女にそう告げる。名前は知らないのだけれど、顔だけは覚えている女の子。

 私がどの立場で言っているんだって話だけど、とはいえこの子が瑞稀ちゃんをいじめたせいで、それに激怒した雫がよりによって瑞稀ちゃんに怯えられてしまうという事態に陥ってしまった。


 そこからの雫は本当に見ていられなかったんだ。日に日に塞ぎ込んでいく彼が、あまりに痛々しく見えたから、あんまり彼と関わって欲しくない。


「そんなこと、海木原先輩に言われる筋合いなんてありません……先輩を捨てて他の男に乗り換えたくせに」


「そうだね、私が言える立場じゃないのかもしれないけど。でもね?雫が困ったりするのは見過ごせないよ、キミが雫にトラブルを持ち込むんだったら、私はそれをなんとしてでも止めるよ。それくらいしかできることがないからね」


 本当は雫を眺めてるだけでもよかったんだ。無理やりに関わるつもりもなくて、ただ雫と同じ空間にいて同じ空気が吸えて、この目に彼の姿を焼き付けることができるのならそれだけで幸せなんだ。

 付き合っていた頃の写真だって沢山あるし、それこそ雫のあんな写真(すがた)やこんな写真(すがた)だってある。直接触れることはできなくても、思い出はたくさんあるから。


 だから、できるかぎり彼に干渉することはしないようにしてた。でもそれを破って声をかけたのは、この後輩が彼に無理やり絡んでいたからだ。


 彼女が雫に声をかけているのは時たま見たことがあって、彼女が私を避けるように会っていたことも知ってはいる。その度に私がその嫌がらせの邪魔をしてはいたんだけど、ちゃんと話ができるのは今回が初めてであった。


「それに今、雫は私より良い相手を見つけて幸せにしてるの。これ以上その邪魔をするのは辞めて」


「そんなこと、あなたに言われたくないです。それこそ寺川先輩を嫌ってる人とエッチするような人から言われても、ただムカつくだけなんで」


「関係あるかな?私はただ雫に関わらないでって言ってるだけなの。私が軽田くんに抱かれたとかそんなの、雫には関係ないと思うけど?」


 彼女は言ってやった風を装っているけど、軽田くんとの事に関しては全て私の中で完結するべきことであって、それを雫との関係に持ち出されても違う話だ。雫だって思い出したくないだろう。


 まるで気にしていない私の態度に彼女は うっ…と後ずさった。


「もう雫のことはそっとしといてあげて、いい?」


「そんな、こと……うぅ……」


 彼女は苦虫を噛み潰したような表情をしつつも、何も言い返せないでいる。そんな彼女を無視して、私は踵を返した。

 雫は無事に帰ったようで、既に姿はなかったので一安心。少しは彼の役に立てたかな?




 家に帰って自分の部屋に入り、荷物を置いてスマホを開く。映るのは、雫と付き合っていた時の写真たち。

 デートの時の横顔や、ふと微笑んだ時の写真に、あくびをしているときの可愛らしい写真。

 色々あるけれどやっぱり私のお気に入りは、雫のヤラシイ姿の写真だ。私と行為をした時に撮った、一人で "使う" 用のもの。

 初めてした時の写真はないけどね。


 スマホをスワイプしながら、いくつもの写真を眺めていると段々と身体が疼いてくる。自然と利き手が胸に行き、口から自然と出るのは彼の名前。


 諦めはしたし、変に干渉するつもりもない。でも、せめて想うくらいは良いよね?受け入れて欲しいなんて、応えて欲しいだなんて、そんな我儘は言わない。

 ただ、私の一方的な気持ち。


 一度だけ、私は軽田(どうでもいいひと)に抱かれはしたけれど、心までは捧げていないし、何より下手にも程があった。雫に対し、人としても男としても価値の小さい男。

 モノも経験も大した事のない彼は、徹底的にこき下ろしただけで、それだけで涙目だった。雫とは比べ物にならないほど、情けない人。


 どこまで行っても、私には雫しかいなかったんだって、そう再認識するばかりの日々。疼く身体に身を任せ、私は一人の時間に耽っていくのだった。


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